【一六四話】分かりました大統領!
この話は約二千四百文字です。
天女の天宮静女と合流した徳田康代は神使セリウスと一緒に寮の食堂へ向かった。
静女はショッピングセンターのカフェを希望していた。
徳田の意向が優先され静女は珍しく機嫌が悪い。
学園の廊下の端から女子高生警備を随伴した朝川夏夜と赤城麗華がやって来る。
「徳田さん、さっき言い忘れたの」
『えっ』
「今夜の食事、ご一緒させてください」
『そんな朝川さん、私の方がお世話になっています』
「じゃあ、よろしくお願いします」
『私からお誘いさせて頂きます』
朝川と徳田の短い会話が終わった。
明里光夏と豊下秀美が姿を現す。
朝川と赤城以外は神聖の制服を着用していた。
「康代さん、知っていますか」
『知らないわ』
「今日の食堂の献立」
『気にしたことないから』
「今日からね、献立のメニューが増えるそうよ」
『秀美は、相変わらず情報が早いのね』
「でもね、何かは知らないわ」
『じゃあ、着いてからのお楽しみね』
康代と秀美のやり取りを聞いていた光夏が苦笑いを浮かべていた。
一足先に到着した静女とセリウスが首を傾げて献立を眺めている。
献立の横にあるホログラムディスプレイには説明が補足されていた。
内容は宝田劇団の柿落としを祝って・・・・・・ しばらくの間、メニューにお赤飯が追加されると書かれていた。
天女の静女にはご縁の無い食べ物だった。
「康代殿、お赤飯とはなんでござるか」
『静女、それは餅米で炊いて小豆汁を混ぜた炊き込みご飯よ』
「炊き込みご飯でござるか」
『中に小豆が入ってごま塩を掛けて召し上がるのよ』
「康代殿、イメージが湧かないでござるよー」
『静女ちゃんの場合、案ずるより産むが易しかな』
「康代殿の言葉に従うでござる」
豊下秀美、明里光夏、朝川夏夜、赤城麗華、徳田康代、天宮静女、セリウスの七人が食堂に入った。
奥の方から夜神紫依と大河原百合、そして朝霧雫がやって来た。
「朝川さん、遅かったじゃない」
舞台監督で元大スターの夜神の声に周囲にいた女子高生たちがざわつく。
「夜神さん、そんな大声出しちゃだめでしょう」
「ごめん、でも食堂で会えてよかったわ」
「なんかあるの」
「今、三人で今回の柿落としの舞台を話していたけど」
「いたけどーー なあに」
「宝田劇団の定期公演に出来ないかしら」
「と言うと、あれね」
「そうよ、ロングランよ」
「なるほど、長期間興行か」
「分かったわ、とりあえず食事にしましょう」
全員がお赤飯をホログラムディスプレイから注文した。
静女とセリウスだけが赤いご飯を見て少しだけ首を傾げた。
「康代殿、これが赤飯でござるか」
『そうよ、餅米の粘りが赤飯を引き立たせているのよ』
朝川夏夜が徳田康代に言った。
「さっきね、インターネットライブで九日間と伝えたけど」
『けどーー 』
「三か月に訂正するかも知れないわ」
『じゃあ、朝川さん、九日間の公演終了後でも遅くないと思うわよ』
「そうね、出演者と舞台の調整も必要ですし、ゆっくり考えるわ」
宝田劇団の朝川、夜神、赤城、大河原、朝霧の五人は未だに神聖女学園の寮に留まっていた。
食事を終えたあと、それぞれが自室に戻り普段の生活が戻ったと康代が思った。
神さま見習いのセリエが康代の前に制服姿で現れた。
「康代よ、今、この世界で起きていることはにゃあ」
『セリエさま』
「アカシックレコードの不具合が原因と分かったにゃあ」
セリエは相変わらず猫語が抜けていない。
『セリエさま、それはどう言うことでしょうか』
「時間軸が正常に機能しないにゃあ」
『ということはセリエさま』
「うむ」
『前の時代からタイムスリップした、花園さんや昼間さんたちはどうなるのかしら』
「アカシックレコードが正常に戻った時ににゃあ、自動転送されるにゃあ」
『どこにでしょうか』
「元いた場所の時間ににゃあ」
『それならいいのですが・・・・・・ 』
「康代」
『三日月姫たちは、どうなりますか』
「彼女たちは妖の悪戯もあるからにゃあ、ちょっとだけ厄介かもにゃあ」
セリエは、言葉を切ってから続けた。
「三日月姫姉妹や従者未来についてはにゃあ」
『はい』
「時の女神と相談するにゃあ」
セリエは言葉を残して光になって消えた。
セリエがいた辺りに虹色の光がキラキラと輝いている。
「セリエ殿、消えるのが早いでござるよー 」
静女の呟きに康代が静女の肩に手を置き言った。
『静女ちゃん、セリエさまは直ぐに戻って来るわよ』
「康代殿は優しいでござる」
セリウスも静女を見て慰めている。
「直ぐに戻るわよ」
「セリウス殿も優しいでござる」
天女天宮静女は、時の女神との交渉が簡単でないことだけ理解していた。
『分かったわ、静女ちゃん、遅いけどカフェに行こうか』
康代の言葉を聞いた静女の紫色の瞳から輝きの光が溢れ出す。
紫髪も光を帯び始めた刹那、康代たちは転移魔法の餌食にされていた。
『静女・・・・・・ 』
康代たちが気付くとショッピングセンターのカフェの廊下にいた。
明里光夏が先に入りテーブルの人数をホログラムディスプレイに入力した。
しばらくすると、美しい黒髪のウエイトレスがやって来た。
康代たちはウエイトレスに案内されて窓際にあるいつもの大きなテーブルの席に着いた。
静女は窓際の指定席から夜景を眺めている。
康代はくらくらする頭に手を当てていた。
康代たちが席に着席して間もないころ陰陽師教師の安甲晴美が次元転移者を連れてやって来た。
「徳田さんとこの時間帯でお会いするのは珍しいわ」
『先生こそ、遅いじゃないですか』
「彼女らとセンターでウインドウショッピングしてただけよ」
康代の目の前には次元転移者が数人いた。
本来なら、この時代において生きていない者たちだった。
紫髪の静女が康代に話し掛けている。
「康代殿、今宵の皓月は三つ輝いているでござるよー」
『静女ちゃん、この国のお月さまは二つよ』
静女は着陸態勢に入った大型飛行機のライトを見間違えたのである。
「康代殿、あの飛行機でござるが」
『あれは第二羽畑空港に着陸する輸送機に見えるわね』
康代は明里に尋ねた。
「徳田さん、今の時間は一般輸送機は使われていませんが」
『変ね、この件は黒川亜希さんに伝えておいてください』
「分かりました大統領」
明里光夏はホログラム携帯の緊急連絡先をタップしていた。
「黒川さん、明里ですが実は・・・・・・ 」
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三日月未来