【六十一】宝田劇団の移転その一 七月二十八日
安甲晴美かるた部臨時顧問は、白波女子高校のかるた部の顧問に連絡を入れた。
安甲は、団体戦決勝戦のあとで、ホログラム携帯番号を交換している。
由良道江が、黒髪のセミロング姿だったことを安甲は思い浮かべた。
背丈も普通くらいで安甲より三歳年下の三十歳と聞いている。
「安甲ですが由良先生の携帯ですか」
「はい、由良です」
「その節は、お世話になりました」
「こちらこそ、お礼をと思っていました」
「突然で申し訳ありませんが、お願いがありまして」
「何でしょうか」
「八月の処暑の日に、神聖女学園で校内かるた大会を開催します。
ーー 是非、白波女子高のかるた部のみなさんにご参加をお願いしたいのですが・・・・・・」
「そうですね、是非、参加したいのですが・・・・・・。
ーー 部員に打診してスケジュールを確認しないと分かりませんので・・・・・・。
ーー 後日、こちらからご連絡を致しますが、如何でしょう」
「由良先生、ありがとうございます。
ーー ご連絡をお待ちします」
安甲は電話を切った。
安甲晴美は、神聖神社の境内を歩きながら、当面のスケジュールを考えていた。
前から明るい色のワンピースの女性が二人歩いて来る。
「安甲先生、こんにちは」
「あら、田沼先生と若宮先生」
田沼光と若宮咲苗は、研究の傍で神聖女学園の臨時教師をしている。
「研究の方は如何ですか」
「あまりよくありませんが・・・・・・。
ーー 難しいところですね」
「なんとか、この世界が持つといいのですが・・・・・・。
ーー 万に一つの奇跡を期待して、毎日二人で参拝しています」
田沼が言った。
「そうですね、皇国の八百万の神々のご加護に縋るのが賢明ですね」
「安甲先生、では、失礼します」
夏休みの生徒会執務室では、徳田大統領の重鎮が集合している。
「康代さん、夜神さんと朝川さんから、連絡がありました」
『秀美さん、転居の件ですね』
(※徳田康代大統領の会話は『二重鉤括弧』で表示しています)
「はい、最初に、朝川さん、夜神さん、赤城さん、大河原さんの四名が先に入るそうです」
『元大スターと現役の大スターですね』
「そのあとに、劇団の生徒八十名が七月末までに転居する予定と聞いています」
『生徒より前に入るのは流れとして自然ですね』
「八月に入ると劇団員が次々と入居するそうです」
秀美が報告した。
『女学園に美女降臨ですね』
「康代さん、東都の新都市に宝田劇団本部は凄いですね」
前畑利恵だった。
『利恵もそう、思うの』
「そりゃあ、女子高校生の憧れの宝田劇団ですからね」
康代は、明里光夏を見た。
『光夏さん、大講堂のスケジュール管理は大丈夫ですか』
「はい、生徒会の協力で、上手く行っています」
『あそこは、大ホールと小ホールの他に中ホールもありましたね』
「地下の中ホールは、あまり使われていないようです」
『じゃあ、夜神さんと朝川さんに、練習で使用する舞台も打診してくださいね』
「大ホールは、神聖女学園が貸し出すことがあるのでブッキングは早い方が良いかも知れません」
『宝田の秋の公演のブッキングも抑えてくださいね』
「じゃあ、そのスケジュールも踏まえて調整します」
織畑信美に康代は尋ねた。
『信美、処暑に校内かるた大会を開催するので武道場の予約をお願いしますね』
「康代さん、次は頑張りますよ」
『じゃあ、信美の相手は白波女子高ね』
「康代さん、それは狡いです」
『そう、弱い人と対戦してもレベルは上がらないわよ』
織畑信美は長い黒髪のポニーテールを弄りながら苦笑いしている。
「じゃあ、白波女子にします」
信美のあと前畑利恵に康代は依頼する。
『そうね、くじ引き次第ね。
ーー 利恵、トーナメントのくじ引きを作ってくれる。
ーー 多分決勝トーナメントは、六回闘うわ。
ーー 校内予選は、その前にしましょう』
「康代さん、校内予選を勝たないと
ーー 決勝トーナメントで白波女子とは闘え無いのですか」
秀美が疑問を康代に言った。
『そうね、先方のかるた部は神聖とは規模が違うから何人になるか分からないわね』
「康代さん、秀美もかるたに是非参加したいのですが」
『秀美さんの自由よ。
ーー 秀美さん、ところで、夜神さんと朝川は、いつ転居されるの』
「ちょっとずれて七月二十八日ごろと思います」
『今日は、二十七日よ。
ーー 明日じゃあない。茶色の棟の受け入れ準備大丈夫かしら。
ーー 光夏さん、生徒会と一緒にお部屋の鍵と間取り図を準備してください。
ーー 秀美さんは、夜神さんに連絡して最終調整よ』
康代は次々に指示を与えた。
『利恵と信美は学園都市の受け入れ確認ね』
夏休みの生徒会室は急に慌ただしくなった。
「はい、夜神ですが、豊下さんですか」
「夜神さん、こちらに到着は何時ごろですか」
「明日の午後くらいには到着出来ます。
ーー 明日は、私たち四名と生徒二十名で合計二十四名です。
ーー 第二羽畑空港から空中浮遊タクシーでそちらに向かいます」
「分かりました。着陸滑走路の管制塔にも連絡しておきますね。
ーー 大きな荷物など、ありますか?」
「それは、後日、遅れて皇国の配送システムが届けてくれる手筈になっています」
「夜神さん、じゃあ、お気をつけてお越しください」
「豊下さん、お世話になります」
翌日、七月二十八日の午後。
徳田康代大統領と関係者は、宝田劇団の第一陣の到着を神聖女学園の玄関で待っている。
夜神紫依舞台監督、朝川夏夜劇団本部責任者、赤城麗華、大河原百合を乗せた空中浮遊タクシーが学園玄関前に到着した。
朝川が最初に降りて、夜神、赤城、大河原が降りた。
生徒たちは別の車に分乗して後から到着する予定だ。
「徳田さん、ご無沙汰してます」
『朝川さん、ようこそ、神聖学園都市に』
「そして、お世話になります」
『朝川さん、宝田劇団は新政府の宝ですから、あまり気になさらないでください』