【四十】秋にもオーディションですか
明里光夏が宴会会場の中央のテーブル横に立って司会を始めた。
「明里光夏です。
ーー 宝田劇団のみなさん、
ーー お忙しいところをありがとうございます。
ーー 初めに夜神紫依舞台監督にお願いします」
「舞台監督の夜神紫依です。
ーー 本日はお招きを頂きありがとうございます。
ーー 劇団の団員に代わって私が挨拶をさせて頂きました」
[パチ、パチ、パチ・・・・・・]
「次に赤城麗華さん、大河原百合さんにも、
ーー 順にお願いします」
夜神が腰掛けると、赤城と大河原が立ち上がった。
「赤城麗華です。
ーー 私と大河原百合の都合で一日早くなりましたが、
ーー 今後ともよろしくお願いします」
[パチ、パチ、パチ・・・・・・]
「大河原百合です。
ーー スタッフと団員は九日に学園都市を離れます。
ーー みなさんには、これまでに色々とお世話になっています」
「次は、秋公演と聞いていますので、
ーー 次回もよろしくお願いします」
[パチ、パチ、パチ・・・・・・]
「大河原さん、赤城さん、ありがとうございます」
夜神が付け加えた。
「次回も秋分の日のあとで、
ーー オーディションを考えています。
ーー 若い時は、挑戦する心が大切です。
ーー 夢に憧れてはいけません。
ーー 願いが叶うと思って行動する心が大切と思いませんか。
ーー 私からは、以上です」
[パチ、パチ、パチ・・・・・・]
明里光夏が再び立ち上がった。
「夜神さん、赤城さん、大河原さん、
ーー 本当にありがとうございました」
[パチ、パチ、パチ・・・・・・]
「生徒会会長で大統領の徳田康代さん、お願いします」
『大統領の徳田康代です。
ーー 宝田劇団のお陰で国民の【幸せ時間】が増えたことと思います。
ーー なので、秋公演も、神聖女学園の大講堂で、
ーー 宝田劇団の公演を開催します』
[パチ、パチ、パチ・・・・・・]
明里光夏が夜神を再び指名した。
「夜神監督、乾杯の掛け声をお願いします」
「夜神です。
ーー みなさん、グラスを持ちましたか。
ーー じゃあ、乾杯の合図で乾杯しましょう」
夜神は右手に持ったグラスを高く上げた。
「みなさん、乾杯!」
元大スター夜神紫依の声が会場に響いた。
[乾杯、乾杯、乾杯・・・・・・]
宴会会場の大型ホログラムディスプレイに先日の宝田劇団の公演映像が配信されていた。
しばらくした時だった。
神姫のセリエが康代にテレパシーを送った。
[康代、テレパシーじゃあ]
[はい、セリエさま]
[西和のレッドストンで大地震が起きたようじゃ]
[セリエさま、始まったのですね]
[いや、まだじゃ]
[次は、どうなるのですか]
[レッド、ブラック、ゴールドの何れかで巨大地震があるじゃろ]
[それが始まりの合図じゃ]
[地球は西和のツケの精算に入るだけじゃ」
[康代は鎖国を維持するのじゃ、情けは不要じゃあ]
[はい、セリエさま]
[ネットニュースは神のフィルターで接続出来ないから安心じゃあ。
ーー 秘密じゃが、田沼たちに注意するのじゃあ。
ーー 神に逆らう時は処罰が降るだけじゃ。
ーー 西和大陸は次のブラックで割れ始める。
ーー 大陸が沈むまでの間に並行世界の救済フィルターが彼等に手を差し伸べるじゃろ。
ーー 並行世界の神も地球の守護神も、汚れた魂を救済する義務はないのじゃあよ。
ーー 康代、神さまが創造した宇宙はな、良い魂の選別を始めている。
ーー 人間界のような顔パスはないのじゃあ。
ーー 田沼たちにも例外なく作用するのじゃあよ]
[セリエさま、分かりました]
[じゃあ、康代、またにゃあ]
セリエと康代のテレパシー会話が終えた。
会話中の時間は停止されている。
康代の意識がも元に戻った。
「康代殿、顔色が悪いでござるよ」
『静女、大丈夫よ。
ーー 心配してくれてありがとう』
「大丈夫なら良いのでござる」
七月八日の午後。
神聖女学園宿泊棟玄関で赤城麗華と大河原百合は別れの挨拶をしていた。
『赤城さん、大河原さん、
ーー 本当にありがとうございます。
ーー これから、どちらに移動されるのですか』
「第二羽畑空港から宝田の町に向かう予定です」
「赤城さん、明日、私たちも宝田に帰りますから、よろしくね」
「久しぶりの夜神監督の御指導で楽しい時間になりました。
ーー また、よろしくお願いします」
「夜神監督、宝田でお待ちしています」
「大河原さんまで、ちょっと大袈裟じゃ無くて」
赤城と大河原を乗せた空中浮遊タクシーは、学園都市の発着滑走路まで移動した。
事故防止法のため、発着エリア以外での発着が禁止されている。
徳田大統領と夜神監督は二人のスターを見送り大統領執務室に移動した。
執務室の扉を入った夜神紫依が驚く。
生徒会室も執務室も広いのですが質素さに驚いているのだった。
夜神が想像した大統領執務室ではなかったのだ。
康代の案内で夜神監督は、執務室の青いソファに腰掛けた。
生徒会メンバーが夜神と康代に紅茶を出す。
『宝田劇団の支部が学園都市にあるといいですわね』
「徳田大統領が言われると真実味があるから不思議です」
『じゃあ、夜神さん、カフェでその続きをしましょうか』
「クレープでござるな」
『もう、静女にはクレープしか見えないのね』
「左様でござるよ」
「徳田さんの提案はワクワクな予感しかしませんわ」
『じゃあ、これからご一緒しましょう。如何ですか』
「じゃあ、劇団の責任者の朝川も呼びますが、よろしいでしょうか」
『構いませんよ』
『生徒会も織畑、前畑、豊下と明里に同行してもらいましょう』
黒茶の髪にボブヘアの朝川夏夜は、夜神と同じ劇団の元大スターだった。
背丈が一七五センチくらいの長身に純白なスカートスーツとピンヒールで徳田康代の前に現れた。
アラサーの彼女は宝田劇団本部責任者で臨時公演に合わせて学園都市に滞在していた。
康代たちが神聖ショッピングセンターのカフェのテーブルに到着して重要な話が始まった。