【一四一】早引きじゃないでござるよー
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
翌日の朝、徳田康代と大統領キャビネットのメンバーが、生徒会執務室の会議テーブルを囲んでいた。
田沼光博士と若宮咲苗助手も同席することになる。
明里光夏が挙手をして立ち上がり、徳田康代大統領に質問した。
「大統領、今回の新しい月の件ですが」
『明里補佐官は、どうされたいのですか』
「はい、悪戯に不安を煽るより、静観がよろしいかと」
『そうね、でもアマチュア天体ファンが気がつくでしょう。
人の口に戸は立てられぬと、昔から言いますから』
「では、大統領は、どうされますか」
『うん・・・・・・。
ーー とりあえず、報道で不安助長しないようにさせましょう』
「じゃ、報道遮断ですか?」
『いいえ、不安を助長させないようにするだけで十分ですが』
豊下秀美副首相が徳田に視線を合わせて挙手をする。
『豊下さん、どうぞ』
「大統領、不安助長させない方法がわからないのですが」
『豊下さんの言う通りね。
ーー なんとかしないといけないわね。
ーー 田沼博士、良い知恵はありませんか?』
「・・・・・・。
ーー 大統領、デメリットをメリットで相殺するのは如何でしょうか。
ーー 例えば、年に一度、タイミングが合えば双子の月を鑑賞できるとか。
ーー 月のバリアで太陽風を軽減できるとか」
『若宮さんは、如何ですか』
「はい、田沼先生と同じ意見ですが、月のバリアが二枚になることで、
ーー もしかしたら地磁気にも変化が期待できるかも知れません」
「若宮さん、それは良い意味と捉えてよろしいでしょうか」
前畑利恵副大統領が言った。
「はい、そう思います」
「じゃあ、明里大統領補佐官に報道をお願いしたら如何ですか。大統領」
織畑信美首相が徳田を促した。
『そうね、明里補佐官、田沼博士と若宮助手に協力して
ーー 政府ネットワークから配信をお願いします。
ーー 配信時期は、どうしましょうか、田沼博士』
「ええ、若宮助手と相談してみないと、まだ」
『じゃあ、若宮さんは』
「はい、再計算してみないと・・・・・・」
『じゃあ、田沼博士、若宮助手、あとで明里補佐官に連絡をください。
ーー ただ、あまり時間は無いわよ』
「大統領、二時間頂ければ、ありがたいのですが」
『そう、今、午前十一時なので、お昼もあるので、
ーー 午後三時再集合では如何でしょうか』
「ありがとうございます。大統領。
ーー その時間なら間に合うと思います」
若宮が言った。
学者二人は立ち上がり、徳田康代大統領に一礼して生徒会執務室を出て行く。
『じゃあ、みなさん、午前の臨時会議を散開して、
ーー 午後三時に執務室に再集合でお願いします。
ーー ちょっと早いですが、お昼にしませんか』
「康代さん、一階ですか?二階ですか?」
『そうね、秀美はどっちがいいの』
「ーー 今回は昨日と同じ一階にしましょう」
『分かったわ。じゃあ、秀美・・・・・・。
ーー あら嫌だ、もういない。
ーー あの性格、治らないわね』
康代と大統領キャビネットのメンバーは、女子高生警備に前後を囲まれ食堂への廊下を移動した。
傍目からは女子高生の集団が移動している風にしか見えない。
女子高生警備は、スタンガン、レーザー銃、催涙スプレーを携帯していたが、最大の武器は簡易魔法だった。
但し、実際に使用されたケースは、これまでに発生していない。
康代が食堂に到着すると秀美が大声で康代を呼んでいた。
秀美の傍には、安甲晴美、川霧桜、川霧椿が並んでいる。
『あっ、先生たちも早いお昼ですか』
「そうね、午後の枠を広げたくてね」
『昼食で練習時間が分断されるのも不便です。
ーー ところで、先生、午後は何をされますか』
「そうね、練習試合でもしましょうか」
『方法は?』
「ねえ、桜さん、椿さん、何が良いですか」
川霧桜と椿は、小さな声で囁く。
「あみだ・・・・・・」
地獄耳の豊下秀美の耳にも、川霧の囁き声が届いていた。
「康代さん、あみだ、作りましょうか」
『秀美、助かるわ。よろしく』
「豊下さん、じゃ、あとで部室に来てください」
『先生、それは、いいんですけど、
ーー 午後三時には執務室に戻らないといけないのですが』
「分かったわ、じゃ、徳田さんたちは二時半までね」
『ありがとうございます。先生』
豊下秀美は昼食を終え、生徒会室に戻り明里光夏の協力を得て、あみだを完成させて矛盾に気付く。
あみだの先には、対戦番号が書かれていたからだ。
「じゃあ、明里さん、自分の番号を決める籤も必要になるわけですね」
「秀美、それなら二度手間なので、あみだをやめ、単純な籤にしましょう」
「私も光夏の案に賛成します」
秀美と光夏は二種類の籤を部室に持参して、光夏が説明をした。
「この箱の中に番号が入っています。
ーー 最初に自分の番号を決めてください。
ーー 次に運営、この場合、秀美が対戦カードの番号を籤で決めます。
ーー 秀美が引く二枚が対戦カードになります」
「秀美さん、あみだは」
安甲が尋ねた。
「籤の矛盾に気付いて、単純化させて頂きました」
「そうね。この方が早いわね」
「じゃあ、安甲先生、川霧桜さんから順に番号を引いてください」
安甲は豊下が抱えている箱の中に手を入れ一枚を引いた。
「先生、何番ですか」
「私は、十一番よ」
秀美が光夏に伝える。
「安甲先生は、十一番」
光夏がホログラムホワイトボードに、安甲十一番と書き込む。
部員と会員たちが次々に籤を引いた。
光夏がボードに名前を書き終えたのを待って、秀美が対戦カードを発表した。
「十一番と二十番」
二十番に注目が集まり、ホワイトボードに視線が集中した。
光夏が言った。
「二十番は、唐木田葵部長です」
十一番、安甲
二十番、唐木田
十五番、川霧桜
十八番、森川楓
・・・・・・
明里光夏がホログラムホワイトボードに名前を書き込み時刻を見た。
携帯の時刻は十二時半になっている。
「秀美、これ終えたら執務室に戻らないと」
「そうでした。
ーー 康代さんは、あとで合流ください」
『秀美、お手伝いありがとうね。
ーー じゃあ、あとでね』
しばらくして、豊下秀美と明里光夏が戻ると、天宮静女が康代の前に現れた。
「康代殿、時間は大丈夫でござるか」
『静女、まだ二時間以上あるわよ』
女子高生警備の三人は部室の入り口で待機している。
安甲が康代に近づき言った。
「徳田さんも、門田さんも、
ーー 向こうのお仕事が忙しいなら無理は禁物よ」
『先生、ありがとうございます。
ーー では、今日は少し早めの二時ごろに、切り上げたいと思います』
「私も康代さんと同じ時間までにさせていただきます」
「康代殿と菫恋は、早引きでござるか」
『静女、これは早引きじゃないわよ』
「早引きじゃないでござるよー」
旧武道場の部室の隅にある大きな窓から柔らかな陽が差し込んでいる。
午後の黄色い光の束は扇状に広がり、部室の畳を舐めるように暖めていた。
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三日月未来