【三十四】夜神紫依、宝田劇団舞台監督
徳田康代、織畑信美、姫乃水景、和泉姫呼と天女の静女は三日目の宝田劇団のお稽古の余韻を楽しんでいた。
出番の少なさもあって、出演者と言うより見学者に近かい四名だった。
流し稽古は非公開だったが、食堂で宝田劇団の大スターを見てしまった女子生徒の何人かは大講堂の地下玄関の外で待っている。
こればかりは、康代たちも注意出来ない。
演劇に興味を持ち意識を向けることは、康代たちの【幸せ政策】の重要なポイントだったからだ。
『赤城さんと大河原さんは、地上の専用出口から先に宿泊棟に帰られましたよ』
「ええええ、残念・・・・・・」
『七月五日の臨時公演でご覧になれるから心配ないわ』
「はい、是非、見に行きます!」
『あなたたちは何部に申し込みされたの』
「私は、二部です」
「私は、三部です」
『じゃあ、午後と夕方の舞台ね』
「はい」
『録画は、インターネットで配信されるから何度も見られますよ』
「そうなんですか知りませんでした」
「生徒会から聞いていないの?」
「舞台のお話だけで・・・・・・ネット配信はまだ聞いていません」
徳田康代、織畑信美、天宮静女は、一度、生徒会室の執務室に戻った。
前畑利恵、豊下秀美、明里光夏の女子高生キャビネットの面々が青いソファに腰掛けて待っていた。
徳田康代大統領は明里光夏に指示を出して、全国と校内に対してインターネット配信の日時の告知を至急お願いした。
『光夏、全国女子高生会議にも連絡をお願いね』
「各地の幹部の数名が招待客として宿泊棟に既に滞在中です」
『じゃあ、秀美は女子高生幹部に伝えてくれるか』
「幹部と支部に連絡して拡散依頼ですね」
『光夏と秀美で、手分けしてやってくれるか』
康代が男口調モードになっている。
翌日、神聖女学園のホームルームは、宝田劇団の臨時公演の話題になった。
その中でインターネット配信予定も告知された。
「インターネット配信もあるんだ。凄いね」
「録画をして、記念にしたいな」
「今回は文化祭の臨時公演だけど、またあるそうよ」
「いつあるの」
「今回の公演次第みたいよ」
「決まれば生徒会から発表されるわよ」
「そうね。今は目の前の公演だけね」
女子高生たちの井戸端会議は終わる気配なく続いていた。
神聖女学園では、中等部三学年、高等部五学年、大学部二学年に変更されていた。
康代たちは、宝田劇団の四日目のお稽古に参加するため大講堂の大ホールの楽屋亀で準備に入った。
最終日の流し稽古に赤城麗華と大河原百合が参加してからは本番リハーサルに変わった。
舞台監督の夜神紫依は元宝田劇団の大スターで背丈は一七八センチで赤城と大河原よりもやや高い。
黒髪のポニーテールに淡いピンク色のワンピースを着ていた。
元女優の監督は容姿端麗でまだ三十歳になったばかりだ。
突然の夜神紫依監督からの追加告知に宝田劇団の団員と康代たちは驚いた。
六月三十日から始まった康代たちの練習は、七月三日の最終練習となるはずだった。
「今日で、舞台稽古は最終日ですが、
ーー予備日の明日、本番前のリハーサルを追加します。
ーーみなさんの演技は満点ですが石橋を叩いて渡りましょう」
「みなさん、明日は本番のつもりで頑張ってください。
ーー今日は、最後のチェックをして問題無ければ夕食会をして終了します。
ーー疲労を残さないようにしてください」
夜神紫依監督からの最終チェックを受けた四人は問題ないと判断された。
徳田大統領の女子高生警備隊を先頭に地下通路から宿泊棟の食堂に移動した。
「康代、あと一日増えてラッキーでござるな」
『静女の見学が一日増えてラッキーなわけね』
「康代殿、皮肉とは珍しいでござるよー」
康代たちは食堂への地下通路を移動しながら、珍しく無駄口を漏らしていた。
『あと一日ね。宝田劇団の濃密な時間だったわね』
「康代、頑張ったわね。見違えるほどの成長よ」
「水景の言う通りでござる」
宿泊棟の食堂に到着すると、今日は、席に名札が置いてあった。
テーブルの中央の席に八神紫依監督、両脇が赤城麗華、大河原百合だった。
徳田大統領、天宮静女、織畑首相は、三人の前になった。
姫乃水景は徳田の隣、和泉姫呼は織畑の隣。
残りの団員は自由に腰掛けた。
「八神です。
ーー明日の今ごろは、自由な時間にしたいので、
ーー今夜の食事をご一緒にと思いました。
ーー徳田大統領、織畑首相には、ご多忙の中での協力に感謝しています」
「赤城です。
ーーみなさんのお陰で良い舞台になります」
「大河原です。
ーー赤城さんとは気心が分かる中なので今回も楽しい時間を過ごせました」
『徳田です。
ーー素晴らしいみなさんとの舞台は人生の糧になると思います』
「織畑です。
ーーまだまだ未熟ですがよろしくお願いします」
「姫乃です。
ーー貴重な機会をいただき感謝しております」
「和泉です。
ーーみなさんとご一緒しているだけで夢のようです」
「静女でござるよ。
ーー康代の側近で見学出来て感謝してるでござる」
「静女さんは、楽しい方ですね」
「八神監督、感謝でござるよー」
『静女は、隣のショッピングセンターのカフェのクレープが好物なのよね』
徳田康代と宝田劇団の団員たちは、スイーツの話で盛り上がった。