【一六六話】女子高生の唄 普通でいたいだけなのに・・・・・・。
久しぶりの更新です。
149話の失禁事件の犯人が再登場します。
潜入工作に失敗して脱走した工作員の女子高生二人は、白いセーラー服姿で偽装無人輸送機の暗がりの中でロボットを相手にしていた。
「ねえ、さゆりーー さっきから何を口ずさんでいるのよ」
「AIがね。作曲したアニソンよ」
さゆりは由美を見て苦笑いを浮かべた。
「そんなアニソン、あったかしら」
「AIにプロンプトを入れて、アニソンスタイルで作曲した曲よ」
「曲名は? 」
「女子高生ーー なんとかだったかな」
「さゆり、まさか、あれじゃない」
「あれって? 」
「ほらあたしらの敵のアレよ」
「まあ、いいわよ。歌なんだから」
「でもさゆり、AIなんて、もう大昔の懐メロレベルじゃん」
「由美、歌なんてーー 好きか嫌いかでいいじゃない」
「そうね、それで歌詞のサビは? 」
「ええと、こんな感じだったかな」
さゆりは、そう言って歌詞を読み上げた。
「静かな教室、窓の外、風がちょっと騒いでる。普通でいたいだけなのに・・・・・・」
「なんか、しんみりするね。あたしたちとなんか重なるよね。そのあとは」
「なんでわたしが選ばれたのーー 」
「うんうん、わかるよ。さゆり」
由美はそう言って、さゆりの肩をさすっていた。
さゆりの白いブラウスの肩から赤い薔薇の小さなタトゥーが見える。
由美も同じ場所にあった。
シンジケートが強制的に付けた印だった。
タトゥーがある限り二人の女に自由はなかった。
さゆりの歌が終わり、由美が言った。
「あれって、噂でしょう」
「そうね、あたしらには縁がない世界の噂よ」
「でもさ、この飛行機、どこを目指しているのよ」
「さあ、ボスに聞かないと分からないけどーー 今、あたしら、どこにいるのよ」
ロボットが答えた。
「まもなく当機は着陸します」
「何処に」
「幕府臨時滑走路です」
「なんで? 」
「当機は誘導滑走路に補足されています」
「補足って? 」
「強制誘導網にキャッチされました」
さゆりと由美は、ロボットの言葉に悪夢の失禁事件を思い出し、大きなため息を吐いた。
無人輸送機が、徳田幕府の臨時滑走路に着陸する。
大きなネットが機体を捕獲するように包み込み機体は強制停止した。
黒川亜希は千歳翼の報告を耳にしてピクシーカットの黒髪を掻く。
翼も、照れながら亜希の仕草を真似た。
「そう、強制誘導滑走路に捕獲されたか? 」
「はい、滅多にない事例ですね」
「ということは、脱走犯が搭乗しているのだろう。じゃないと説明がつかない」
「そうですね。幕府は補足犯人に暗号コードを入れていますから」
「人権団体のような組織は今の時代にはありませんが・・・・・・ 」
人間に発信機能を埋め込むのには賛否がありますね? と言おうとして黒川は自分の言葉を呑み込み続けた。
「まあ、痛みのない透明シールですが。私も賛成できません」
「黒川さん、それで、どうしましょうか」
「そうね。徳田幕府は平等民主主義政府なので、犯人であれば社会復帰支援プログラムがある」
「黒川さん、その判断は」
「わたしでも千歳さんでもない。全国女子高生会議か幕府が決めるのよ。諜報女子高生は? 」
「水上さんも、尾上さんも、紀戸さんも待機しています」
黒川は、千歳の言葉を待たずにホログラム携帯から徳田大統領に連絡を入れた。
『黒川さん、ご苦労様。それは幕府で対応しましょう。セリエさまも協力してくださるでしょう』
「大統領、ありがとうございます。感謝します」
黒川は不幸な女子高生を救いたかっただけだった。
白いスカートに白いセーラー服姿の二人の女は、幕府女子高生警備に両側を支えられ取り調べ室に連行された。
窓のない取り調べ室の入り口には看守ロボットが出入り口を封鎖している。
大統領は神さま見習いのセリエと神使セリウスを従い執務室で黒川と面会をする。
側近の天宮静女、明里光夏大統領補佐官、陰陽師の安甲晴美先生も呼ばれ同席した。
黒川の側には、千歳、尾上、水上、紀戸がいる。
徳田幕府の重鎮レベルが、脱走犯の女の処遇を決める手筈だった。
徳田康代大統領が黒川に結論を伝えた。
『幕府に犯罪人は必要ありません。なので、その二人は執行猶予として、幕府支援プログラムの対象者とします』
康代は、セリエ、セリウス、静女、光夏の顔に視線を滑らせながら続けた。
『凶悪犯でない限り、裁きの庭への転移プログラムは実施しません』
セリエは康代の言葉に頷くだけだった。
天女の静女は紫の瞳を輝かせて、セリウスの緑色の瞳に相槌を打って微笑んでいる。
大統領補佐官の明里が言った。
「大統領のお陰で皇国の犯罪件数は軒並みに減少しています」
『明里補佐官ありがとうございます。私の中には平等と平和があるの。みんなに社会復帰の機会を与えるわ』
康代は、そう言って執務室の大きな窓のレースカーテンに手を掛けて振り返る。
静女は窓際の青いソフアでリラックスしている。
残りの者は会議用テーブルを挟んで談笑していた。
大江戸山脈に夕陽が傾き、静女が康代の横に並び言う。
「康代殿、今宵もカフェでお茶会をお願いでござる」
『静女は、夕陽をカフェから見たいのよね』
「康代殿、すべてお見通しでござるな」
康代は、静女の言葉尻に背筋が凍り付くのを感じた。
回転舞台のように、康代たちはショッピングセンターのカフェに瞬間移動していた。
康代は、怒る気にもなれない。
静女は天女なのだ。
立場が違いすぎる。
セリエもセリウスも何も言わない。
カフェに瞬間移動した静女は指定席の窓際で、沈み込む夕陽に大きな紫色の瞳を細めていた。
『静女、今日は何にしたい』
「日替わりクレープでござるよ」
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三日月未来