【四十四】世界は神さまの手のひらの中で
田沼光博士と若宮咲苗助手の退行催眠で分かったことは、アトランティスと西和の事件が同じ流れにあることだった。
並行世界の魂救済のフィルターは、魂の自浄作用で動く転移魔法だった。
西和大陸の砂時計は、あまり残っていない。
並行世界の神は善人の魂の救済を優先した。
地球の神は、皇国の守護を宣言して方舟計画をセリエに任せている。
徳田康代たちは、田沼光先生と若宮咲苗先生を交えて、ショッピングセンターのカフェに移動した。
徳田大統領の接待用のカフェになっていた。
『安甲先生、田沼先生、若宮先生、本日はご協力を頂きありがとうございます。
ーー みなさんのお陰で西和大陸での超常現象の目的が分かりました』
陰陽師の安甲晴美が口を開く。
「まさか、大掛かりな転移魔法を魂別にしていたなんて流行りアニメのチートレベルに驚きました」
『静女以外の転移魔法なんて想像したこともありませんわ』
「並行世界と地球の間の次元間転移魔法ですね」
『加えて別の国に転移させていますから驚きです』
「そうね。並行世界を地球のバイパスにして別の場所に転移なんて神技です」
「いやそれーー 本物のカミワザでござるよ」
田沼と若宮は、話がさっぱりわからない様子で口を挟む。
「それ、マジな話ですか」
「そうよ、マジね」
安甲が答えた。
「田沼先生と若宮先生の退行催眠で分かった真実よ」
「それが、どう関係するのかが想像出来ないのですが・・・・・・」
安甲先生が口調を荒々しくして答える。
「鈍いわね、あなた。
ーー 今、西和大陸で何が起きているか知っている」
「人間消失事件ですか」
「そうよ、田沼先生たちは、アトランティス時代にそれと同じ光景を見ているのよ。
ーー そして、田沼さんも若宮さんも転移して助かったのよ。
ーー つまり、西和で起きていることとアトランティスは同じ現象なの」
康代が口を開いた。
『田沼先生たちには覚醒後に断片しかお伝えしてないけど・・・・・・。
ーー 安甲先生が仰る流れが重要なの。
ーー 私たちは、皇国以外の人間を救済することは出来ないのよ。
ーー 巨大な津波から国と国民を守るのが精一杯なの』
康代は言葉を切りながら続けた。
『でもね・・・・・・。
ーー 田沼先生のアトランティスの前世記憶が私たち人類に希望を与えたの』
「どういうことですか」
安甲先生が口を挟む。
「本当、鈍いわね。康代が希望と言ったじゃない」
「でも、意味がわからない」
「アトランティスと西和の事件は同じパターンなのよ。
ーー アトランティスでの人間消失事件。
ーー 西和大陸での人間消失事件」
安甲が声を荒げながら続ける。
「田沼先生はどう考えるの。田沼先生はどうなったの。
ーー 転移して、生き延びたのよね。
ーー 西和大陸の人間消失事件は、おそらく神さまの転移魔法よ」
「なるほど」
田沼の囁く声。
「田沼先生、左脳思考もほどほどにして右脳を活性化してみたら」
アセリアの神使のセリエが黒猫の姿で現れた。
スキルを付与された者以外には見えない。
『セリエさま、聞こえましたか』
「そうじゃ」
「アトランティスと今回も、並行世界の神の救済が動いているのじゃよ」
「西和大陸のどっち側が沈没しても巨大地震と巨大津波になるじゃろ」
『どのくらいですか』
「マグニチュードは計測不能レベルじゃ。
ーー 津波は最大で数千メートルを越えるようじゃ。
ーー 火の神が蒸発させようかと頑張っているが無駄じゃ。
ーー 西和大陸は殆どが消えるじゃろが、他の大陸にも大津波が押し寄せるのじゃよ」
セリエの声も大きい。
「並行世界の神は、西和以外の魂救済をも進めているようじゃ。
ーー 世界は人間消失事件で大混乱しているじゃろう。
ーー 消失せずに残った魂たちは神の魂フィルターに拒絶された者たちじゃ。
ーー 皇国を除いて残った人間には中間世界の裁きの庭が用意されているようじゃ」
『皇国以外の人たちで、転移出来た人だけが生き延びることができるのですね』
康代がセリエに質問した。
「康代、並行世界の神さまは、とても優しい神さまじゃからの」
神使セリエは消えて光になった。
『静女、セリエさまはいつも黒猫の姿なのは何でしょう』
「神さまも、その神使も変幻自在でござるよー」
「セリエさまの好みが黒猫なのでござるよー」
『じゃあ、静女みたいに女子生徒に変身も出来る訳ね』
「誰かの分身変身も出来るのでござるよー」
『さて、これからが大変ね』
「世界中が騒ぎ出すでしょう」
『安甲先生、皇国と別の次元の方舟計画ね』
「ある意味そうかも知れないわ」
夕方、学園寮食堂では女子生徒たちが興奮して話している。
「西和の人間消失事件が拡大しているそうよ」
「北和、中和、東和、南和にも拡大しているそうよ」
「人間だけじゃないのよ」
「馬や牛、豚、鶏までが消えて、ペットの消失も報告されているわ」
「それ、マジなの」
「こんなこと、冗談で言える訳ないじゃ無い」
「めちゃくちゃヤバイじゃない」
「皇国は大丈夫なの」
「そんなことわからないわ」
「でもね、皇国は八百万の神々に守られているわ」
「そうね、皇国には、神に仇をなす不敬な輩はいないわね」
女子生徒たちの井戸端会議に終わりは見えていない。
真夏の太陽はまだ高く、食堂の窓を照らしていた。
神使セリエは、ネットニュース配信の妨害を皇国の神々にお願いした。
セリエは、人間の不安拡大を抑制させることに専念している。
「アセリアさま、人間どもは厄介な生き物でございます」
「セリエの言う通りじゃよ」
「地球から見れば、人間と蟻も大した違いがないことを学習していない」
「人間のエゴが特別と勘違いをしているから不思議じゃなあーー セリエよ」
「はい、アセリアさま」