【二十八】天女静女のスタンドイン?
神聖女学園は、中等部、高等部、大学の一貫教育なため、学園寮が五棟ある。
五棟の学園寮は独立棟ではなく上から見ると五角形の形をしていた。
学園寮の棟はそれぞれ、赤レンガ色の火の棟、青色の水の棟、焦げ茶色の木の棟、白色の金の棟、茶色の土の棟と呼ばれている。
五棟の学園寮の食堂もそれぞれの棟の地下と地上にあった。
地下の連絡通路で別棟への行き来が出来る。
寮の入居者条件には年齢制限はない。
神聖女学園の校舎も寮も例外なく男子の立ち入りが禁止となっている。
学生たちと関係者の学園寮の往来に制限はない。
中学女子がいて女子大生、女子高生が出入りしている学園寮食堂は、一般の学食の雰囲気には遠い。
女学園の廊下では女子高生たちの賑やかな声が聞こえていた。
「今日の夕食は、どこの食堂にする」
「金の棟の地下食堂の日替わりディナーが人気よ」
「土の棟の二階のディナーも捨て難いよね」
「迷ったら、ジャンケンね」
神聖女学園の研究室では、田沼光博士と若宮咲苗助手が永畑火山のデータを調べている。
「先生、特に大きな変化は起きていません。
ーーこのまま、沈静化すれば良いのですが」
「若宮さん、まだまだ先になりそうですよ」
「先生、西和のゴールドストンの排出ガス量が増加しているようですが」
「それは悪材料ですね、若宮さん」
「祈るしか出来ませんね」
「若宮さん、明日は、夏越し大祓の日ですが、どうですか」
「じゃあ、一緒にお参りに行きましょう」
夏至を過ぎたばかりの外は、まだ明るく夜の帷の気配が東の空を紫色に染めていた。
田沼光と若宮咲苗は、神聖女学園の研究室の関係で女学園と学園寮の食堂利用が許可されている。
二人が学園寮の食堂に向かう途中、女子学生たちが行き来している。
そんな中で田沼たちは、安甲先生とばったり出会うことになった。
「安甲先生、こんばんは」
「あら、田沼さんと若宮さんじゃないの」
「今日は寮の食堂をと考えてましたが神社側の食堂を選び良かった」
「田沼博士は、神聖女学園の臨時教師でもあるから学食も役得ですね」
「はい、お陰様で、助かっています」
「康代さんは、若いのに出来ていますからね」
「陛下に大統領に任命されるなんて普通じゃ考えられませんからね」
寮の廊下で立ち話をしていたら、康代、静女、信美、利恵、秀美、光夏が現れた。
「紹介するわ、今度の春夏文化祭で宝田劇団の舞台に出演する、姫乃さんと和泉さんです」
「姫乃です。徳田さんと、織畑さんも出演します」
「姫乃さん、和泉さん、私が田沼で、こちらが若宮です」
「若宮さん、よろしくお願いします」
『田沼博士、若宮さん、是非、舞台を見に来てくださいね』
『ありがとうございます』
康代たちは、安甲先生と田沼博士に一礼して学園寮の階段を上がった。
田沼と若宮は食堂に向かう。
安甲先生はやり残した神社の準備に足早に学園寮をあとにした。
康代、織畑、姫乃、和泉と静女は、部屋に到着すると早速、台本を片手に読み合わせを始めた。
主役の部分は静女がスタンドインで手伝っている。
つまり、代役と言う設定で始める。
「徳田さん、織畑さん、緊張すると動作や声が小さくなるからオーバーで丁度いいのよ」
『姫乃部長、ありがとうございます』
「水景でいいわよ」
「私も姫呼でよろしくね」
『じゃあ、水景、姫呼、そして信美と静女、始めましょう』
「舌を噛まないように注意してね」
「ちょっと、滑舌練習しようか」
姫乃が練習用のコピーをみんなに配った。
「ちょっとするだけで、舌の動きが滑らかになるわ」
『信美の言う通り、するとしないでは段違いですわ』
途中何度か休憩を挟んで終了した。
「康代のところの紅茶は毎回、美味しいわ」
『これは、オレンジペコね』
「オレンジペコか、ところで、みなさん、今夜はどうされますか。夜も遅いし」
『水景、姫呼、信美、良かったら泊まる?』
「お邪魔じゃないかしら」
「そんなことないでござる。静女は歓迎でござるよ」
『お稽古も終わったので百人一首ような短歌を書いて見ない』
「五七五七七、でしたね」
「やっぱり古典の延長でござるな」
『そうね、今では、かるた大会も盛んね』
「何処かの出版社が短歌のコンテストを開くそうよ」
「面白そうね、僅か三十一文字です」
『素人の私たちはインスピレーションで書くだけですわー』
「あれ、そう言えば、台本に短歌のシーンがありませんでした」
『姫乃さんは、さすが台本をよく読まれていますわ』
『私なんか、表面の台詞をなぞるだけで精一杯です』
「徳田さん、この間オーディションね。不合格者はいなかったそうよ」
「ただ、選抜されたのが私たち四人だったと言う話の説明を関係者がしていたそうよ」
『そうだったのね。神聖演劇部はさすがね』
「康代、短歌いいかもでござる」
『静女も、そう思う』
『宝田劇団の方がひと段落したら、短歌もしよう』
「うちに短歌部ってあったかな」
「かるた部はあるみたいよ」
『じゃあ百人一首の世界ね』
「懐かしいでござるな」
『じゃあ、次の企画は短歌で決まりね』
インターネットニューススピードが西和帝国のニュースを配信していた。
「西和帝国の各地で超常現象が発生している模様です」
「どんな状況ですか」
「元に戻ってしまうそうです」