【四十三】退行催眠で発覚した転移魔法?
神聖神社の神主であり古典教師の陰陽師安甲晴美は、生徒会執務室で徳田康代を待っていた。
しばらくして、部屋の扉の開閉音が聞こえ安甲は振り向いた。
康代と側近の天宮静女に大統領キャビネットのメンバーもいた。
『安甲先生、早いですね』
「ここは、仕事をサボる大義名分になるから便利だ」
『先生の憎まれ口が始まった』
「田沼たちは、まだかな」
『もうじき、見えると思いますが』
「さて、今日はーー 何が出るのかーー」
生徒会メンバーが、田沼と若宮の来訪を知らせに来た。
『お通ししてください』
「あら、安甲先生も見えていましたか」
「田沼先生、お元気ですか」
「お陰さまで何とか」
『田沼先生、お茶は、どうされますか』
「冷たいので」
康代は、生徒会メンバーにお茶をお願いした。
『田沼先生、若宮さん、どうぞそちらに』
静女は、窓際の小さなソファに腰掛けた。
康代と安甲は、静女の近くにある大きな青いソファを選んだ。
安甲晴美が喋り始めた。
「今日はね、田沼先生の退行催眠をさせて頂きたいの」
「安全ですか」
「心配ないわ。記憶の覚醒ですから」
「それ、大丈夫ですか」
「大丈夫よ。すぐ消えて忘れるから」
「今と何が違いますか」
「そうね。前世記憶はあっても鮮明じゃないでしょう」
「はい」
「その点をクリアにします」
「はい」
「若宮さんは、こちらのソファに移動してください」
安甲の言葉に従って、若宮が移動する。
「田沼先生は、その大きなソファに横になってください」
「じゃあ準備が出来ましたので、田沼先生から始めましょう」
前世にアクセスする退行催眠が始まった。
「アトランティスの記憶は覚えていますか」
「はい、アトランティス暦十万二千年のカレンダーが見えています」
「大陸が沈没した年ですか」
「沈没したのは、もっとあとのようです」
「何が起きていますか」
「地震です」
「それだけですか」
「噴火も起きています」
「他に何かありますか」
「人と車が空を飛んでいます」
「他には」
「月が二つあります」
「あとは」
「小さい方の月が地球に大接近しました」
「どうなりました」
「火山が次々に大噴火して巨大地震が起きています」
「地震は、どのくらい続きましたか」
「約十年です」
「他には」
「人が消える事件が頻繁に起きました」
「あなたは、何をしていましたか」
「地震研究です」
「当時の科学と今は、同じレベルですか」
「比較になりません」
「どう言うことですか」
「アトランティス時代の方が遥かに上です」
「あなたは、その時代の科学者だったのですね」
「はい」
「あなたは、助かりましたか」
「並行世界に転移させられました」
「そのあとは、どうなりましたか」
「私と転移された何人かはエジプトに再転移して助かりました」
「あなたは、エジプトで生涯を終えましたか」
「はい」
安甲晴美が田沼の前で指を鳴らした瞬間、田沼の意識が戻り、若宮が横になった。
結果は、田沼とほぼ同じだった。
若宮は前世でも田沼の助手をしていた。
「徳田大統領、田沼先生と若宮さんの前世記憶がはっきりしました」
『そうね、アトランティス人の前世ね』
「今回の西和の人間消失事件と田沼先生の前世が・・・・・・」
『そうね、同じパターンね』
「思ったよりも早く始まっていそうね」
『神々の準備が早くなっているのでしょうか』
地球の守護神の神使セリエが黒猫の姿で現れた。
「どうじゃったかな、康代」
『セリエさまのお話通り、二人ともアトランティス時代の前世保有者でした』
「で、並行世界に転移出来たのじゃな」
『はい』
「ただならぬ違和感はアトランティス由来じゃとわかっても、しっくりせぬのじゃ」
「二人の魂を覗いて見るか」
田沼と若宮の顔色がみるみる青ざめている。
『セリエさま、あんまり驚かせないでください』
「覗くだけじゃから痛くも痒くもないのじゃ」
『セリエさま、女性に覗くは・・・・・・』
康代は、言葉を切った。
「もう終わったのじゃあ」
「この二人はアトランティスの天災に関わっていないのがハッキリしたのじゃよ」
『皇国に転生されていますから問題無かったのでしょう』
「そうとも言えないのじゃ」
「多くの人間たちは、目先の欲望に惑わされて魂の汚れに気付かないのじゃよ。
ーー 永畑の犠牲者の多くも墓穴に気付くことなく地獄門に行き着いたのじゃ。
ーー この二人は、康代たちから放たれる目に見えない光を浴びているのじゃ。
ーー その結果、ギリギリで魂の自浄作用が働いたのじゃな」
セリエの説明が続く。
「さて、西和は、並行世界へのバイパス作業で忙しいじゃろう。
ーー 永畑と大都は問題ないじゃろが土地は使えないのじゃよ。
ーー 皇国守護に風の神も加わるじゃろ。
ーー 巨大な向かい風じゃあな」
『セリエさま、巨大地震の合図はまだですが』
「並行世界の双子の神が魂の救済優先に躍起じゃ。
ーー 間に合うかは、分からないのじゃよ」
(並行世界と地球の神は双子なのである)
『もしも間に合わない時は、どうなりますか』
「中間世界の扉の主人たちの出番じゃよ。
ーー 天界の女神は、見届けるだけじゃ。
ーー 運悪く犠牲になっても魂の自浄作用で転生の扉に行くじゃろ。
ーー けれどな、地獄門の扉に進む魂に慈悲は微塵もないのじゃよ」
『セリエさまのご説明で、私たちも安心出来ます』
「じゃあ、康代、またにゃあ」
神使セリエはフレンドリーな口調に戻ると消えて虹色の光になった。
『セリエさま、ありがとうございます』
「近頃のセリエ殿、神々しい光に変わった気がするのでござる」
『静女も、そう思うの。私もよ』
「まるで虹の化身でござるよ」