第七章【十八】神さまの絶対命令と皇国の結界!
神聖学園都市に近い陛下の屋敷からは学園都市の田園風景が見える。
陛下は畑の手入れをしている最中だが、遠目には分からない。
神使のセリエが黒猫の姿で陛下の前に現れた。
セリエの姿は一般の人には見えない。
「セリエさま、ご用ですか」
「そうじゃ、用があるから来ておる」
「失礼しました」
「地球の守護神のアセリアさまの使いで参上しておる」
「はい、セリエさま」
「西和の大事件は、聞いておるか」
「はい」
「西和の半分は、水没する」
「存知上げません」
「地球規模の大事件となるが鎖国を継続せよとの命令じゃ」
「と言うことは?」
「一切の汚れた意識を皇国に入れてはならぬとの地球の守護神アセリアさまの指示があった」
「皇国が次の時代の地球の希望となるためと仰せじゃ」
「はい、承知しました」
「陛下よ、康代を支えてくれるか」
「生まれ変わりとは言え、まだ若いからのう」
「わしはこれから、康代に伝えに行く」
神使のセリエは消えて光になった。
徳田康代の寝室には、天女の天宮静女に加え織畑信美が訪問していた。
宝田劇団の企画はオーディションの手前まで来て順調だ。
康代は、あと一名を信美にお願いすることにした。
『信美、オーディションを受けてくれ!』
男口調の康代だった。
「そう言われても剣道しか知らないよ」
『信美は、中等部時代、演劇をしていたじゃないか』
「康代も一緒にしていたよね」
『姫乃さんや和泉さんと並んで映えるのは信美くらいだ』
「そんな背丈はありませんよ」
『でも容姿とオーラが劣らぬ』
「拙者も、康代の意見に賛成でござるよ」
根負けした信美は康代を見て笑った。
「条件次第よ」
『と言うと・・・・・・』
「康代もオーディションを受けて頂戴」
『何を言うか、信美』
「じゃないと、拒否権を行使するよ」
「仕方ないなぁ」
頑固な信美の性格を知っている康代は、相手が悪過ぎたと後悔した。
『信美、分かったわ、受けるだけよ』
「私も受けるだけよ、康代」
ひと段落した頃を待っていたのか、神使のセリエが現れた。
『あら、セリエさま、こんばんは』
「康代に大事な話を伝えに来たにゃあ」
『どんなお話でしょうか』
「康代、テレパシーで会話じゃ」
『はい』
セリエは男口調になってテレパシーで会話を続けた。
「地球の守護神のアセリアさまからのご命令が出された」
「それは、何よりも優先する」
「陛下にも伝えておる。
ーー何かあれば、陛下が其方の力になるじゃろう」
『何をするのですか?』
「まもなく西和帝国の半分が水没して世界は大混乱に陥る。
ーー巨大な津波もあるだろう」
「その時、汚れた集団意識を持つ者が大量に脱出を試みる。
ーーだが、皇国は鎖国を維持して拒否するのだ」
「アセリアさまは、皇国が未来の地球の希望と申している。
ーーそれを死守するには、鎖国の維持と申されている」
「何があっても皇国の玄関を開いてはならぬが命令じゃ。
ーー困ったら、陛下が其方を援護する手筈だから心配無い」
「そして、皇国に降り注ぐ幾多の災いは神であるアセリア様が結界を巡らして守る手筈だ。
ーー康代たちは奇跡を見るだろう」
「分かったな。康代」
『セリエさま、承知しました』
セリエは、テレパシーをやめた。
「康代との話は終わったにゃあ。
ーーみんな、お邪魔したにゃあ」
神使のセリエは消えて光になった。
「相変わらず、忍者でござるな」
「今回は、なんだか、さっぱりわからない」
『信美、トップシークレットだったのよ』
翌日の火曜日の昼食時間、康代たちは、学園の二階の食堂で集まる事にしていた。
いつも先着は秀美で、秀美がみんなの席を確保している。
「秀美、席の確保をありがとう。秀美は何がいい?」
「利恵、いつもの日替わりよ」
「秀美は、相変わらず控えめな性格ね。
ーー前世と変わらないわ」
「利恵さん、秀美さん、今日も早いですね」
「光夏も、早いじゃないか」
利恵が切り返し笑みを浮かべる。
康代と静女と信美が、遅れてテーブルに着いた。
康代が光夏に話掛ける。
『オーディション騒ぎで、頓挫していた女子生徒アンケートは、どうなったかな』
明里光夏が説明した。
「アンケートの収集作業は終えております」
「秀美の協力で生徒会の主要メンバーも協力しています」
『偏りが無ければ成功です。
ーー個人の意見をなるべく多く取り入れましょう』
「今、生徒会が手分けして整理しています」
『この女学園は特殊な環境ですが、ある意味、皇国の縮図なのよ。
ーー昔の偏向世論調査の轍を踏まないようにしましょう』
「康代さん、そこが重要ですね」
「利恵の言う通りでござる」
『魔女裁判の様な偏見が起きないように注意しながら』
「難しいが避けては通れそうにありませんね」
信美も感想を漏らす。
『今日は、お天気も良いので、みんなで日向ぼっこしませんか』
秀美が子供の様に手を上げて賛同して、皆が続く。
ーー康代たちは女学園内の大きな中庭に移動した。
「今日は、お天気が良すぎて芝生の色が眩しいわ」
利恵が呟く。
「冬の頃の芝の色とは比較になりませんね、利恵」
光夏が答えた。
「拙者は、五月からなので知らないでござる」
「静女さん、前は枯れ草のような色だったの」
「枯れていたのでござるな」
「枯れてはいないわ。例えね」
「左様で、ござるか」
「今は、ご覧のように青々としてキラキラと輝いているわ」
「左様でござるな」
『静女、私たちには、皇国の自然をも守る義務があるのよ』
『人間のご都合主義で自然を破壊した前政府のツケを地球に返す義務があるの』
「永畑火山も、西和帝国のシントン火山も人間のエゴがもたらした天罰でござるな」
『西和の大災害については徳田幕府のトップシークレットになるから執務室でお伝えするわ』