【二十七】夕食会でスーパー記憶なの?
神聖神社の神主であり教師の陰陽師の安甲晴美は、夏越し大祓の準備で多忙な日々を送っている。
神聖女学園の中庭は、そんな安甲先生の憩いの場でもあった。
徳田康代、織畑信美、姫乃水景、和泉姫呼が中庭に到着すると、安甲先生が読書をしている。
『安甲先生!こんにちは』
「あら康代さん、珍しい組み合わせね」
『はい、明日から宝田劇団の舞台の予行練習に参加します』
「そんなことになっていましたか」
『はい、緊張しています』
「康代さんでも緊張されることがあるのですね」
『そんなことありませんわー』
「姫乃さんも、ご一緒なら大船に乗ったも同然ね」
「先生、大船じゃないですよ」
和泉もツッコミを入れる。
「姫乃さんは、大船ですよね」
織畑の追い討ちがグサリ。
「姫乃さんの演技はオーラが違いますから、やはり大船です」
『ところで先生、明日は大祓ですね』
「そうなの夏越しは暖かいから冬よりは恵まれています」
『六月の水無月って、色々とすることが多い月ですね』
「旧暦なら五月なのに不思議です」
『旧暦の大祓の日は、今の八月だから葉月ですね』
康代はホログラム携帯から調べてみた。
「葉月は、稲の穂を張る月から来ているみたいよ」
『先生の得意分野でした』
「神聖の田園も忙しくなる季節ね」
『先生、今回は、何もお手伝え出来なくなってすみません』
「いいのよ、康代さん、神事は神社のお仕事で巫女もいますから」
『そうでした』
「聖女の康代さんの目に見えないパワーは千人力ですが」
『先生、おからかいにならないでください』
「やっぱり、聖女さまは、違うでござる」
『あら、静女いつの間にか現れて忍者みたいね』
「拙者は、康代の側近でござるよ」
『静女、ごめんなさいね』
「康代殿、大丈夫でござるよ」
『明日は、配役の発表日ですわ』
「そうね、後半の二日間が合わせ稽古になるのでしょう」
『みんなに、提案があるのですが』
「夕食でござるな」
『静女の直感は、国法級ね』
「左様でござるか」
『学園寮で夕食をご一緒しませんか』
安甲先生を含めて、みんなが同意した。
『利恵、秀美、光夏にも声をかけてみましょう』
「拙者が、ひと飛びでお誘いするでござるよ」
天女の静女は、一瞬で消えていた。
「やっぱり、忍者ね」
安甲先生が珍しく呟き、一同も頷いた。
「夏も直ぐね。日陰と追いかけっこの季節ね」
まだまだ、日没には遠い時間だ。
康代たちは、安甲先生、姫乃さん、和泉さんと待ち合わせ時刻を決めて学園寮の食堂入り口で落ち合うことになった。
『安甲先生、姫乃さん、和泉さん、じゃあ、あとで』
康代と信美は、中庭から生徒会室に移動した。
静女が、利恵、秀美、光夏と執務室の青いソファに腰掛けている。
「それでね。夕食会、良いでござるね」
『静女、今夜は、六時に落ち合うことになったよ』
「日没前でござるな」
康代たちは学園寮の食堂前で、安甲先生を待っている。
安甲先生が到着して、テーブルに着いて、
ーー織畑、静女、徳田、前畑の順に並ぶ。
反対側は、
ーー和泉、姫乃、安甲、明里、豊下の順に席に着いた。
安甲が特殊な話を始めて、みんなが安甲を見た。
「みんなは、能力者だから、当たり前ですが、世の中では当たり前でない場合もあるのね」
「たとえば、脳内再生のお話で有名なのは歌声」
「昔、聞いた歌声が、ある日突然、頭の中から聞こえる現象よ」
「右脳を活性化させると暗記力が上がるのも似ているわ」
「他には、本を目で読む時に、脳内から聞こえる現象」
「役者の会話している声が聞こえるからドラマ要らずになるわ」
「ただし脳内で聞こえる役者の会話スピードは変えられないのね」
「速読出来ないのが欠点ですが」
『読書は該当しています』
康代が言うと他の者全員が従って同じ事を言った。
さすが、能力者たちの無双レベルは違う。
「さすが、前世女学園の生徒さんね」
「ここで、当たり前の事は他では当たりじゃないからね」
「拙者も、安甲先生に同意でござる」
天女の天宮静女の茶目っ気ぶりに夕食会の空気が和む。
姫乃が右脳活性化の方法を安甲に質問した。
「先生、右脳活性化で暗記力が上がるとかいう方法なんですが」
「あれはね、密教とか言う大昔の秘伝なのよ」
「スーパー記憶法と言うと分かりやすいわ」
「先生、どうなるのですか」
「そうね、見たことは写真撮影の人間版で、聞いた事は脳がスキャナー化状態」
「そんなことできるんですか」
「出来た人は意外と口外しないから伝えられていないわ」
「秘伝なので、口伝で後世に残されて門外不出なの」
「じゃあ、私たちは、出来ないのですか」
「それがね、簡単な裏技が存在するの」
「安甲先生、真言でござるな」
「そうよ、でもね、毎日しないといけないのよ」
「簡単に言えば、脳内の神経伝達物質のシナプスをダミー化することなのね」
「空山阿闍梨が修行僧の時に実施したでござる」
「虚空蔵菩薩の真言を唱える求聞持法なの」
「でも、学生のみなさんに出来ることは、真言くらいね」
「先生、どうするの」
「真言を一日千回唱えるのよ。慣れれば三十分くらいよ」
「それで百万遍を唱えるまで続けて三年くらいで到達するわ」
「三十万回の節目を通過した頃には違いを実感するわ」
『先生もされたのですか』
「康代さん、いつも鋭いわ。しています」
「先生、真言を教えてください」
「インターネットで求聞持法で検索してみて下さい」
「見つからない時は質問してみて下さい」
生徒たちは、ホログラム携帯で調べ始めた。
『先生、ありました』
「のうぼう、あきゃしゃ・・・・・・ですね」
「そうよ、姫乃さん」
「一日三十分でスーパー記憶は安い買い物でござるな」
食事が終えた安甲は、立ち上がるとみんなに向かって挨拶をして離席した。
「じゃあ、みなさん、私は明日の準備もあるのでお先に失礼しますね」
安甲先生の言葉を合図に学園寮の部屋に戻ることになった。
徳田、織畑、姫乃、和泉の四人と静女は、徳田と静女の部屋で台本の読み合わせをすることになった。