【一四四】月の女神が準備しておるからにゃあ!
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
天宮静女の呟きに、徳田大統領キャビネットのメンバーの顔色が変わった。
旧図書室は現在、生徒会室として再利用されている。
生徒会室の隣には、生徒会執務室を兼ねた大統領執務室が設置されていた。
今は、徳田康代大統領が大統領執務室として使用している。
執務室は傍目に質素に見えたが、実際は特殊な構造になっていた。
神聖女学園の四階の廊下をショッピングセンター方向に突き進む。
廊下の右側の窓から安甲神社の社の赤い屋根が見えている。
廊下の左側にはいくつもの教室が並んでいた。
生徒会室は長い廊下の突き当たり付近の左側にあった。
大統領執務室がある生徒会室の入り口の左右には、徳田幕府の女子高生警備が制服姿で見張りをしている。
女子高生警備とは名称であり、現役の女子高生ではなかった。
正確には神聖女学園卒業生であるが、徳田大統領の学校改革で卒業制度は存在していない。
執務室に行くには大きな生徒会室を通らなければならない。
受付の生徒会役員に訪問目的を告知するのが慣例になっていた。
受付前の透明なセキュリティー扉を通り、前が大きな生徒会室になっている。
図書室で使用していた、大きなワークデスクが並んでいる。
床には若草色のタイルカーペットが敷き詰められていた。
受付扉付近から右手奥に視線を移すと、観音開きの大きな木製の扉があった。
重厚な扉の両脇には、廊下とは別の女子高生警備が立っている。
執務室の出入り口扉前の両脇には、背丈の低い透明な板が挟むように立っている。
セキュリティーセンサー機能を備えている防犯装置だ。
執務室に入ると、左側の窓側前に大きな六人掛けのソファが置かれていた。
その前には低いテーブルがあり、二人掛けのソファが四脚置かれている。
ソファカバーの色は季節ごとに変わり、自由自在に変えることが出来た。
冬の寒い時期は、赤色が選ばれることが多かった。
大きな窓にある特殊な白いレースカーテンは、外部からの盗撮を防止していた。
学園のすべての窓ガラスは、徳田大統領が就任以降、防弾ガラスに変更されている。
窓側の大きな六人掛けソファを中心に、執務室の応接間となっていた。
応接間の反対側の出入り口近くには、大きな会議用デーブルが置かれている。
テーブルと廊下は壁一枚だったが、壁の中は鋼鉄構造に変更されていた。
執務室の出入り口の観音開きの扉前には、廊下に近い通路があり、会議用テーブルは壁から離れている。
執務室には、大統領専用デスクが置かれていない。
応接間と会議用テーブルの間には、作業用の大きなワークデスクがあった。
徳田康代大統領は、ワークデスクを日常的に使用していた。
ワークデスクの前方右側に執務室の大きな観音開き扉の出入り口が見えている。
デスクの後ろ側が応接間の大きな赤色のソファがあり、窓からの日差しが当たっていた。
そして、執務室の中には隠し部屋のような扉が、三枚存在していた。
ワークデスクの左側、つまり、応接間、ワークデスク、会議用テーブルが並ぶ、反対側の壁側には秘密があった。
壁にある左端の扉を入ると通信システムが並んでいる。
真ん中の扉の中には女神から頂いた大きな鏡がある、鏡部屋だ。
徳田大統領が不在の時は消える不思議な鏡だった。
鏡部屋の右隣に三枚目の扉があった。
中には更に二枚の扉があり、左側は仮眠室、右側は緊急脱出口となっている。
緊急脱出口は、女学園本館地下シェルターに通じるリニア式エレベーターが設置されていた。
神さま見習いのセリエの要請を受けて学園理事長が執務室を改造していたのだ。
天宮静女の声に促された康代たちは、通信室のホットラインの赤色ランプを確認した。
政府の通信責任者は明里光夏大統領補佐官の担当になっている。
明里がホットラインのディスプレイにパスワードを入力した。
「徳田大統領、火星基地が応答しています」
『明里さん、続けてください』
「大統領、ホログラム映像に切り替えます」
『どうぞ』
「大統領、火星の責任者が大統領に至急報告したいと」
『わかりました。明里さん、鏡の間に移動しましょう』
徳田大統領は、通信室と鏡の間を繋げる内部扉を開き移動した。
大統領は、大鏡をディスプレイに変えるための無詠唱を行ったが誰も気付かない。
「火星基地の芳野流子です。
ーー 大統領、お忙しい中をありがとうございます。
ーー 早速ですが、先日のモンスター級の磁気嵐で月基地から救援要請がありました」
『芳野さん、月基地は大丈夫ですか』
「はい、地下シェルターに避難しているようです。
ーー 旧式通信で火星に連絡がありました」
『ご無事なら、良いですが、それだけじゃありませんね』
「モンスター級の磁気嵐は、磁気津波となって、地球を直撃する可能性があります。
ーー 今回は月が身代わりでしたがタイミング次第では、大惨事も」
『前兆はありますか』
「東都の学園都市からも大きなオーロラが発生するでしょう」
『分かりました。磁気津波とオーロラですね。
ーー また、何かございましたら、よろしくお願いします』
「大統領、ありがとうございます」
徳田大統領は大鏡を解除して、大統領キャビネットと会議用デーブルの席に着いた。
明里光夏大統領補佐官が会議の進行を始めた。
「火星基地からの磁気津波情報を受けて、皇国の国民に臨時情報を考えています」
『明里さん、正確な情報が必要ね。
ーー 田沼博士と若宮助手を至急呼んでください』
「康代殿、至急でござるか」
静女の瞳がギラギラと輝き康代を見た。
『静女、嬉しいけど、人の身体にはストレスがあるのよ』
康代の言葉は、静女には届かず、静女は康代の前から消えていた。
「あっ、頭がくらくらするわ。
ーー よく分からないけど、田沼先生、ここは生徒会室の入り口ね」
「若宮さん、大統領に呼ばれていましたね」
二人は、天宮静女の催眠術の中で記憶が混乱している。
生徒会役員の門田菫恋が気付き、二人を執務室の会議用デーブルに連れて行った。
「じゃあ、明里さん、あとはよろしくお願いします」
「門田さん、いつもありがとうございます。
ーー 先生たちは、こちらにどうぞ」
田沼光博士と若宮咲苗助手は、徳田康代大統領の向かいの席に腰掛けた。
『先生、お忙しいのに、度々、すみません』
「大統領、今回も、例の月のことでしょうか」
『火星基地から、緊急連絡がございました。
ーー 月の基地が磁気津波でダメージを受けたそうです。
ーー その津波がまた起きるそうです』
「規模は」
徳田大統領に代わって明里光夏大統領補佐官が答える。
「博士、モンスター級の磁気津波と聞いています」
「そうですか。理論値も役に立たないですね」
「どう言うことでしょうか」
「おそらく、巨大フレアが地球のシステムに壊滅的なダメージを与えるでしょう」
『博士、回避方法はありますか』
徳田が尋ねた。
「データが存在しないのです。
ーー 未経験ゾーンの場合は」
『オーロラが前兆と聞いていますが』
「果たして、オーロラで済みますかね」
『どう言う意味ですか』
「地球の大気層に大きな圧力がかかることを、想像してみてください」
徳田康代大統領とキャビネットの面々は頭を抱えた。
「大統領、とにかく、徳田幕府に要請をしましょう」
『そうね、豊下副首相。
ーー 明里は、緊急配信の準備を。
ーー 田沼先生と若宮助手は明里と同席を』
「徳田大統領、緊急配信はいつですか」
『万が一、国民生活に影響が出ないうちに注意してもらいましょう。
ーー 特に停電や飲料水などについてね。
ーー と言うことで、すぐよ』
豊下秀美は、徳田幕府と女子高生全国会議に緊急要請を丸投げした。
明里光夏は、生徒会室にあるネット配信室に田沼と若宮を案内した。
三人は配信内容を打ち合わせ大統領に報告する。
「大統領、いつでも配信可能ですが」
『明里さん、ちょっとだけ待って』
徳田康代大統領は、神使セリウスと相談して、神さま見習いのセリエに問い合わせすることにした。
[康代、なんかにゃあ]
[セリエさま、磁気津波ですが]
[聞いておるにゃあ]
[それで、どうすれば]
[康代よ、信じることにゃあ。
ーー まだ何も起きてにゃいからにゃあ]
[月の基地が]
[あれはにゃあ、月の問題にゃあ]
[と言うと]
[双子の女神の影響にゃあ]
[磁気津波では]
[あれは、別物にゃあ]
[地球は]
[康代よ、女神が準備しておるからにゃあ]
[国民への告知は]
[心配にゃい]
[ありがとうございます。セリエさま]
『明里さん、今日の配信を中止にしてください。
ーー 豊下さんは、緊急対応の継続準備と宇宙発電所の手動体制をお願いします』
徳田康代大統領は会議用デーブルを離れ静女がいるソファの窓辺に立ち、大江戸山脈を見て目を細めていた。
『静女、今日もお天気が良いわね』
「康代殿、月の女神が準備しておるからにゃあ」
『静女ったら、セリエさまの物真似が上手いわね』
「静女は、天女でござる」
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三日月未来