【一一六】同士討ち対決
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
準々決勝を終えて、準決勝進出の四名は、控えの間に移動して次の試合開始を待っている。
豊下秀美、織畑信美、前畑利恵、田沼光、若宮咲苗の五名が徳田康代と安甲晴美の陣中見舞いをしていた。
『豊下さん、B級会場はどうなっていますか?』
「唐木田さんと森川さんが、準決勝進出ですが」
「豊下さん、それで?」
安甲晴美だった。
「まさかの同士討ち対決です」
「森川さん、運が無いわね」
『A級もB級も同士討ち対決とは・・・・・・。
ーー 神さまの悪戯かしら』
神さま見習いのセリエと天女の天宮静女が康代の背後に来ていた。
「康代よ、神々は悪戯しているほど暇に見えるかにゃあ」
康代は背後からの声にドッキとして振り向いた。
黒猫姿に慣れた康代の前に、愛らしい笑顔を浮かべた女子高生姿のセリエがいた。
『セリエさま、大変な無礼をお許しください』
「康代よ、無礼じゃないにゃあ、不敬にゃあ」
『何卒・・・・・・』
「康代よ、冗談にゃあ。
ーー もっとリラックスしてにゃあ。
ーー この試合、誰が勝っても神聖女学園にトロフィーがやって来るにゃあ」
『そうでした』
「唐木田たちも、良い結果が期待できるにゃあ。
ーー 神聖女学園の黄金期と思うにゃあ」
セリエは告げると、天宮静女と一緒に煙のように姿を消していた。
知らない人が見れば目の錯覚と思う事だろう。
陰陽師安甲晴美が準決勝進出選手を集めた。
「いつも、かるた会やかるた部で練習している相手との試合になった。
ーー 手加減や同情は、相手の自尊心を傷つけるだけだ。
ーー 運に身を委ねるのも良い。
ーー クイーン戦前の練習と考えるのも自由だ」
安甲は、息を整え軽く深呼吸して続ける。
「徳田さん、逢坂さん、朝霧さん、全力でお願いしますね」
『先生、ありがとうございます』
「徳田さんと同じです。頑張ります」
「私も逢坂さんと同じです。ありがとうございます」
朝霧雫だった。
その頃、地下のC級会場では、宝田劇団の朝川夏夜、夜神紫依の二名が準決勝進出を決めていた。
B級と違い、C級までは、準決勝進出決定で昇段認定がされる仕組みだ。
しかし、B級はC級と違い、優勝または準優勝二回が昇段の条件となっている。
別の会場では、唐木田葵と森川楓のB級準決勝が開始されていた。
前半、森川楓のリードで進んだ試合も、中盤に唐木田が追い上げてかるたの枚数が並ぶ。
神聖女学園かるた部の部長と副部長の対戦カードは運命戦にもつれ込む。
唐木田と森川の額から汗が流れ落ちていた。
上の句が読まれた。
[きりぎりす・・・・・・]
下の句は、[ころもかたしき・・・・・・]になる。
唐木田葵の一字決まりの得意札が詠み上げられた。
その札が森川楓の自陣にあったのを唐木田は見ていたが、飛び込むのを一瞬躊躇った。
森川の手が一瞬早く、札を大きく払った。
札は空間をくるくると回転して壁に当たり落ちた。
森川が札を拾い上げて、かるたの枚数を確認する。
同士討ち対決は、副部長の森川楓の勝利となった。
この結果は部員を通じて安甲晴美に伝えられた。
「唐木田さん、運が無かったわね。
ーー 森川さんには勢いがあったのね。
ーー さあ、私たちも同士討ちを始めましょう」
明里光夏が康代に報告に来た。
「康代さん、再生回数が過去最高です。
ーー 次の配信準備も完了しました」
『光夏、ご苦労様、
ーー あなたもカメラマンにお願いして休憩した方がいいわよ』
「康代さん、ありがとうございます。
ーー でも、まだまだ大丈夫ですから」
『じゃあ、光夏、一緒に会場に移動しましょう』
徳田の声を聞いて、応援の織畑、豊下、前畑も移動を始めた。
徳田と朝霧のAブロックは、壁際に近い席となった。
安甲と逢坂のBブロックは、応援席と入り口に近い席だった。
司会が入場して、同じ手順で注意を告知している。
専任読手が入場して来た。
徳田康代と安甲晴美は、同じタイミングで小さく深呼吸を繰り返した。
朝霧雫と逢坂めぐみは、目を閉じている。
それぞれの自陣に、かるた二十五枚が並べられた。
安甲晴美の守りかるたの自陣戦略の奥義は、徳田、朝霧、逢坂に伝えられている。
自陣札が詠み上げられたら、敵側に取るチャンスはほぼないに等しい。
神聖女学園かるた部かるた会は自陣練習を徹底していたからだ。
安甲の口癖は自陣を取り溢すな!
お手付きをするなだったが・・・・・・。
専任読手が暗記時間十五分の開始を告げる。
暗記時間が終了して序歌が詠み上げられた。
「なにわずに さくやこの 花冬ごもり
ーー いまを春べと 咲くやこの花・・・・・・
ーー いまを春べと 咲くやこの花」
【よ・・・・・・】
四人は、次の音を待っていた。
よの上の句は四枚だ。
五字決まりと二字決まりだ。
[よのなかは]
[よのなかよ]
[よもすがら]
[よをこめて]
対応する下の句も四枚だ。
[あまのをぶねの]
[やまのおくにも]
[ねやのひまさへ]
[よにあふさかの]
逢坂めぐみの自陣に“よをこめて”の下の句がある。
逢坂は、二字決まりは手前側に置いてある。
安甲は、逢坂の配置の癖を知っていたが、諦めていた。
試合は、まだ始まったばかりだ。
安甲は、お手付きをするリスクを踏まない。
安甲の好きな諺は、”待てば海路の日和あり“だった。
決して、無理はしない。
詠み上げられたのは清少納言の上の句の二字決まりだった。
「よをこめて・・・・・・」
朝霧雫と逢坂めぐみが、札を小さく押さえて先取して準決勝が始まった。
セリエと静女は、応援席の端にいた。
「セリエ殿、同士討ち対決が始まったでござるよー」
「静女、神聖は強いからにゃあ、同士討ちになるにゃあ」
「康代と晴美が出遅れでござる」
「静女、これからだからにゃあー」
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三日月未来