【十七】オーディションと神の命令
演劇部の部長の姫乃水景が豊下秀美を対応した。
水景はセミロングヘアの黒髪で背丈は一七五センチくらいあるのか、秀美より背が高い。
「初めまして、生徒会の豊下秀美です」
「豊下さん、ご用は何でしょうか」
「今度、神聖女学園の講堂で宝田劇団の臨時公演が予定されています」
「凄いじゃないですか」
「ですが、こちらの急な依頼もあって困ることが」
「と言うと何でしょうか」
「先方の人員が足らないのです」
「宝田劇団ですよね」
「はい、そうですが」
「ちょっと、お話が見えないのですが」
「はい、端役の二、三人を女学園の演劇部から出して欲しいとの連絡がありました」
秀美は言葉を切って、部長の姫乃さんを見た。
「凄い話ですが、こちらは素人ですよ」
「台本を見ないとお答えが難しいのですが」
「そうなんですが、その前にもう一つあります」
「何でしょう」
「宝田劇団で簡単なオーディションを実施するそうです」
「ええ、それ本当ですか」
「オーディションは、予行練習開始の前の週の同じ曜日です」
「一週間か」
「選考結果と役は、その場で発表して、選ばれた数人が予行練習に参加と言う段取りです」
「ハードル高いわね」
「その後の日程は、どうなっていますか」
「臨時公演は春夏の文化祭の枠組みの中で実施します」
「予行練習は何日間ですか」
「はい、三日間と聞いています」
「三日じゃ無理よ」
「合わせ稽古が三日と聞いています」
「じゃ、その前から、準備すれば最大七日の時間ね」
「とにかく、台本を見たいわ」
「姫乃部長、今度の放課後、生徒会室に寄って頂けますか」
「分かりました。豊下さん」
「ありがとうございます。姫乃さん」
次の月曜日の放課後。
演劇部の姫乃水景と和泉姫呼は、生徒会室を訪れた。
姫乃も和泉も同じくらいの背丈で黒髪が輝いている。
生徒会メンバーが生徒会の大部屋の隣りにある執務室に姫乃たちを案内した。
姫乃たちは生徒会室の広さに驚く。
明里光夏が入り口で引き継ぎ、姫乃たちと挨拶する。
「ようこそ、お越しいただきありがとうございます」
「私が演劇部部長の姫乃水景です。
ーーこちらが副部長の和泉姫呼です」
和泉は会釈した。
「台本の件は豊下から伺っています」
「ありがとうございます」
「とりあえず、これが台本のコピーのニ冊です」
姫乃は、副部長の和泉に台本の一冊を手渡した。
二人は台本を開き言葉を失う。
「どうかされましたか」
「こんなオリジナルに溢れた台本があるなんて流石は宝田劇団と思いました」
徳田康代が二人の前に現れた。
『生徒会会長の徳田康代です』
『無理なお願いを引き受けて下りありがとうございます』
「姫乃水景です。またとない機会を頂き、こちらこそ感謝しています」
「宝田劇団のオーディションを受けられることが奇跡ですわ」
『どう言うことかしら』
「普通は、芸歴の書類選考と写真選考に合格しないとオーディションには進めないのです」
「じゃあ、不戦勝ですね」
姫乃と面識のある秀美が言った。
「豊下さんは、面白い方ですね」
「姫乃さん、簡単な日程が分かりました」
「いつですか」
「夏至の三日後がオーディションで、その七日後の七月一日が予行練習です」
「予備日を含めて本番は七月五日、
ーー全国配信は、七月七日の七夕に決まりました」
「七夕祭りに配信なんですね」
「本番は神聖女学園の春夏文化祭のイベントと言う設定ですので、一般の参加も可能になりました」
「素晴らしいですわ」
『姫乃さん、しばらくは大変ですが、頑張ってください』
「徳田さん、ありがとうございます」
「生徒会が演劇部のみなさんをサポートしますので、
ーー大船に乗ったつもりでいてくださいね」
「秀美の申す通りでござる」
「生徒会の天宮静女さんです」
秀美がフォローしている。
「みなさん、本日はありがとうございました」
「演劇部は、力を合わせて頑張ります」
『生徒会も皆さんがご活躍出来るように応援させて頂きます』
「では、失礼します」
二人が生徒会室を出ると康代が予言めいたことを話す。
『あの二人で決まりね。あと一人は誰かしら』
陰陽師の安甲晴美は西和帝国の大惨事のニュースに釘付けになっていた。
インターネットは首都シントンの国会地下で発生した火山噴火を伝えている。
前月の五月の東都の国会大惨事から僅かなタイミングの大事件に苦いものが込み上げる。
安甲の直感がまさかと呟く。
地球の神【アセリア】は裁きのトリガーの二発目を発動していた。
神使のセリエを呼んだ。
セリエは、小さな黒猫の姿で現れた。
「アセリアさま、神使のセリエでございます」
『セリエよ、皇国の東都の方はどうなっている』
「徳田康代たちの活躍で、波動が調整されつつあります」
『西和の半分は海に呑まれるだろう』
『人間たちの心の波動が人間たちを抹殺している』
『皇国はこれからの地球の希望となるだろう』
「はい、アセリアさま」
『陛下と康代に伝えよ。鎖国を維持するように』
「はい、アセリアさま」
『皇国に汚れた集団意識を入れてはならぬ』
「はい、アセリアさま」
「同情は、禁物と言うことですね」
『左様じゃ、直ぐに二人に伝えよ。セリエよ』
「心得ました。直ちに」
神使のセリエは消えて光になった。