【六十四】かるた練習会!その二 七月三十日
神聖女学園かるた部の部室では、徳田康代が宝田劇団の夜神たちにアドバイスを始めた。
『最初は、一枚の札を取るのを目標にしましょう。
ーー 唐木田部長、畳のかるたの置き位置に八十七センチ幅で、
ーー 養生テープを貼って上げてください。
ーー 幅の間隔が分かると思うわ』
唐木田葵がメジャーを伸ばし確認した。
「机くらいの幅かな」
夜神だった。
「徳田さん、こんな感じでいいですか」
『いいと思うわ。ありがとうございます』
森川楓副部長が徳田の説明を補足する。
「じゃあ、札を掻き混ぜてから、
ーー 二十五枚の札を左右均等にテープ幅に並べてみてください。
ーー そして、三段にしてね。
森川は、宝田劇団の参加者に丁寧に説明を続ける。
「自陣札と敵陣札の間は三センチ離してください。
ーー そして自陣札の間は一センチ離して置きます。
ーー 払う手は、片手のみですから両手は使えませんので、よろしくお願いします
ーー 並べ終えたら、自陣札と相手札の暗記時間は十五分あります」
徳田康代が森川の説明に続く。
『あと夜神さんたちは、一字決まりの札の下の句の札、
ーー いづくもおなじ、ゆめのかよひぢ、われてもすゑに、
ーー むべやまかぜを、ただありあけの、きりたちのぼる、くもがくれにし、などが・・・・・・。
ーー 敵陣にあるか自陣にあるかを見つける練習をしてみてください』
「徳田さん、三枚あるわね」
夜神だった。
『じゃあ、夜神さんのところは四枚が空札になる計算ね』
朝川さんのところ同じ枚数だったが、赤城と大河原の組には四枚あった。
掻き混ぜにも運が働いている。
朝川が呟く。
「なるほど、そういうことか」
『唐木田さん、森川さんありがとうございます。
ーー 練習を始めましょうか』
唐木田と朝川、徳田と夜神、姫乃と赤城、和泉と大河原の四組の対戦カードが組まれる。
仕切り直して、四組の暗記時間が終わった。
改めて、森川副部長が序歌を詠み上げた。
「なにわずに さくやこの 花冬ごもり
いまを春べと 咲くやこの花・・・・・・」
「いまを春べと 咲くやこの花」
下の句のあとで、
「さびしさに・・・・・・」
一字決まりが詠み上げられたが、空札だった。
「いづくもおなじ・・・・・・」
前の下の句のあとで、次の上の句が詠まれる。
「よのなかは・・・・・・」
五字決まりも空札になった。
「あまのをぶねの・・・・・・」
前の下の句のあとで、次の上の句が詠まれる。
「こころあてに・・・・・・」
四字決まりも空札になる。
「おきまどはせる・・・・・・」
前の下の句のあとで、次の上の句が詠まれる。
「ちぎりおきし・・・・・・」
再び四字決まりが空札。
練習とはいえ、立て続けの空札で、宝田劇団の参加者は拍子抜けしていた。
「あはれことしの・・・・・・」
前の下の句のあとで、次の上の句が詠まれる。
「ちはやぶる・・・・・・」
唐木田、徳田、姫乃、和泉の手が同時に動き、札が空に舞う。
アニメ[千早無双]のお宝札だった。
約九十分の練習会が終わり、夜神が徳田に声を掛ける。
「徳田さん、明日もよろしくお願いできますか?」
『しばらくは、ご一緒しましょう。
ーー 慣れたら、対戦相手を変えるといいですね。
ーー あと、毎日、決まり字の練習をするといいですが・・・・・・』
徳田は、夜神を見ながら閃いた。
『百人一首のガイドには書いてありませんが・・・・・・。
ーー 決まり字の本が販売されています。
ーー じゃあ、カフェに行くついでに、書店に寄りましょう』
徳田と夜神たちは、学園の地下通路から、ショッピングセンターに移動して書店に到着した。
徳田が棚から一冊を手に取り、夜神に見せた。
「ええ、決まり字の暗記の本なんて凄いわ」
夜神が言った。
『もう大昔の本ですが、ロングセラーになっていますね』
「しかも、めちゃくちゃ安いじゃありませんか」
『夜神さんたちは、政府の決済カードをお持ちですか』
『ここは、現金が使用出来ませんので』
「大丈夫です。宝田にいた時に発行してもらっています。
ーー 多分、劇団員も生徒も、持っていると思います」
夜神が決まり字の本を手に取ると、朝川、赤城、大河原も続き、会計に向かう。
精算が終わりエスカレーターで最上階のカフェに移動した。
宝田劇団の生徒が既に大勢いて、夜神たちも驚く。
「慣れるまで、生徒たちも観光気分ですね」
『夜神さん、みんなが楽しく過ごせるのが一番ですから、嬉しいですね』
「康代殿、先に行くでござるよ」
静女が先頭でテーブルに案内される。
『静女、早いわよ・・・・・・』
「拙者は若いでござるよ」
夜神たちが、くすくすと笑い出す。
「拙者、なんか変なこと言ったでござるか」
「静女さん、だって面白いのよ」
【七月三十日】
神聖学園都市の空中浮遊自動車専用発着滑走路に何台もの浮遊タクシーが着陸している。
宝田劇団の生徒二十名が分乗している。
豊下秀美と明里光夏は、学園の表玄関前でタクシーの到着を待っていた。
予定時刻にタクシーが到着すると豊下は、運転手に学園寮の茶色の土の棟の前で下ろすように指示を出す。
生徒たちがスーツケースを下ろして玄関前に並んだ。
朝川と夜神たちが出迎えている。
豊下と明里が、やや遅れて玄関前に到着した。
棟の間取り図と鍵が生徒たちに渡される。
この日の第三陣の生徒の入居で生徒が六十名になった。
まだ生徒二十名と劇団員四百名とスタッフは宝田で転居を待っている。
部屋の割り振りは、抽選方式で決められた。
「私は、十二階の西二十五号室よ。
ーー 部屋番号は、西一二二五よ」
「私は、八階の東十二号号室だから・・・・・・。
ーー 東〇八一二になるわ」
生徒たちが友達に部屋番号を伝え合っていた。
朝川、夜神、赤城、大河原には、生徒会と徳田の判断で四階の二部屋が、それぞれに無抽選で与えられていた。
後に、生徒たちから大スターフロアと呼ばれる。
幹部やスタッフの部屋は三階が予定されていた。
茶色の土の棟の十六階には大きなラウンジがあり、地下一階と地上一階には学園寮食堂がある。
「夜神さん、スタッフが遅いと困るわね」
朝川が夜神に小声で言った。
「朝川さん、じゃあ、半分だけ、
ーー 早くしてもらうように連絡しますね」
夜神は、宝田に連絡してスタッフの転居を早くするように連絡したあと、豊下に伝えた。