第三十章【一四二】あと七日でござるよー
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
「徳田さん、天宮静女さんは、ご一緒じゃないのですか」
『門田さん、静女は天女だから、神さまのお仲間でしょう。
ーー だから自由に動けるのね。
ーー 多分、もう先回りしていると思うわ』
「先日のお天気が嘘のように、青空が広がっていますね」
『門田さんは、青空が好きなんですか』
「いいえ、自然のキャンバスって凄いなあと思う程度です」
『そうね、大空は神さまのキャンバスね』
二人の後ろを徳田幕府の女子高生警備三名が同行していた。
警備三名は、生徒会執務室の廊下で、執務室専用女子高生警備と代わり、控え室で待機することになる。
大統領執務室に入ると制服姿の神使セリウスと天女天宮静女が康代を迎えた。
明里光夏、豊下秀美も先に到着していた。
『光夏、今回の件って、いくつかのハードルがあると思うの。
ーー 例えば、情報の正確な把握や政府への信頼。
ーー それをクリア出来て、対策と防止策じゃないかしら』
「康代さん、防止策って」
『パニック防止策ね。
ーー 田沼さんたちは相殺と簡単に言うけど実際は、どうかしら』
「康代さん、月が二つ並ぶことが無ければ、気付く人は少ないかと思うけど」
『秀美の言うのも正論ね。
ーー でも世の中って・・・・・・。
ーー 天体オタクとか、地震予知研究会みたいなグループが沢山あるのよ』
「オタクって、専門家より詳しい人も多いから。
ーー 意外に注意ね」
と言って、光夏は小さな溜息を漏らす。
『出口の見えないトンネルの入り口を覗き、迷っている仔羊みたいな心境ね』
神使セリウスが康代に言った。
「康代さん、もうじき分かることです。
ーー 何も起きないことが」
『セリウスさまのお言葉で、肩の荷が軽くなった気分よ』
「康代さん、セリウスさまの仰るとおりと、私も思います。
ーー 今は、待ちましょう」
「私も秀美に賛成です。
ーー 事前対処は、この場合、逆効果じゃないでしょうか。
ーー 何も起こらないことを目の前で体験した上で、
ーー 科学的裏付けを発表するのが、政府と国民の信頼関係に良いかと」
『そうね。光夏、ありがとうございます』
天宮静女は、執務室の窓際のソファで、レースカーテンから漏れる冬の日差しで日向ぼっこをしていた。
静女の紫色の長い髪の毛がなんとも艶美な雰囲気を醸し出している。
「康代殿、月の波動が聞こえるでござるよー 」
静女の紫色の瞳がキラキラと輝いた。
『静女には聞こえるの』
「ええ、女神ハレリアさまと、女神ムクリアさまの楽のしげな波動のダンスがでござる」
『静女、もうそんなに近いの? 』
「数日でござる」
生徒会役員の門田菫恋が執務室の入り口で、田沼光博士と若宮咲苗助手の到着を明里に伝えた。
明里光夏大統領補佐官が康代に伝える。
「康代さん、先生たちをお通しします」
田沼と若宮は、午前中スカートスーツを真紅のワンピースに着替えていた。
朝と同じ会議用テーブルに田沼と若宮が加わり全員が席に着いた。
明里が田沼に計算結果を単刀直入に尋ねる。
「映像を見た時は腰を抜かすほどに驚きましたが、
ーー 若宮さんが計算した結果、まだ時間があるそうです。
ーー 移動速度は一定じゃありませんので」
『田沼さん、一定じゃないとは』
「自動車や電車と違い移動速度が変化します。
ーー もしも、移動速度が変化しない場合は衝突します。
ーー 車がカーブで減速するように・・・・・・。
ーー 必ず減速の時期と加速の時期を繰り返します」
『それで、田沼さん、いつと思われますか』
「予定より遅れて、今日から六日後かと思われます」
『六日後か?
ーー 先生、リスクはありますか』
「大統領、それだけは、ご勘弁を」
『セリエさまのトラウマね。
ーー そうね、一歩間違えれば神さまのお仕事になるわね』
神さま見習いのセリエが執務室の中に突如現れた。
「康代、予を呼んだかにゃあ」
『はい、月のリスク回避の件で、田沼博士と若宮助手に協力して頂いています』
「で、田沼は、なんとにゃあ』
康代は田沼を見ながらセリエに言った。
『六日後と』
「うううん、違うにゃあ」
『セリエさまは』
「そうにゃあ、女神ハレリアの神使に聞いてみるにゃあ」
セリエは、そう言って消えて光になった。
田沼と若宮の二人にはセリエが現れたことも見えていない。
セリエの意識体だけが康代の前で具現化していたからだ。
康代はセリエの言葉に従い、セリエの連絡を待った。
[康代、セリエだにゃあ]
[セリエさま、お待ちしました]
[女神ハレリアの神使に、確認したにゃあ。
ーー ご到着は、来週の同じ曜日だにゃあ。
ーー 七日後になるにゃあ]
[セリエさま、ありがとうございます]
[康代たちは、事後報告に徹することにゃあ]
[はい、セリエさまに従います]
[もうしばらくしたら、戻るからにゃあ。
ーー それまで元気でにゃあ]
[楽しみにしております]
康代はセリエとのテレパシー交信を終えて明里光夏に質問をした。
『明里さん、その後、火星基地との連絡を維持していますか』
「はい、あの後も何度か」
『今、何か連絡ありませんか』
「いいえ、先日の通過の際の磁気異常以外は、ありませんが」
『そう、分かったわ』
康代は、田沼と若宮を見ながら言った。
『神々の予定では、来週の同じ曜日になるそうです』
「では、大統領、七日後ですね」
『そうなるけど、何も起こらないわよ』
「でも計算では、六日後でした」
『セリエさまが神々に確認した結果なので間違いはありません』
いつもと違う徳田康代の断定的な口調に、田沼と若宮が驚いている。
明里光夏大統領補佐官が徳田康代に尋ねる。
「大統領、国民への発表は、どうされますか」
『明里補佐官、少なくとも今日ではありません』
「では、いつですか」
『国民の多くが気付いてからで良いでしょう。
ーー そこで明里補佐官が発表してください。
ーー 安全と安心をね』
「じゃあ、今回は事後報告ですか」
『悪戯に不安を煽りパニックを誘発する方が怖いことです』
豊下秀美副首相が急に立ち上がり徳田に賛同して、他のメンバーも続いた。
『じゃあ、発表は来週の同じ曜日で決定ですね。
ーー 田沼博士と若宮助手も同席をお願いします』
大統領執務室の窓際で大江戸山脈の山々を眺めていた天宮静女が唐突に言った。
「康代殿、お楽しみがお預けでござるよー」
『静女、そんなに期待して、何かしたいの』
「静女は、月見善哉の予定でござるよー」
静女の言葉で緊張の糸が切れて、女子高生たち全員に笑みが戻った。
『あと七日ね・・・・・・ 』
「あと七日でござるよー 」
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三日月未来