【一二六】 生徒会が知らない緊急時専用エレベーター
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
神聖女学園の大統領執務室には、大統領キャビネットのメンバー、前畑利恵副大統領、明里光夏大統領補佐官、織畑信美首相、豊下秀美副首相の四人に生徒会役員の門田菫恋を加えた五人が、徳田康代大統領の到着を待っていた。
徳田大統領は、女子高生警備数人を従えて執務室の中に入ると、外で待機している女性たちを手招きした。
『みなさん、こちらで、お願いします』
「大統領、こちらで宜しいですか」
明里が気付き、女性たちに手を貸す。
五人人の女性たちは、それぞれが箱を積んだカートを執務室入り口付近に止めた。
箱には、大統領キャビネットのメンバーの名前が書かれている。
明里と女性たちは、執務室の大きな青いソファの前にある、低いテーブルの上に箱を並べた。
明里光夏が女性たちに御礼を言って、彼女たちは大統領に一礼して執務室から退室した。
前畑利恵副大統領が徳田康代大統領に尋ねた。
「この箱は、なんですか?」
『大統領キャビネットの新しい制服よ。
ーー 静女のを見て発注を思い出して、神聖女学園の服装部に聞いてみたの。
ーー そしたら、至急、届けてくれることになったわけ。
ーー スリーサイズは登録済みのサイズなので大丈夫よ』
織畑信美が、自分の名前が書かれた箱から、ブレザージャケットとミディアムスカート、シャツを取り出し喜んでいた。
「神聖女学園の制服も大好きだけど、
ーー このジャケットの色に惹かれますね」
『信美、利恵、光夏、秀美、これは、以前からお願いしていたのよ。
ーー 色も静女のと似ているけど、微妙に違うわね』
利恵が言った。
「康代さん、生徒会役員の分もあるといいわね」
『生徒会のスカートスーツもあるわよ。
ーー 門田さんの分も、今、ここにいない人たちの分もね。
ーー 但し、カラーが違うけどね』
秀美が気付いて康代に言う。
「あの、このブレザーの胸にあるエンブレムの黒猫、
ーー どこかで見た記憶があるのですが」
『さすが、秀美は、勘が鋭いわね。
ーー そうよ、黒猫時代の神使セリエさまの姿よ』
「康代さん、それは、拙くありませんか」
秀美が言うと、音もなく女子高生姿の神さま見習いセリエが現れた。
「予が良いと康代に言ったにゃあ。
ーー だからにゃあ、心配はにゃい」
セリエは、そういうと消えて光になった。
『と言う訳で、みなさんは、ご自分のお名前がある箱をお取りください。
ーー 大統領キャビネットの制服をお取りください。
ーー 門田さんの分もあるわよ。
ーー 残りの生徒会役員の分は、さっきの人たちに任せてあるわ』
生徒会役員の分は、明るい紺色のスカートスーツだった。
大統領キャビネットは、ワインレッド色のスカートスーツで目立っている。
どのジャケットの胸にも黒猫のエンブレムがあった。
神使時代のセリエの金色の刺繍が御守りのように輝いている。
『じゃあ、みんな、隣の生徒会室の更衣室で、
ーー 新しい制服に着替えてください』
「あれ、康代さん、もう着替えていたの」
『秀美って、意外と気付いていないのよね』
徳田康代大統領は、既にワインレッドカラーのジャケットに、膝丈くらいのスカートを着用していた。
明るいワインレッドのジャケットに臙脂色に近いスカート、そして淡いピンク色のシャツが康代のお洒落を際立たせている。
康代は、大統領キャビネットの着替えを生徒会室の大きなテーブルで待っていた。
「康代さん、生徒会室の更衣室って、広いんですよ」
秀美が大きな声で言った。
『秀美、そんなこと言いから、
ーー じゃあ、みんな、着替えたわね。
ーー これから女学園の秘密基地に向かうわよ。
ーー 案内は、生徒会役員の門田菫恋さんがしてくれるわ』
「徳田さん、私は途中までしか許可されていませんが」
『大丈夫よ。大統領キャビネット随行ですから』
「はい、分かりました」
『じゃあ、みんな、地下に降りましょう』
徳田康代大統領と大統領キャビネットに門田菫恋を加えた六名は、神聖女学園の地下玄関に到着した。
門田菫恋がリニア式水平エレベーターの中に入って行った。
「大統領、これから、学園寮茶色の棟まで移動します」
茶色の棟の地下から、エスカレーターで地上に出るのが一般ルートだった。
徳田たち重鎮は、その地下から別のリニア式水平エレベーターに乗ることが出来た。
生徒会役員の門田菫恋ですら知らされていない秘密の移動エレベーターだった。
案内役は門田から明里光夏大統領補佐官に変わった。
「このルートは、特殊ルートなので、他言無用でお願い致します」
些か、光夏の口調に緊張が窺えた。
『じゃあ、光夏、お願いね』
「じゃあ、康代さん、動かしますよ」
『光夏、動いてないわよ』
「あの、明里さん、パスワードを入力していますか」
「ああ、門田さん、ありがとう。
ーー 忘れてました。
ーー じゃあ、動きますよ」
『これ、あんまり早く無いわね』
光夏はリニア式エレベーターが苦手なので、移動速度を低速に設定していた。
康代は、それに気付いて苦笑いを浮かべている。
「康代さん、旧体育館地下です」
『光夏、このあと、一般ルートを経由するの』
「いいえ、このまま、エレベーターホールがある場所まで移動します」
明里の言葉に門田菫恋は、別ルートであることを知る。
「明里さん、エレベーターホールって」
「門田さん、六台あるエレベーターホールですよ」
「明里さん、ショートカットで方向感覚が麻痺しそうですが」
と言って、門田は鏡の部屋のエレベーターホールを想像していた。
門田の勘は当たっていた。
見慣れた鏡の部屋に通じるエレベーターが目の前にあったからだ。
しかし、今まで門田は、この別のエレベーターを知らなかった。
「明里さん、このエレベーターって、
ーー もしかして見えない構造ですか?」
「はい、一般側からは、解除しないと見えませんね。
ーー だから、気付かれません。
ーー 緊急時専用ですから」
六台あるエレベーターホールに出ると、通常は右側にある三台を使用する規則だったが、明里大統領補佐官は左側の三台の一つを選んでエレベーターに乗った。
操作方法が同じなら、問題ないと門田は思っていたが、明里のやり方と門田のやり方が違うようで、門田は小さなショックを覚える。
「門田さん、右側エレベーターと左側エレベーターでは、
ーー 操作マニュアルが違うんですよ。
ーー 気にしないでください」
明里光夏が、リモコンを手にして言った。
「じゃあ、みなさん、席に付いたら、
ーー シートベルトをお願いします」
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三日月未来