【一一七】海路の日和を待つ神聖かるた会 その一
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
安甲晴美は、試合前に、徳田、朝霧、逢坂に昔の諺を伝えていた。
「私の好きな諺は、”待てば海路の日和あり“だ。
ーー 意味はな、知っていると思うが、今は状況が悪くとも、
ーー 焦らずに待っていれば、幸運はそのうちにやって来る・・・・・・」
「だからな、先生の言いたいことは焦るなだ」
『先生、私もそう感じています。
ーー 焦りはミスの火種にしかなりません』
「徳田さんの言う通りだ」
安甲が言った。
神聖女学園かるた部とかるた会は、近江大会で全員が紺色の袴を着用していた。
着物は自由だったので、徳田康代は天宮静女のアドバイスで紫色を選んだ。
朝霧雫は鮮やかな朱色、安甲晴美は水色、逢坂めぐみは鮮明な原色の黄色を選んで準決勝に参加していた。
Bブロックの安甲と逢坂の試合は中盤に動いた。
安甲のフェイント戦略に逢坂がお手付きを重ねて、逢坂は安甲にリードを許した。
神聖女学園の応援席は、固唾を飲んで見守っている。
「セリエさま、康代も苦戦でござるよー」
「静女、心配ないにゃあ。康代で決まるにゃあ」
Aブロックも、朝霧のお手付きで徳田と朝霧の残り枚数が並ぶ。
徳田康代は安甲晴美のようなトリックを使わない。
もっぱら正攻法を得意としている。
応援の織畑信美と豊下秀美が複雑な表情を浮かべていた。
「秀美、勝っても茨の道は変わらんな」
「信美さまの言うとおりでございます」
「この試合に勝者はいないあ、秀美」
「仰る通りでございます」
「秀美、前世の癖、直せと言ったろう」
「はい・・・・・・」
専任読手が札を取って、前の札の下の句を詠みあげる。
徳田、朝霧、安甲、逢坂の腰が浮き、四人は前傾姿勢となった。
逢坂や朝霧は練習会で一字決まりの取りこぼしをしないように、徹底練習を重ねていた。
お経のように、声に出して口ずさんでいた。
一字決まりと言えば、七枚すべてが黄金札と変わらない。
【さ】
“さびしさに”、
下の句は、”いづくもおなじ“
【す】
“すみのえの“、
下の句は、“ゆめのかよひぢ”
【せ】
“せをはやみ”、
下の句は、“われてもすゑに”
【ふ】
”ふくからに“、
下の句は、“むべやまかぜを”
【ほ】
“ほととぎす”、
下の句は、“ただありあけの”
【む】
むらさめの”、
下の句は、”きりたちのぼる”
【め】
“めぐりあひて“、
下の句は、“くもがくれにし”
読手の声が会場に響いた。
「ほ・・・・・・」
空札だった。
応援席では、前畑利恵と明里光夏が大きなため息を吐く。
「前畑さん、かるたの空札って意地悪くないですか」
「まあね、ゲームですから、
ーー 空札ないと、トランプと変わらないでしょう」
「なるほど」
光夏だった。
【う】の二字決まりは、二枚だ。
“うかりける“
下の句は、”はげしかれとは“
”うらみわび”
下の句は、”こひにくちなむ”
「ただありあけの・・・・・・、ただありあけの・・・・・・」
「うか・・・・・・」
安甲と徳田は、【う】を聞いた途端に自陣札を押さえていた。
”うらみわび”が既に空札として出ていたからだ。
競技かるたでは、出た札を把握できれば、相手より有利なれることを徳田も安甲も知っていた。
朝霧雫も逢坂めぐみも記憶域が限界に近づいている。
二人とも肩で息をしていた。
安甲と徳田は左脳記憶法を使わない。
右脳中心による映像記憶法を使用していた。
文字でなく画像を脳裡に浮かべる方法だ。
僧侶が長い経文を覚える方法も右脳記憶法と言われているらしい。
再び、読手が一字決まりを詠み上げた。
徳田と安甲の自陣にその一枚があった。
朝霧と逢坂が狙っていたが瞬時の差で押さえられる。
試合は大きな変化が無いまま、徳田と安甲が残り一枚になった。
相手がミスすれば、決まる展開に徳田と安甲には余裕が窺える。
Aブロックは、徳田康代、Bブロックは、安甲晴美の勝利となって、決勝戦の相手が決定した。
逢坂めぐみが安甲晴美先生に挨拶している。
「先生、この試合が次で役立つように精進します」
「そうね、逢坂さん、素敵な試合でしたよ。ありがとう」
逢坂は、会釈して控えの間に消えて行った。
朝霧雫も、徳田に挨拶して控えの間に移動する。
C級会場準決勝で敗退した朝川夏夜と夜神紫依の二人は、A級会場に徳田の応援をしに来た。
「徳田さん、決勝進出、おめでとう」
朝川だった。
夜神も同じ挨拶をして宝田劇団の朝霧雫を励ましに行った。
「雫、残念ね」
「大丈夫よ。あのレベルになると運が大きく左右するわ。
ーー 大きなミスもしていないしね」
「なら、良かった。かるたもいいけど舞台もよろしくね」
「夜神さんに言われなくても、もう、頭の中は切り替わっていますから」
朝川、夜神、朝霧の三人は声を上げて笑い合っていた。
「しかし、雫、そのド派手な着物、目立ち過ぎよ」
「そうかしら、夜神さんたちも地味に見えませんが、
ーー それに、ファンサービスにもなるわ」
赤城麗華と大河原百合も駆けつけた。
後ろには、金魚のなんとかのようなメディアが付いて来ている。
「徳田さんの決勝が終わったら、今夜も稲葉旅館よ。
ーー そして、明日は東都に帰るわよ」
宝田劇団のスター五人はスケジュールを確認していた。
「康代さん、お疲れ様です」
『光夏、ネット配信はどうですか』
「順調に再生回数を伸ばしていますよ。
ーー このまま行けば、第二次かるたブーム到来ですね」
『光夏の言う通りになるといいわね』
神さま見習いセリエと天女天宮静女が女子高生姿でやって来た。
「康代殿、決勝でござるよー」
『静女、まだ時間じゃないわ』
「康代にゃあ、これで終わりじゃにゃいからにゃあ」
『セリエさま、まだ、何か・・・・・・』
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三日月未来