【一四六】明日から東和暦二年になるわ!
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
天宮静女は雨の校庭を見ながら徳田康代に尋ねた。
「康代殿、向こうにも教室があるのでござるか? 」
『静女さん、神聖女学園はね、中等部、高等部に加え旧制度の大学と大学院もあるのよ』
徳田康代は丁寧に静女に説明を始めた。
神静女学園の校舎は、ショッピングセンターやリニア式モノレール駅がある西側の総合施設、西校舎、東校舎で構成されている。
東校舎に隣接する学園寮、その先にある旧体育館、空中浮遊滑走路があった。
総合施設は、西側から、プール、武道場、大講堂、体育館、旧武道場に分かれていた。
競技かるた部は旧武道場にあり、かるた部とかるた会が共有している。
学園は統廃合のあと、神聖女学園に、白波女子高、有馬女学園の生徒が編入していた。
『静女さん、ここまでは知っているわね。
ーー そして、その関係で、校舎は東校舎と西校舎に分断する工事があったの』
「康代殿、西と東でござるか」
『そうよ、西校舎に生徒会や高等部があるのよ。
ーー 東校舎には、中等部と旧制度の大学と大学院があるの』
旧制度の大学は、高等部四年、五年と大学一年、二年分かれていた。
大学院は大学に統合され、卒業制度が廃止されている。
「じゃあ、康代殿、西校舎の中庭に見える窓も教室でござるか」
『あれはね、合同図書室よ』
「合同でござるか」
『そうよ、あそこは、中等部、大学、高等部で共有しているのよ』
「康代殿、静女と一緒に図書室見学でござる」
康代は、静女の性格を理解して、その先にある不都合を悟った。
康代は、一時的な眩暈を感じながら、慣れている自分であることを知る。
『まあ、いいわ。静女、でもね、エスカレートは良くないわよ』
「エスカレーターでござるか」
康代は静女を見て睨んだ。
「康代殿、古典の本がござるかな」
『静女さんは、本がお好きな神さまね』
「康代殿、天女を揶揄うのは不敬でござる」
康代は、自分の軽口を反省して、静女を案内した。
「大きな本棚でござる」
『リモコンで梯子がスライドするわ』
静女は、康代の言葉を無視するかのように、空間を浮遊しながら本棚を覗き込んでいる。
『静女さん、知らない人が見たら、幽霊に見えるわよ』
「康代殿、今は透明モードでござるから、康代殿以外の者には見えないのでござる」
徳田康代は、大きな深呼吸をして頭の中を切り替えることにした。
『静女さん、月の双子の女神は、どうなっていますか』
「太陽の女神サンカラリアさまのお陰で宇宙会議に招待されているでござる」
『宇宙会議って、セリエさまが参加された神さま会議ですか』
「宇宙で起こる問題がテーマと聞いたことがござる」
『もう、途方もなく壮大な内容に、康代の頭はくらくらしそうです』
神さま見習いのセリエが康代と静女の前に現れた。
「康代、珍しい所におるにゃあ」
『セリエさま、おはようございます』
「新しい知らせがあるにゃあ」
『ーー なんでございますか? セリエさま』
「月の予定が巻いておるにゃあ」
『繰り上がりでしょうか』
「そう、にゃあるが、何も起こらぬにゃあ」
図書室にいた天文部の生徒が空を指差していた。
「始まったようにゃあ」
『セリエさま、何がでございますか』
「女神ムクリアと女神ハレリアのランデブーにゃあ」
図書室の窓際には、中等部、高等部、大学の女子生徒たちが人垣を作っていた。
「ほらほら、あれよ! 」
「ええ、なになに」
「あの虹のあたりよ」
「ええ、あれ、なに・・・・・・」
『セリエさま、静女さん、急いで執務室に戻りましょう』
天宮静女は読書を諦め、康代を生徒会執務室に届けた。
セリエ、静女は、応接室の窓から大空を見上げる。
雨は上がり、虹が見えている。
その虹の上に女神ハレリアの月が見えている。
女神ムクリアの月よりは小さく見えていた。
「月の女神のお陰で、磁気津波を反射してくれそうにゃあ」
門田菫恋が白いスカートスーツ姿の田沼光博士と若宮早苗助手を執務室の応接間に案内した。
『門田さん、ご苦労様、あなたも同席してください』
「はい、大統領」
「徳田大統領、いよいよ天体ショーが始まりましたね」
若宮が言った。
『でも、まだまだ小さいわ』
「そうですが、問題はどこまで接近するかです。
ーー 過去の最大接近は三十五万六千キロメートルと記録にあります。
ーー この新しい月の大きさを見る限り四十万六千キロ以上離れていそうです」
『若宮さん、それは、従来の月の距離のお話ですか』
「はい、そうです。
ーー 月は毎月、接近と離脱を繰り返します。
ーー 最短接近から次の最短接近までが平均で約二十八日です。
ーー 最遠から最短は、その半分くらいなので約二週間」
『じゃあ、今が最遠なら次の最短は十四日後ですか』
「いいえ、この新しい月にはデータがございませんので分かりません」
康代と若宮の会話を聞いていたセリエが口を挟む。
「康代、女神ハレリアは、急停止を掛けながら接近してるにゃあ」
『セリエさま、急停止ですか』
「そうなるにゃあ。じゃから、おそらく、あと数日くらいだにゃあ」
『それが大接近ですか』
「そうなるにゃあ」
『セリエさま、何をすれば』
「皇国の国民を安心させることにゃあ」
康代は、明里光夏大統領補佐官を呼び、生徒会のネット配信室から緊急メッセージを流すように伝えた。
『田沼博士、若宮助手、明里と同席してください』
『門田さんは、豊下秀美副首相に徳田幕府と全国生徒会会議の緊急要請をするようにお願いします』
「はい、早速! 」
門田は、離席すると足早に隣室の生徒会室に消えた。
「康代、心配にゃいが、それで十分にゃあ。
ーー 民が驚くのは最初だけにゃあ。
ーー 数日後に注意にゃあ」
神さま見習いのセリエは意味不明な予言を残し消えて光になった。
「康代殿、数日後に注意でござるか」
『わからないわ』
康代は神使セリウス見て、想定外の事態が起こらないことを祈っていた。
虹の背後に見えていた月は、虹が消えたあと幻影のように消えた。
若宮助手が呟く。
「消えるほど早い動きなのかもしれない?
ーー 田沼博士どうしよう。
ーー 予測出来ません」
「若宮さん、大丈夫と信じて我慢しませんか」
「そうね、無駄な心配は、身体に悪いわね。
ーー こういう時、なんとか言う諺がありましたね」
「若宮殿、待てば回路のなんとかでござるよ」
『静女さん、なんとかは日和ありよ』
「そうで、ござった、“待てば回路の日和ある”でござる」
セリウスも静女の言葉に、他人の振りをしていた。
『早いわね、明日から東和暦二年になるわ』
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三日月未来