【一六〇】宝田劇団公演で決まりでござるよー、康代殿
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
時の女神エルミオの神使ルニャは、時空の宮殿を赤猫の姿で淑やかに散歩していた。宮殿の空間が爛々とした刹那、神さま見習いのセリエが黒猫の姿で現れたが胆力の格が違い過ぎた。
「あら、セリエさま、ご機嫌よう」
「ルニャさま、突然の不躾をお詫びします」
「まあ、セリエさまに至っては致し方のないことでございます」
「今回は、地球の女神アセリアさまのお使いとして」
「既に女神アセリアさまから伺っております」
「女神エルミオさまは」
「今はアカシックレコードの微調整を見に行くと言っておりました」
「お忙しいのであれば、また・・・・・・ 」
セリエが立ち去ろうとした時、女神エルミオがセリエの前に現れ、黒猫姿のセリエを両手で抱き抱えた。
「セリエさま、アセリアさまから伺っておりますから、今日はお茶でも飲んでゆっくりされなさい」
「エルミオさま・・・・・・ 」
「アカシックレコードの不具合も改善されたから、今回の件はお任せなさいませ。
ーー その時は、セリエさまにお伝えしますので」
セリエは女神エルミオの命令に近い言葉に逆らう術を知らなかった。神使ルニャが傍で淑やかな微笑みを浮かべている。
神使セリウスはセリエの留守中、天女天宮静女と一緒に徳田康代の側近をしていた。
『セリエさま、あれ以来見かけませんね』
「康代さま、まだ僅かですが・・・・・・ 」
『人間界の時間って、神さまと違って絶対時間じゃないのよ。
ーー 悩みあれば長く感じ、その逆もあるわ』
「セリウスには分かりませんが・・・・・・ 」
『待つ側の時間って、ゴムのように伸び縮みするわね』
「康代さま、そういう時は心の開放が良いかと」
『セリウスさん、ありがとうございますね』
「いいえ」
『じゃあ、静女、どうですか』
「康代殿、カフェでござるな」
『じゃあ、明里さんと豊下さんを呼ぶわね』
康代はホログラム携帯を取り出し二人に同時連絡をする。
「じゃあ康代さん、光夏と先に行ってます」
明里光夏と豊下秀美は本館地下玄関から神聖ショッピングセンターに急いだ。
陰陽師安甲晴美は、安甲神社の雑務に追われていた。前の時代からタイムスリップした花園舞が晴美を手伝っている。
「舞ちゃん、この部屋のイラストが原因だったのよね」
「はい、晴美さん」
「そうね、このイラスト変だわ。今まで気にすることなかったけど、ほら」
安甲は立ち上がってイラストの前に行って説明する。イラストの額縁は百年の歳月の中で、現在のが二代目である。
「額縁が代わっても、このイラストは同じものよ。
ーー それなのにこの絵はまるで生きているみたいね」
「本当にまるで新品で色褪せていないわ」
晴美の直感が嫌な気配を感じ二人は社務所の奥座敷を出て本殿に避難した。
「ここなら社務所より強い結界の中ですから妖の影響も少ないでしょう」
「ありがとうございます。安甲神主さん」
二人が本殿避難していた時、田沼光博士と若宮咲苗助手が派手なワンピース姿で参拝に来ていた。
二人は学園で仕事を終えると神社経由でショッピングセンターに寄るのが日課になっている。センターのリニアモノレールに乗れば国民住宅駅も僅かな時間だ。
「若宮さん、双子の月以来ーー どうも耳鳴りが・・・・・・ 」
「博士、私も同じです」
田沼は、まさかと思って考える仕草をして、はっとする。
「若宮さん、地震の兆しじゃないかな」
「私も今、同じことを考えていたわ」
安甲晴美と花園舞が田沼に近づき、二人が気付く。
「安甲先生、こんにちは」
「田沼さん、若宮さん、お時間あるかしら」
「ええ、予定もありませんから」
その時、境内の大木の葉が大きな音を立てながら揺れた。
「先生、地面揺れてませんよ」
「若宮さん、風もありませんね」
田沼と若宮は、無意識に安甲神主を見つめていた。
「田沼さん、多分ですが
ーー 気が乱れていますわ。
ーー ここじゃなんですからセンターのカフェに行きませんか」
「安甲先生、じゃあ、ご一緒させて頂きます」
巫女の花園舞も安甲神主に同行する。
カフェに到着すると、徳田康代が安甲晴美神主に手を振っている。淑やかな性格の康代から血気盛んなパワーを窺い知ることは難しい。
明里光夏は、ホログラムディスプレイを開いてオーダーをしている。天女天宮静女は、いつもの窓際で外を眺めていた。
「今日は、滑走路が混んでいるでござる」
静女が呟いた時、空中浮遊タクシーの一台が操縦を間違えて、静女たちのいるカフェの大窓に大接近して来た。
滅多にないことでカフェの客たちが驚き声を上げた。
「きゃあああああああああああああああああ」
「危ないでござるな」
静女は他人事ように呟いた。
『本当、危なかったわ。
ーー センタービル屋上の空中浮遊自動車専用駐車場も見直す必要あるわね』
明里が康代の言葉を受けて、徳田理事長に連絡を入れる。
「分かったわ。前から危ないと思っていたから、梃入れします」
徳田理事長は明里の連絡受け、徳田財閥の学園都市開発部門に緊急要請を指示した。
「はい、理事長、ショッピングセンター屋上の発着駐車場を低い場所に移転させます」
「じゃあ、その空いたエリアに何か必要ね」
「ホテルは如何でしょうか」
「悪くないわ。あとショッピングセンターの真裏が代案の発着駐車場に相応しいわ。
ーー 地下で移動出来れば問題ありませんわ」
「分かりました。会議で理事長の意向を幹部に説明します」
最上階にある神聖女学園理事長室から神聖ショッピングセンターのビル窓が夕陽に反射していた。
[ゴーゴー]
学園都市の東側滑走路に空中浮遊タクシーが次々に着陸している。学園外周道路に溢れ始めていた。
「康代殿、なあんかござるかな」
『多分、宝田劇団公演じゃないかしら』
「宝田劇団公演で決まりでござるよー、康代殿」
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