【二十九】まな板の上の鯉でござる!
神使のレリアは、西和帝国に並行世界への扉を設置してテストを始めていた。
西和帝国の街中のあちこちで。
「ここ、なんか変だぞ!」
「何が」
「向こうへ行こうとすると戻っているんだよ」
並行世界の神使レリアは、通過フィルターのテストを確認して並行世界の神さまに報告した。
「パラリアさま、扉の通過フィルターのテストを開始しました」
「で、どうじゃ」
「フィルター通過者は全体の三割以下です」
「左様か、仕方あるまい」
西和帝国の七割が並行世界の扉を通過できないことが判明する。
人間界の地球学校と違って扉通過の再試験はないのだ。
並行世界の扉は、中間世界の扉と同じ原理が作用している。
魂の自浄作用が運命を決める。
「パラリアさま、通過出来ない人間が中間世界に行った場合、ほぼ全員地獄門行きが確実と思われます」
「レリアよ、其方の言う通りになるだろう」
「腐った魂には、お仕置きが必要じゃからな」
「はい、パラリアさま」
「ただ、問題が」
「なんじゃ申せ!」
「弾き出された人間で、並行世界の扉の付近が団子状態になるかと」
「扉の前の設定を変えて、中間世界の方法に変更すれば問題ないじゃろ」
「と言われますと」
「無垢な魂の前に目に見えない並行世界の扉が出現して包み込む。
ーー汚れた魂の前には、何も現れない。
ーーどうじゃ、これなら、ピンポイントで人間の仕分けができるじゃろ」
「はい、パラリアさま、並行世界の扉のグレードアップをします」
「レリアよ、ご苦労じゃが頑張ってくれ!」
「ハイ、パラリアさま」
地球の守護神のアセリアは、黒猫姿の神使セリエの報告を聞いている。
「並行世界の神使レリエさまの報告ですが、並行世界の扉のグレードアップをしたそうです」
「皇国の永畑と西和帝国のゴールドストンは、どうじゃ」
「はい、永畑は、今のところ、小康状態ですが西和は、楽観出来ません」
「他に何かあるか」
「ハイ、西和の北部のブラックストンが活動を始めました」
「ブラックストンか、シナリオが変わるかも知れないな」
「と言うと」
「引き金が変わる可能性が出て来たのじゃ」
「まさか、両方同時もありと言うことですか」
「そうじゃな、あるだろう」
「セリエよ、念のため、陛下と康代に伝えよ」
「アセリアさま、至急、お伝えします」
セリエは消えて虹色の光になった。
光の色は神使のレベルを現している。
神使のセリエは黒猫の姿で陛下の書斎に現れた。
「陛下よ、セリエじゃ、伝えることがある」
「はい、セリエさま」
「西和のゴールドストンが合図と伝えていたが雲行きが怪しくなって来た」
「ブラックストンの可能性が出て来ている」
「どちらかが先か、同時かは分からないが、合図であることは同じじゃ」
「セリエさま、西和大陸沈没の合図ですね」
「其方は、康代に協力して鎖国維持をするのじゃ」
「同情はいらないぞ」
「並行世界の神が救済計画を発表している」
「皇国は、大丈夫だから民を安心させるのじゃ」
「はい、セリエさま。ありがとうございます」
神使のセリエは黒猫の姿で、康代がいる生徒会執務室に現れた。
『セリエさま、お久しぶりです』
「康代よ、状況が変わり始めたのじゃ」
セリエは、内容によって語調が変わる。
「西和のゴールドストンは聞いておるな」
『はい、セリエさま』
「ところが西和のブラックストンが怪しくなっておるのじゃ。
ーーどちらかが合図になる。同時爆発も有り得るのじゃ」
『西和大陸沈没の合図ですね』
「並行世界の神が善人の魂救済に動いておるから心配ないじゃが・・・・・・」
『よく分からないのですが』
「ちと、難しかったか」
「並行世界にはいくつもの大きな扉があるのじゃ。
ーーその中間世界には、魂対応の扉があるのじゃが問題があってな・・・・・・」
「じゃが、大陸沈没の天災級となると話は別じゃ。
ーー中間世界の女神が、西和の善人救済のため、
ーー並行世界の扉を新しい魂対応扉に変更したのじゃ」
「善人の魂は、並行世界に逃れて救済される予定じゃ」
ーーしかし悪人の魂に神の手は差し伸べられないじゃ」
「康代たちは、西和の状況次第で、鎖国を厳しく管理してくれれば良いのじゃよ。
ーー皇国の結界は皇国の八百万の神々と予が守るから安心するのじゃよ。康代」
『はい、セリエさま。ありがとうございます』
神使セリエは、消えて光になった。
田沼と若宮は、インターネットニューススピードの配信を見ている。
「最近、西和帝国のゴールドストンの異変はお伝えしてありますが、
ーー今日、ブラックストンで異変がありました」
「詳細は、不明です。最新情報は、あり次第、お伝えします」
「田沼先生、ゴールド、ブラックと来ましたね」
「若宮さん、レッドストンも注意かもしれませんね」
神聖女学園の食堂では、女子高生が西和帝国の話題を話している。
「永畑火山の件といい、最近、やばくない」
「十分、変よね」
「まさか、ドカンとかあったら地球大丈夫かな」
「専門家は、大丈夫じゃないと言っているらしい」
「皇国は八百万の神さまに守られているから大丈夫よ」
「そう言えば、今日は大祓ね。あとでお参りしようか」
「いいね」
康代、信美、水景、姫呼、静女の耳にも女子高生たちの井戸端会議の内容が聞こえていた。
康代たちは、午後の授業はお休みとなって宝田劇団の予行練習に参加する。
「康代、いざ、鎌倉という雰囲気ね」
『もう、まな板の上の鯉と言う心境』
「康代もそうでござる時があるとは、知らなかったでござる」
『静女の買い被りよ』
「じゃあ、康代、行くわよ」
水景の言葉を合図に食堂を離れ講堂に向かう五人だった。
天宮静女は徳田康代大統領の側近として付き添っていた。