【十四】臨時公演の準備が始まった!
徳田康代たちは、大統領執務室を兼ねた生徒会の執務室に戻った。
こういう新しい企画に向いているのは、豊下秀美だ。
『秀美さん、新しい企画なんだけど、宝田劇団に交渉して欲しい』
「何をですか」
『演劇ですよ』
「演劇ですか」
『そうよ、演劇です。
ーー学園都市で毎月、臨時公演をお願いしたいの』
『生徒達も喜ぶと思うのよ』
「場所は、何処ですか」
『学園都市の神聖女学園講堂よ』
「メリットは、何でしょうか」
『全国配信して、国民を喜ばせるのよ。
ーーもちろん徳田幕府の援護も必要になるわ』
『神聖女学園の講堂なら問題も少ないと思うの。
ーー何よりも生徒達が喜ぶわ』
『今の東都は五月以来、心休まる環境には程遠い気がするの』
「そこで娯楽が必要なんですね」
『秀美さんは、光夏さんと協力して、このプランを成功させて欲しいのよ』
光夏が質問。
「私は何をすれば良いのですか」
『責任者との交渉は、秀美さんにして、
ーー光夏さんは、そうね、講堂の使用日程とネットの全国配信をお願いするわ』
「分かりました」
『利恵さんは、先方の日程の調整を秀美さんと一緒にお願いします』
「了解」
『信美さんは、みなさんの総括とサポートをお願いします』
「みんなで頑張りましょう」
『私は、信美さんと一緒に行動します。
ーー静女は、いつも通りに私のサポートをしてくださいね』
「心得ているでござる』
こうして転生女子高生達の今回の企画への分担が決まった。
『秀美さんは劇団の担当者に連絡して協力依頼をお願いしてくれ』
康代が男言葉になる時は本気モードだった。
徳田康代と天女の天宮静女は、ショッピングセンターの書店に立ち寄る。
先日の宝田劇団の大スターの演技に感動して古典全集を探していた。
『静女、あれは、天の羽衣のところでしょう』
「拙者は、古典は知らぬでござる」
『そうね、静女からすれば、あれは今の時代の小説と同じだね』
「人間は、嘘つきだから平気で嘘を繰り返すでござる」
『そうね、そのうちに嘘と本当が分からなくなるのよ』
「左様でござる」
『人間の無意識がそれを自動記録するとか本で読んだわ』
「潜在意識でござる」
『嘘の上塗りを繰り返せば、どうなるかしら』
「無意識の創造が現実を変えるでござる」
『時代が変わっても人の無意識の構造は不変ね』
「錯覚と思ったことが真実になる瞬間でござるな」
『そういうことに気付く人間はすごく稀なのね』
「そうで、ござるな」
『さて、こちらが勉強不足にならないように知識ガードしましょう』
「これが、良さそうでござる」
『そうね、それとこれにしましょう』
「良いと思うでござる」
『静女の太鼓判なら安心ね』
「照れ臭いでござる」
徳田康代と天宮静女は、生徒会室の執務室に戻った。
殺風景な部屋の青色のソファで、豊下秀美と明里光夏が待っていた。
『あら、秀美さん、光夏さん、早いわね』
「そこのお花は何でござるか」
「秀美が持って来たのよ」
光夏が言う。
「赤いハイビスカスが咲いていたので拝借しました」
「よくないでござるよ」
『そうね、本来なら良くないわね』
「秀美、良くないね」
光夏も言葉尻を追いかけた。
『今回は、お咎め無しですが良くありませんわ』
「すみません」
秀美は、ぺこりと頭を下げた。
『ところで、秀美さん、宝田劇団との話はどうなってますか』
「はい、依頼に関しては特に問題な点はありません」
「ただ、劇団員の日程調整がまだです」
『光夏さん、神聖女学園の講堂は、どうですか』
「言いにくいのですが、あまり空きが無い状況です」
『そうですか。日程のすり合わせが峠になりそうね』
『ところで、今日、古典の代表作を購入して来たので』
『みんなで古典の勉強会をしませんか』
「文学でござるな」
『宝田劇団の団員が来た時に古典を知らないじゃ困りますし』
「そう思います」
光夏が賛同した。
『じゃ、勉強会は、生徒会を中心にしましょう。
ーーみんなで情報を共有する方向でね』
「そうですね。試験勉強じゃないし」
秀美が嬉しそうに言う。
『そうね、試験勉強じゃないわね。
ーーこれは、ある意味で知識の鎧なのよ』
「鎧でござるか」
『そうなの、知識は身を守る鎧なの』
「無知は悪の肥やしでござるからな」
『前政府時代に不必要な法律や条例が沢山作られていたわ』
『その多くは議員を守るための法律だったの。
ーー皇国に必要なのは無知な人達を減らすことなの。
ーーそしてそれは何よりも民のためで無ければいけないの』
「神の法の下でござるな」
『ちょっと、話が逸れたようですが、
ーー良い機会ですから古典を勉強しましょう』
「一石二鳥でござるな、康代殿」
「康代さん、事前知識があれば、舞台の楽しみも増えますね」
「光夏の言う通りでござる」
「秀美も光夏と同じでござるか」
秀美は髪をいじりながら頷く。
次の日の夕方、明里光夏を中心に古典の勉強会が開かれた。
光夏の説明の後で、康代が口を開いた。
『今度の新しい企画のための予習です。
ーーある意味、予行練習です』
『折角、宝田劇団の役者さんが来られた時、
ーー何も知らないじゃ失礼です』
『失礼にならない程度の知識武装をしましょう』
「会長、宝田劇団が来られるのですか」
『まだ、調整段階ですが交渉しています。
ーー生徒会が中心になって盛り上げてくださると嬉しいのですが』
「私は、会長を応援します」
メンバーの一人が答える。
するとーー次々に賛同の声が生徒会室を満たした。
神聖女学園の生徒会の女子高生は宝田劇団が好きだったのです。