【一二三】 カラクリの片鱗が見えたでござる!
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
地震学者の田沼光博士と若宮咲苗助手を交えてのお茶会になった。
徳田幕府本部、諜報員養成機関の黒川亜希は二十代中頃に見えた。
若宮は二十八歳なので黒川との年齢差に違和感がなかった。
黒川の颯爽とした白いスカートスーツが、師走の寒空の下では不似合いに見えた。
田沼と若宮は黒皮のスカートに同じ素材のジャケットを着ている。
真夏の頃の二人からは想像も出来ない黒ずくめな服装だ。
一方、徳田康代たちは、学園都市の地下通路に慣れていた為、冬服の制服姿だ。
豊下秀美がカフェの中から康代を呼んでいた。
『分かったわ、秀美、ありがとう。
ーー じゃ、みんな、中に入りましょう』
窓側から、田沼、若宮、黒川、水上、紀戸、尾上の順で六名が腰掛けた。
その対面に天宮静女、徳田、前畑、織畑、豊下、明里の大統領キャビネットの六名が順に腰掛けた。
康代たちは、大きなテーブルを挟んで、お見合いをするように向かい合った。
静女はいつもと同じ窓際の席を選んだ。
黒川亜希は大統領を守れる席を選んで腰掛けている。
徳田大統領の中枢がカフェでお茶会となった。
徳田康代は、田沼たちの服装を一瞥して、前畑に尋ねた。
『前畑さん、二度のデノミ以降、平均物価は落ち着いていますか』
「それが、一部で不穏な動きの報告が輪番代議士に上がっているそうです」
『国民の誰もが輪番代議士になれる時代ですものね、
ーー 不正や捏造、隠蔽あれば導火線に点火するのも当たり前ですわ。
ーー 織畑さんは、どう思うかな』
徳田は織畑信美首相に尋ねた。
「抜き打ちで徳田幕府の“女子高生査察官”に市場調査も必要です。
ーー リストデータだけですと改竄されている可能性を否定出来ませんので・・・・・・」
『ちょっと原始的なアナログ手段ですが必要ですわね。
ーー 大昔は棚卸しで帳簿と現物の違いから不正が発覚したこともあったのよね。
ーー 私たちは、人工知能に依存し過ぎて紙離れをしていますが、
ーー 見直しが必要な過渡期かも知れないわ』
豊下が挙手をした。
『秀美、何かあるの』
「いいえ、良かったら、黒川さんたちのヘルプをと」
明里が立ち上がって言った。
「私も秀美と一緒にお手伝いをしたいのですが」
『黒川さんは、どうですか?』
「今回の任務には、潜入はありませんが、
ーー 一部を棚卸しして帳簿の穴を見つけるのは賛成です。
ーー ただ、そうなると、お二人だけでは物理的に足りません」
『分かったわ。黒川さんたちが先行してデータの矛盾を見つけ、
ーー そこにピンポイントにアナログ式棚卸しを仕掛けましょう。
ーー 実行は、徳田幕府諜報本部として、
ーー 秀美と光夏は、その監督役でどうかしら』
田沼と若宮が気不味い表情を浮かべ天宮静女が気遣っていた。
『田沼さんと若宮さんのお仕事も無関係じゃないのよ。
ーー 不正は不穏に繋がり、やがて負のエネルギーを増大させるわ。
ーー 私たちは、第三のアトランティスの悲劇の種を刈るだけよ』
「徳田さん、私もあんなトラウマは二度と御免ですから、
ーー 出来る範囲で協力します」
『田沼さんと若宮さん、その素敵な皮のジャケット?
ーー 最近の物ですか?』
「ええ、最近、若宮さんと神聖ショッピングセンターを覗いていましたら、
ーー 今時、珍しいバーゲンセールに遭遇しました。
ーー そして、衝動買いを」
前畑が、田沼に尋ねた。
「田沼さん、失礼ですが、その素材は本物ですか?
ーー そして気になる購入価格ですが」
田沼光は、バッグからメモ用紙を取り書いて前畑に見せた。
「田沼さんは、素材と価格が合っていると思いますか」
「前畑さん、私たちは学者なので、その辺は無頓着なんです」
「なるほど・・・・・・」
前畑に続き織畑が田沼に質問した。
「その購入店の場所と店舗名を覚えていますか」
「はい、政府決済カードに記録がある筈です」
田沼が言うと、黒川亜希が田沼に言った。
「これから、私と一緒に、その場所まで付き合ってもらえませんか」
「はい、私で、良ければ」
水戸藩の水上泉が黒川を呼んだ。
「黒川さん、私もご一緒させてください」
水上に続き、紀戸と尾上も続いた。
「仕方ない生徒たちだな、研修気分なら怪我しますよ。
ーー 近くまで来たら、距離を置いて何かを見ている演技をするのよ。
ーー いいわね、分かった」
黒川の言葉に三人は小さく頷く。
「じゃあ、徳田さん、今日はありがとうございました。
ーー そう言う訳で、ちょっと裏取に行きます。
ーー じゃ、田沼さんと若宮さんだっけ、
ーー ご一緒をお願いします」
黒川と諜報女子高生三名は田沼と若宮を引き連れて、神聖ショッピングセンターの下りリニア式エスカレーターに乗った。
目的のフロアに到着して、黒川は、水上、紀戸、尾上に合図をする。
三人は、黒川から離れた。
「田沼さん、若宮さん、場所を覚えていますか?」
「多分、その先を曲がった辺りかと」
六名は近くまで移動したが、それらしい物を発見出来なかった。
黒川は、フロア責任者を呼び出し尋ねてみた。
「あの、この辺りで、バーゲンセールをしていたお話を聞いたのですが」
責任者の背の低い女性が無愛想に答えた。
「あのお店はスポットなのよ」
田沼が言った。
「スポットなんですか?」
「そうよ、単発よ。
ーー デパートや大型量販店にはよくある単発店ね」
黒川は責任者の女性に軽く会釈してカフェに戻った。
『黒川さん、どうでした?』
「はい、予想通りの展開でした。
ーー あとは、データの裏取と棚卸しの抜き打ちですね」
『じゃあ、黒川さん、明日からよろしくお願いします』
「カラクリの片鱗でござる」
静女は大江戸平野に沈む太陽と夕焼け雲を眺めている。
「明日も良いお天気でござるよー」