【十六】宝田劇団の台本にびっくり
翌日の土曜日の放課後。
戦国転生五人組の康代、信美、利恵、秀美、光夏たちは北校舎にある多目的ルームに移動した。
中庭を挟んで学園食堂の反対側に位置する。
康代たちは、更衣室で学校のトレーニングウエアに着替えた。
均整の取れた五人の若い肉体に必要なのは体力だった。
天女の天宮静女は、運動は必要ないとのことで生徒会室の執務室で待っている。
康代とは、テレパシーで意思疎通が可能だから問題無いと言う。
何かあれば、静女は転移魔法で瞬間移動できる。
「康代、相変わらず、体形が整っているじゃないの」
『織畑さんだって、綺麗よ』
「また始まった」
利恵が突っ込みを入れる。
トレーニングウエアに着替えた康代たちは多目的ルームに入った。
大きな部屋の壁には大きな鏡と手すりがある。
バレリーナも練習出来る作りのトレーニングルームだ。
床は、真っ青な色のカーペットが敷かれている。
部屋の隅には、トレーニングマシンが何台か置かれていた。
端のワークデスクの上にはラジカセが置かれていた。
『徳田康代です。お世話になります』
「こんにちは、徳田さん」
「トレーナーの堺詩織です。みなさん、こちらへ、どうぞ」
詩織の背丈は、一七〇センチくらいで茶髪の髪を後ろでまとめたポニーテールがスポーツ選手らしく見える。
『今日は、突然、お願いしてご迷惑じゃなかったかしら』
「いいえ、大丈夫ですよ」
『今日は、何をご指導して頂けます』
「大勢いらっしゃるのでエアロビダンスにしましょう」
室内に、リズミカルな音楽が流れ始めた。
堺が説明を繰り返して練習は始まった。
徳田たちの頭脳明晰さとは裏腹に運動不足は歴然だった。
『本日は、トレーニングをありがとうございます』
「隣のシャワールームをお使いください」
『お気遣いをありがとうございます』
「来週もされますか」
『みんなの日程が合えば・・・・・・』
「お忙しければ、毎月二回は如何ですか」
「第二、第四土曜とか」
『そうですね。日程確認してから』
『明里が代表して堺さんにご連絡します』
「はい、私がご連絡をします」
明里光夏が答えた。
康代たちは、トレーニングを終えてシャワーを浴びたあと、執務室に戻った。
天女の天宮静女はトレーニングには参加せずに、ソファで読書をしていた。
「康代、この本は、面白いでござるな」
『高校の古文の教科書ですね』
「物語が沢山あって面白いでござる」
『それは、式部日記ですか』
「土御門のところでござる」
『じゃあ、紫の方ね』
「風情の表現が美しいでござる」
「秋のけはひ・・・・・・」
『そんな表現が出来た時代は素敵ですわ』
「そう言えば、宝田劇団から送り物が届いています」
秀美が言った。
『あら、何かしら』
「私が開封しましょう」
明里が口を開いた。
「康代さん、これです」
『あら、公演の台本と降板表ですね』
『日程とも関係があるから光夏さんにお願いするわ』
光夏は手紙に気付いて読み上げた。
「康代さん、人員が足らないそうです」
「文面には、端役の二、三人を手助けして欲しいとのこと」
「公演の練習稽古は三日間の予定とされています」
『じゃあ、うちの演劇部にお願いして見るか』
康代、男言葉口調で周囲が緊張。
『秀美、演劇部との交渉をお願いします』
「康代さん、心得ています。交渉はお任せを!」
秀美は、出番とばかりに胸を張る。
「秀美さん、クラスメイトに演劇部の人いるから紹介しようか」
「光夏さん、辱い」
「まあ、秀美と光夏、お芝居が上手ね」
利恵の言葉に康代や信美も笑う。
「拙者も同じでござるな」
『そうね、万が一の場合の補欠にいいですね。
ーー冗談です』
『でも、収録をライブでなく録画にすれば、どうかしら』
「そうなれば、光夏の手も空きますわよ」
利恵は言って光夏を見た。
「大丈夫ですよ。神聖女学園の演劇部は優秀ですから」
「光夏、無難に逃げましたね」
信美が言う。
「康代さん、演劇部にお願いに行きます」
『あら秀美、もう消えているわ。本当に早いわ』
「前世から秀美の性格は変わりませんね」
信美は笑いながらため息を吐く。
明里光夏は、公演の台本のタイトルを見て驚いている。
「康代さん、このタイトルは」
『光夏、どうされましたか』
「神聖女学園臨時公演の横のサブタイトルが
ーー宝田オリジナル古典絵巻・・・・・・」
『オリジナルは分かりますが、絵巻ですか』
康代は、光夏から手渡された台本のページを捲った。
『これは、代表古文の総集編の再編集みたいですね』
「びっくりしたでござる」
光夏が台本について、担当者に問い合わせて見た。
「それですか。臨時公演と聞いて以前から準備していた。
ーーオリジナル台本を今回の公演用に割り当てました」
光夏は礼を言ってホログラム携帯を切った。
『有り難いことですわ。
ーー光夏さん、生徒会メンバーにもお願いして』
『台本を端役の人数分、準備してください。
ーー大勢で分担するのが基本よ』
「康代さん、ありがとうございます」
光夏は隣室の生徒会室に移動した。
その頃、秀美は演劇部の部室を訪問していた。