【一六七話】 地下参道と三礼三拍の波動
地下通路完成、神域へ向かう康代たち。
制服姿のセリエと神使が登場し、波動の真理が語られる。
「康代殿の波動は、おやつタイムでござるよーー」
静女の一言で、地下からカフェへ瞬間移動。
来訪者たちも再び合流し、物語は未来へ。
徳田康代大統領は、明里光夏大統領補佐官、豊下秀美副首相を連れ、神聖女学園裏の安甲神社に向かう途中だった。
側近の天女の天宮静女の姿もあった。
神使セリウスは、神様見習いのセリエに呼ばれ不在だ。
織畑信美首相と前畑利恵副大統領はネット会議で学園から離れている。
宝田劇団のスターたちは定期公演の準備で忙しい。
神聖かるた会の練習にも欠席が目立っていた。
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「康代さん、今日は、いつもと違う道ですがーー 」
『安甲神社を結ぶ地下通路が完成したのよ』
「地下通路ですか? 」
『わたしたちは目立たないように行動するのが基本でしょう』
「そうですが、面倒じゃないですか・・・・・・ 」
康代の前に広がる地下参道の上には偽装の青空天上があり、床は玉砂利に見せ掛けた偽物だった。
人工の植物も植えられ地上よりも明るい雰囲気だ。
神社の参道の入り口は、他の地下通路と同じく二十四時間監視ロボットが巡回していた。
康代は秀美の配慮のない言葉を浴び、珍しく皮肉を口にした。
『地下と言っても地下参道なのーー だから御利益あるわよ秀美! 』
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康代の背後から大人の女性の柔らかな声が聞こえた。
「徳田さん! 」
『あら、昼間先生、どうされました』
「こちらに来てから不自由ない生活ですがーー お参りしてみようかと 」
「昼間先生が、この神社から離れない方がいいというのね」
星乃紫だった。
康代は、この瞬間まで昼間の背後に星乃と朝霧がいることにさえ気付いていなかった。
『わたしたちは安甲先生に用事があって移動の途中ですがーー ご一緒しますか』
「ありがとうございます。お邪魔じゃ無ければ」
一行は新しい地下通路の広場に出てしまった。
『静女さん、ここで合っていますか』
「合っているでござるよーー 」
明里光夏はホログラム携帯から地下マップを開いて、立体スクリーンを康代に見せた。
「ーー と言う訳で、この辺に来ています」
豊下が明里を見て不気味なことを言う。
「光夏、それ変じゃないか?まだまだ時間的にーー そんなに移動していないわ」
言われてみれば秀美の言う通り、学園の地下を出たばかりだった。
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康代は、神様見習いのセリエに、テレパシーを送ってみた。
[康代にゃあ、どうしたにゃあ]
[セリエ様、地図が変ですが]
セリエは康代に丁寧に原因を説明した。
セリエが言うには、結界魔法の影響で神社周辺の反応が正常に作動しないことがある。
康代はセリエとのテレパシーを終えた。
ホログラム携帯をセカンドバッグから取り出し安甲神主に連絡を入れる。
「康代さん、分かったわ。社務所の地下玄関に巫女を出迎いに行かせるわ」
康代が携帯をバッグに戻しセカンドバックを閉じる乾いた音が響いた。
地下なのでよく反響している。
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紺色のセーラー服の女子高生三人が、神社の社務所方向から康代に向かって歩い来た。
「大統領、水戸支部の水上です。黒川さんの命令で警護します」
『水上さん、私には女子高生警備がいるわよ』
「承知の上で黒川さんが私たちを派遣させています」
『そうね、まだ先日の騒動から僅かですからーー 無理もないわ』
水上の両隣に、尾上と紀戸がいた。
二人は水上と同じ徳田幕府の女子高生諜報員。
セーラー服のスカートの下には殺傷性のない超小型のレーザー銃が隠されている。
尾上は、神聖学園の女子高生警備の前まで行き、事情を説明している。
諜報員女子高生三人を知らない女子高生警備はいなかった。
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艶やかな白い巫女衣装の花園舞が昼間夕子を見つけ、傍に進み出て顔見知りの挨拶を済ませた。
巫女の花園は、徳田康代に向かって正式な挨拶の礼を深々とした。
一同の前に立った巫女は、社務所まで手招きしながら歩き始めた。
巫女の真っ赤な袴が康代の目の前にあった。
地下社務所玄関から三人の人影が見え、康代がその存在に気付く。
安甲晴美神主、田沼光博士、若宮咲苗助手の三人だ。
陰陽師の安甲が両手を上げ大きく振っている。
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社務所の横には、地下の参拝エリアがあり、周囲にはいくつものベンチが置かれていた。
神聖女学園の制服姿の女子生徒が数人ずつ腰掛けて雑談している。
ポニーテールの女子生徒は占い部の生徒を表す紫色のリボンを髪に巻き付けていた。
陰陽師の安甲晴美は、占い部とかるた部の顧問をしている。
生徒たちは、安甲に呼ばれることもなく頻繁にお参りを繰り返していた。
安甲の指導を受けた生徒たちは正式な神社の作法で、三礼三拍手一礼をしていた。
神様との繋がりを開くとされる三礼三拍手一礼。
心の中で氏名、生年月日、住所を神様に伝え感謝を込めた。
波動が変わる刹那、奇跡の扉が開くと女子高生は神話の言い伝えを信じていた。
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『あら田沼先生たちも安甲先生とご一緒なの』
「大統領、私たちはあの一件以来、目に見えない世界を頭の隅に置くことにしました」
「田沼博士が言う通り、私も神社で神様との繋がりを大切にしています」
「若宮さんも田沼さんも素敵な波動ですね。ただーー 」
安甲晴美神主は言葉を切って続けた。
「神社とか、場所とかより、ご自分の心の波動を神様と繋げることが大切です」
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安甲の言葉が届いたのかーー 神様見習いのセリエとその神使が神聖女学園の制服姿で現れた。
田沼と若宮は目を擦って幻覚かという思いを捨てた。
女子高生警備と幕府諜報女子高生は気付いていない。
『セリエ様、お仕事は済まされたのですか』
「康代にゃあ、仕事じゃにゃい。神々の世界ににゃあ仕事はないにゃあーー 」
『セリエさま、大変失礼しました』
「康代にゃあ、気にするにゃあ」
セリウスがセリエに代わって安甲に言った。
「祈りの型は関係ありません」
「どう言うことでしょうか」
セリウスは続けた。
「心の波動が濁って無い者の波動は光より早く神様に届きます」
天宮静女と神様見習いのセリエがセリウスの説明に頷きで返す。
静女が言った。
「康代殿の波動は、おやつタイムでござるよーー 」
『静女さまのお腹時計じゃないの』
静女は紫色の髪と同じ瞳をキラキラ輝かせて呟いた。
「康代殿、カフェに移動の時間でござる」
康代の側近の静女が呟いた瞬間、その場に居合わせた関係者は地下からカフェに瞬間移動となった。
康代は大きなため息を吐き、静女に微笑みを返す。
静女はカフェの窓際の指定席で大江戸山脈を照らす夕陽を見つめていた。
徳田幕府の空中浮遊自動車専用滑走路は夕刻のラッシュの賑わいを見せている。
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昼間夕子と朝子、星乃紫、朝霧美夏の三人は見慣れない光景に未来を実感した。
三日月姫と従者未来、夢乃真夏と真冬の親子が、いつの間にか合流した。
天宮静女は天女なのだ。
神々に出来ないことはないとーー 自慢したげな笑みを浮かべ過去からの来訪者を見つめ呟いた。
「全員でござるな・・・・・・ 」
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三日月未来