【四十六】武道場で競技かるたでござる!
明里光夏大統領補佐官は、神聖女学園の校内放送で全国短歌コンテストと全国かるた大会の開催を発表した。
各入賞者には記念品と旅行がプレゼントされる。
短歌の募集期間は、約一カ月で有名出版社が共催することになった。
かるた部門は競技かるたのしきたりに従い、各地で予選と決勝が実施される。
上位が近江の全国大会の本選に出場する事になる。
本戦会場は近江の皇都にあるかるたの聖地となった。
全国大会本戦も予選と決勝に分かれている。
「かるた部の臨時顧問になった阿甲晴美だ。よろしく頼む」
男口調での挨拶だった。
陰陽師の安甲晴美古典教師は徳田康代の依頼を受けてから目の色を変えた。
安甲はかるた三昧の時間を過ごしていた。
さすがに元、かるた大会の優勝経験者の動きは素早く素人には見えない速さだ。
かるた部の部長も驚きを隠せない。
「唐木田葵さんだったかな。
今度、神聖の武道場を借りて校内競技かるた大会をしましょう」
「先生、素敵ですね」
「じゃあ、生徒会長にお願いしておくね」
「先生、よろしくお願いします」
「その前に、私と肩慣らしをしませんか」
「先生とじゃ、勝負になりませんよ」
「ウオーミングアップは大切よ」
「じゃあ、先生、お手柔らかに」
「じゃあ、そこのあなた読手をしてください」
安甲は近くにいた部員を指名した。
競技かるたには、空札がある。
素人は、空札に反応してお手付きを繰り返す。
安甲のレベルになるとミスは殆どない。
つまり、ミスによる自滅に期待出来ないのだ。
安甲は肩慣らしのあとの夕方、学園寮の食堂で徳田康代と夕食を共にしていた。
「さっきね、かるた部に挨拶して来たのね」
『安甲先生は、行動が早いですね』
「そこで、全国かるた大会が始まる前に神聖女学園も校内大会を企画して欲しいのよ」
『もしかして選抜チームを考えていませんか』
「そうね、神聖なら原石が隠れているような気がしてならないのよ」
『安甲先生が、そう仰るなら、
ーー 意外とその通りの可能性があるかも知れませんね』
ーー あまり時間ないかも知れませんから、それもあれも含めて急ぎましょう』
結局、全国かるた大会の全国予選の前に、経験者を中心に校内かるた大会が学園の武道場で開催されることになった。
学園内は、かるた派と短歌派の二つに分かれてそれぞれが精進した。
信美と利恵は、全国生徒会会議からの連絡を受けて、かるたと短歌への参加を確認していた。
秀美と光夏は、アニメ配信に向けた準備をほぼ終えている。
国家規模の時間の争奪戦が密かに始まった。
ニュースを隠すのでなく意識を別へ向けさせる戦略だ。
意識を夢中にさせる方法が重視される。
不安と恐怖から国民の心を引き離すのが目的だ。
康代たちは、希望者を募って武道場で説明会を開いた。
かるた部臨時顧問の安甲晴美が説明を始めた。
「百人一首のかるたには競技かるたがあります。
ーー みなさんが挑戦するのは競技かるたです」
安甲は続けた。
「みなさんは、百枚のかるたから自由に選んだ二十五枚を自分の陣に並べます。
ーー そして、かるたが無くなるまで取り合いの競争をします。
ーー かるたが先に無くなった人が勝ちとなります」
更に続けた。
「やり方は・・・・・・。
ーー 読手が上の句を読み上げます。
ーー 取手であるみなさんが読み上げた句の下の句を取りに行きます。
「先生、上の句と下の句をどうすればいいんですか」
生徒が質問した。
「暗記します。
ーー 上の句が分からないと、下の句を選ぶことが出来ません」
安甲の説明を生徒たちは聞いている。
「慣れたら、決まり字を聞いただけで分かるようになります」
「決まり字って何ですか」
生徒が質問した。
「たとえば一字きまりなら枚数も限られていているけど・・・・・・。
ーー 三字決まりの場合、枚数も多く、上の三字を聞くまで選べないのね」
安甲の詳しい説明が続く。
「上の句が、『むらさめの・・・・・・』と始まったら、
ーー 『む』の一字決まりよ。
ーー その場合の、下の句は、『きりたちのぼる』で始まるけど、
ーー 『き』の札を見た瞬間にわかるの」
安甲は、決まり字を説明する。
「決まり字には、
ーー 一字決まり、二字決まり、三字決まり、四字決まり、五字決まりがあるの。
ーー 細かく分けると、上の句の決まり字に対応する、
ーー 下の句の決まり字もあるのよ」
安甲は具体的に説明した。
「五字決まりの上の句は、二つだけで、『よのなかは』と『よのなかよ』で・・・・・・。
ーー 下の句は、『あまのをぶねの』と『やまのおくにも』がそれぞれに対応ね」
大山札の説明を安甲が始める。
「次に、六字決まりの札を“大山札”と呼ぶのよ。
ーー 大山札は、六枚あって、三種類よ。
ーー たとえば、大山札の上の句の、
ーー『あさぼらけ』、『きみがため』、『わたのはら』はね。
ーー それぞれ、二枚ずつあるのよ」
「先生、それじゃ、七字目を聞かないと選べないんですか」
生徒が言った。
安甲は生徒を見ながらかるたを見せながら説明している。
「それでね、上の句が“朝ぼらけ有明の月と・・・・・・”で、
ーー 下の句が“吉野の里に”に決まるのよ。
ーー もう一つの、“朝ぼらけ宇治の川霧・・・・・・”は、
ーー 下の句が“あらはれわたる”なの」
安甲はて短く生徒に伝えた。
「百首を全部暗記して理解していないとゲームにならないのよ。
ーー そこで、決まり字でショートカットするのね。
ーー でもね、自陣と敵陣に出ていない空札の五十枚も意識しないとお手付きをしてしまうのよ。
ーー とにかく、暗記を競うゲームなのね」
「先生、それじゃあ、超人ゲームじゃありませんか」
「普通のかるたなら問題ありませんが、
ーー 競技かるたは、慣れたら面白いわよ。
ーー ひとりかるたもできるわよ」
陰陽師安甲晴美先生の競技かるたの説明を、明里光夏大統領補佐官がネットを通じて配信していた。
女子高生支部と全国生徒会会議を中心に拡散された。
「今日は、ゆっくりで良いから手始めをしてみませんか。
ーー じゃあ、先生が読手するからみなさんは取手をしてみてください」
信美たちの活躍でかるた三百セットが用意されていた。
広い武道場も沢山の女子生徒で溢れている。
安甲は、グループを前半と後半の二つに分けて始めた。
残ったグループは、武道場の控え室などで待つことになる。
生徒たちは、生徒会から渡されたかるたの手引きを見て、それぞれが暗記をした。
後半グループには、予習時間が出来たのだ。
と言っても、練習日の初日に大差はない。
康代たちの目的は初日から達成されたのと変わらない。
生徒たちの意識が別方向に傾け掛けているからだ。
「かるたが始まるでござるよー」
静女も興味を示した。