【四十七】競技かるたは決まり字でござる!
徳田康代たちは、短歌のグループにも注目している。
短歌のグループは、神聖女学園の体育館に集まっていた。
壇上では、前畑利恵副大統領が作家の近江千夏を紹介している。
「今回の企画の共催の出版社の責任者で、作家の近江千夏先生をご紹介します」
アイボリーの花柄のワンピースで壇上から挨拶している近江千夏は、黒髪にセミロングですらっとした美人タイプで背丈は一七〇くらいだった。
神聖女学園の女子高生の平均身長と変わらないが三十歳になる。
体育館は生徒たちの熱気で体感温度が上昇していた。
「みなさん、こんにちは。
ーー ご紹介を頂きました作家の近江千夏と申します。
ーー 隣の武道場では、百人一首のかるたの説明会が開催されています」
近江はゆっくりと話した。
「みなさんは、かるたの短歌にあたる和歌を作ります。
ーー 五七五七七を聞いたことがあるでしょう。
ーー 俳句との違いは、細かなルールが無く自由に書けます。
ーー みなさんは、コンテストの中でいくつもの和歌を書いて応募出来ます」
近江は時より額の汗をハンカチで拭いている。
「書きたい和歌を心向くままに、いくつでも書いて見てください。
ーー 私は、一日一善の代わりに、一日一首を書いています。
ーー 一年で三百六十五首になります。
ーー 毎日の思いを日記のように書き記すだけです」
近江は小倉百人一首の本を見ながら説明を続けた。
「百人一首の有名な歌は、・・・・・・ですが、みなさんは自由です。
ーー 短歌コンテストは、偏り防止のため、トーナメント方式を採用します。
ーー 選考方法は大会終了まで作者名を非公開とします。
ーー 相互評価の公平さを維持するため途中経過をも非公開にします」
近江の説明が続く。
「トーナメント通過者の登録番号が毎日発表される仕組みです。
ーー 日程は約三週間ですが予備日を含みます。
ーー 日程の詳細は、大会本部から後日に発表されます」
女子高生たちは、近江さんの説明のあとで、和歌に挑戦した。
かるたグループと違い、めらめら燃え上がる活気は無く、音のない世界が広がっている。
一方、武道場では、競技かるた初心者がかるた手引きを片手に初稽古に挑んでいた。
安甲先生が一字決まりの上の句を生徒たちに知らせた。
「みなさん、五字決まり二枚、大山札六枚を学習していると思いますが、
ーー 一字決まり、七枚を追加して、十五枚は丸暗記してください。
ーー 一字決まりの上の句の七枚よ・・・・・・」
安甲の大きな声が武道場に響いている。
「・・・・・・『さびしさに』、『すみのえの』、
ーー 『せをはやみ』、『ふくからに』・・・・・・。
ーー 続いて、『ほととぎす』、『むらさめの』、『めぐりあひて』が上の句ね」
安甲は続けた。
「対応する下の句は、『いづくもおなじ』、『ゆめのかよひぢ』、
ーー 『われてもすゑに』、『むべやまかぜを』・・・・・・。
ーー 続いて『ただありあけの』、『きりたちのぼる』、『くもがくれにし』が対応する下の句よ」
女子生徒たちは、かるたの手引きに、ペンで印を入れながら、笑っていた。
「ねえ、ほととぎすとか、くもがくれとか、なんか覚えやすいかも」
「めぐりあいてなんか、ラブコメみたいよね」
「ねえ、『せをはやみ』ーーって何」
「川の流れの早いって意味でござるよ」
静女が珍しく、生徒にアドバイスして自慢している。
「ありがとうございます」
『静女、優しいわね』
「静女は普通でござるよー」
徳田康代と天宮静女は、織畑信美に誘われて、かるたグループを見学している。
『みなさん、熱心だから、意外に期待できるかもね』
唐木田葵は、初心者のグループには参加せずに、安甲先生のサポートをしている。
『唐木田さん、今日はしないのですか』
「徳田さん、私が参加したら、ちょっとまずいですから、練習会をサポートしています」
『ありがたいことですわ』
「拙者も同じでござるよー」
『静女は相変わらず、お茶目なのね』
女子生徒たちが手にしているカルタの手引きには、百首と意味がすべて書かれている。
たった百首でも、暗記して瞬間的に反応するのには訓練が必要だった。
「大昔、アニメになった『ちはやぶる・・・・・・』は上の句で、
ーー 下の句は『からくれなゐに・・・・・・』になるのね、
ーー 人気札は、みんなが狙っているから、取手の技と運なのよ」
『カルタって、ある意味、凄く奥の深いゲームですね。
ーー 千人でも、それ以上でも、参加は可能ですから』
康代は、明里光夏に連絡を入れて、『かるたアニメ』の再配信を依頼した。
康代は、かるた、短歌、アニメの三本の企画で国民の意識エネルギーの流れを調整していた。
『光夏、どうだった、アニメありましたか』
「凄い反響で、今も密かなブームになっていました」
『それで、凄い反響とは・・・・・・』
「今回の競技かるたの企画で再燃焼したようです」
『それは、嬉しい誤算ね』
『光夏、他に用意できるアニメは、どのくらいありますか』
「一年掛かっても全部は見れないでしょう」
『でも、負のエネルギーを拡大する内容のアニメは除外してくださいね』
「少女漫画を中心に、スポーツアニメなどを展開しています」
『そうですか。それなら良いですが』
神使のセリエがテレパシーで康代に呼び掛けた。
「康代よ、どうかにゃあ」
『はい、セリエさま、順調です』
「それならいいが、地球の神隠しはまだまだ続いているようにゃあ。
ーー 康代たちは、無視して皇国の民を楽しませることに専念するとよいにゃあ。
ーー 新しい時代を作るためににゃあ」
『ありがとうございます。セリエさま』
徳田康代大統領には、神使セリエが伝える新しい時代の意味が分からなかった。
皇国は変わり、世界は消えようとしているのに・・・・・・。
まだ、何かあるのかと思ったが考えないことを康代は選んだ。
『起きてもいないことを考えるだけエネルギーの無駄ね。静女』
「康代殿の仰る通りでござるよー」
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三日月未来