【一二九】 セリエさまと静女に感謝ね!
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
神聖女学園内に設置されている地震研究室では、田沼光博士と若宮咲苗助手の共同執筆[小説マグニチュードテン〜アトランティスの再来]が完成に近付いていた。
殺風景な研究室には、高等部の地震前兆倶楽部の女子高生がお手伝いに出入りしている。
彼女たちにとって、田沼と若宮は憧れの研究者だった。
田沼と若宮の二人は以前から、マグマ対流説を軸に地球と月の引力関係を研究している。
地球物理学と天体を合わせた研究は、前政府時代も地震利権に忖度しない自由な発想だった。
すべての垣根が自由な取り組みに[限界]と言う二文字が存在していなかった。
二人は、火山学者とか地震学者という言葉を嫌っていた。
あくまでも地震前兆にこだわる二人の姿勢が、女子高生たちの共感を呼んでいる。
「若宮先生、この震央分布は、なんでしょうか」
「これは、泡ね」
「泡ですか」
田沼が若宮の説明を引き継ぐ。
「鍋で、お湯を沸かしてご覧、沸騰する前には無数の泡が上昇するでしょう。
ーー 自然も同じよ」
「じゃ、この泡の塊は、これから、ここで地震が起こる訳ですか」
「そうとも、言えないのね。複数以上の地震前兆が重なることが鍵なの」
「複数ですか」
「そうよ、深発地震って聞いたことあるでしょう。
ーー その中でも深さ三百キロメートルを超える地震を超深発地震と言うの」
「田沼先生、超深発ですか?」
「そうよ、それが大地震カウントダウンの合図ね。
ーー 噴火の前にもあるわよ。
ーー あと深発地震が直前に起こるケースもあるわ」
「じゃあ、深発地震が起きて無ければ大丈夫なの」
「田沼先生に代わって、私が続けるわね。
ーー その深発地震に月と地球の引力の駆け引きが加わるのよ。
ーー 海の波が動くようにマグマも月の影響を受けているわ。
ーー 地球と月に水飴を付けて引っ張り合うのよ」
「若宮先生、水飴ですか」
「そうよ、月が地球から離れると水飴は、どうなる」
「多分、水飴の糸が引きちぎれるわ」
「そうなると、地球は、月の影響から解放されるのよ」
「解放ですか」
「そうよ、その時、対流しているマグマはどうなるかしら」
「うん、多分、自由に動けるわけだから、活発になるのかな」
「そうよ、その時、超深発地震も発生しやすくなり悪条件が重なるのが鍵ね。
ーー そして大地震が起こるのだけど、ピークは年に約十二回あるわ。
ーー でも皇国内で深発地震が無ければ、他の大陸になるの。
ーー 北和、中和、東和とかね」
「じゃ、泡だけなら大きな揺れは起こらないのですか」
「悪条件が重ならなければと言う条件付きよ。
ーー それに深発地震のエネルギーは大きい傾向にあるの。
ーー それが起こると皇国でギッタンバッコンとモグラ叩きが始まるの」
「ギッタンバッコンとモグラ叩きですか」
「そうよ、未だ場所の特定は研究段階なの。
ーー だから、南が揺れたから北が安全とはならないのよ」
「それで、ギッタンバッコンとモグラ叩きなのね。
ーー ところで先生、今は師走ですけど、春にかけて大きな地震が多い気がしますが」
「そうね、月と地球の接近と離脱には、月アプローチと呼ばれるバイオリズムがあるのよ」
「バイオリズムですか」
「そのバイオリズムも、前期型と後期型があるわ。
ーー 春に多いのは前期型の典型ね。
ーー その前期型にも起伏の中でこことここが危ないわね」
若宮は生徒の前にホログラムディスプレイを広げてバイオリズムのグラフを見せて指で差した。
「じゃ、先生、予め、地震発生時期が分かってしまうの」
「そうね。でも、国民の不安を助長するから非公開なのよ」
「確かに、世の中にはいろんな人がいますから危ないわ」
「徳田幕府は、幸せ政策を優先しているから、負のエネルギー拡大は禁忌としているの。
ーー その代わり、徳田幕府は、いつも皇国民の側だから前政府に出来なかったことを沢山実施しているわ」
「永畑火山事件ですか」
「そうね、あれは神さまの天罰ね。
ーー あの天罰が無ければ悪魔のような悪政が続いていたわ。
ーー 徳田大統領と徳田幕府のお陰様で今は平穏でしょう」
「奈落総理は消えたわね」
「奈落ですか」
「女子高生はみんな、そう呼んでいますよ」
「・・・・・・」
若宮は、笑いを必至に堪えていた。
田沼が言った。
「若宮先生、まだまだ仕事の途中よ。
ーー あなたたちも資料の整理をよろしくお願いします」
女子生徒は、田沼に一礼して、やりかけの作業に戻った。
「若宮先生、神さまが聞いているわよ」
若宮は、舌を出して苦笑いしていた。
神さま見習いのセリエが、天女天宮静女に言った。
「また、あの二人が科学ごっこしているにゃあ」
「セリエさま、仕事でござるよ」
「そうだにゃあ、とりあえず看過だにゃあ」
黒川亜希と紀戸茜、尾上ゆかりの三人は、迷路のような通路に迷い混んでいた。
気付くと、最後尾にいた水上泉の姿がなかった。
黒川亜希は天才的なハッキング技術を有していたが稀に見る方向音痴だった。
セリエと静女は、それに気付き協力することにした。
「静女、じゃあ、行くにゃあ」
「セリエさま、お伴するでござる」
二人は、言葉を残して康代たちの前から消えた。
知らない人には、錯覚にしか見えない。
『本当、仲がいいわね。あの二人は』
珍しく康代が愚痴を溢す。
「セリエさま、あの三人でござるよー。
ーー 拙者がお声を掛けるでござるよー」
「任せたにゃあ」
「康代殿が、お待ちでござる。
ーー 拙者に付いて来るでござるよー」
静女が、そう言った途端、セリエが転移魔法を掛けて、前の場所に集団移動した。
黒川、紀戸、尾上の意識がぶっ飛んでいる。
気付くと別の場所にいたのだが無自覚で、三人は虚ろな表情になっていた。
水上が黒川に声を掛けた。
三人は催眠状態から覚醒したような表情を浮かべた。
目の前には徳田康代大統領、前畑利恵副大統領、織畑信美首相、豊下秀美副首相、明里光夏大統領補佐官、門田菫恋、千歳翼の七人待っていた。
「大統領、遅れて申し訳ありません」
『いいわよ。遅いから、帰ろうかとみんなで相談していたのよ。
ーー セリエさまと静女に感謝ね』
「康代殿に、褒められたでござるよー」
「気分いいにゃあ、静女」
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三日月未来