【一一五】いよいよ準々決勝でござるよー
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
競技かるた大会二日目の第一試合は、空札の連続で始まった。
応援席は、そのためか、何時になく空気が張り詰めている。
Aブロックからは、徳田康代、朝霧雫の二名。
Bブロックからは、安甲晴美、逢坂めぐみの二名。
神聖女学園かるた会の四名は、自陣かるたの運に任せて守りかるたを展開している。
安甲の口癖は、守って守り抜くことだった。
朝霧と逢坂の出だしは良くない。
徳田は、マイペースを維持している。
安甲が、ややリードしている。
試合の中盤を過ぎた頃、対戦相手に、お手付きが増え始めた。
気付いて見れば、安甲と徳田が上がっている。
かるたクイーンの川霧桜は、安甲と同じ頃に上がっていた。
安甲も川霧も相手の調子を伺うことが出来ない。
朝霧と逢坂は天性の粘りで運命戦に漕ぎ付けていた。
二人の最後の一枚は自陣にあった。
かるたは払われず、二人の指先が優しくかるたを押さえて勝利した。
神聖女学園かるた会の四名は準々決勝の八名に残った。
応援席では、神さま見習いのセリエと天女の天宮静女がテレパシー会話を楽しんでいる。
「セリエさま、逢坂殿は次にクイーンと当たるでござるが」
「心配ないにゃあ、あの娘には運と言う神さまが付いておるからにゃあ」
徳田康代の耳元にもセリエの声が聞こえていた。
『康代でございます。セリエさま』
「康代よ、聞こえたようだにゃあ」
『どういうことですか』
「人が見ているのは映画フィルムのイチシーンに過ぎないにゃあ。
ーー 神々は、全体を見ているにゃあ。
ーー あの娘は、かなり格の高い神さまに守られておるにゃあ。
ーー 負ける理由がないにゃあ」
『それで、逢坂さんは、どうなりますか?』
「康代よ、神にも天界の規則があるからにゃあ」
『セリエさま、大変失礼しました』
康代は、セリエに謝罪してテレパシー会話を終わらせた。
安甲、康代、朝霧、逢坂が会場の廊下に出た。
ワンピース姿の田沼と若宮が豊下と一緒にやって来た。
「徳田さん、おめでとう御座います。
ーー いよいよ準々決勝ですね」
『田沼さん、ありがとうございます。
ーー ところで永畑町火山はどうなっていますか』
「それが不思議で、活動がパッタリと停止しています」
康代は、田沼の報告を聞いてエネルギー抑制政策の効果を知った。
二度と、大惨事を起こさせないようにと、国民意識の方向性に力を入れている。
意識を変えることで新しい現実を創造する。
集団の祈りは物質をも動かすパワーを秘めていると康代は考えていた。
安甲は、朝霧、逢坂、康代に次の試合のアドバイスをする。
「逢坂さん、川霧さんは、攻めかるたよ。
ーー 飛び込んで来ても、自分の自陣を守るだけよ。
ーー 取られる前に押さえるだけよ。
ーー 近い方が有利なんだからね」
逢坂は、安甲の変わらない説明に小さく頷く。
川霧桜が安甲の所に歩み寄り、安甲は川霧に手を引かれた。
「どうしたの、川霧さん」
「私ね、昨日から体調が良くなくて休んでいたけど、
ーー もう限界なの」
「川霧さん、まさか、変なことを考えているの」
「そんな大袈裟じゃないわよ。
ーー この大会はクイーン戦じゃないわ。
ーー 腕試しにと思ったけど、体調不良じゃ仕方ないわ」
川霧桜は、逢坂めぐみを見つめて言った。
「私は、棄権するから、逢坂さんは不戦勝で準決勝よ。
ーー 私の分まで頑張ってください。
ーー 準決勝は安甲晴美が上がって来るわ。
ーー 元クイーンは手強いわよ」
川霧は安甲と逢坂にお辞儀をしたあと、大会役員席に報告に行く。
逢坂は、勝てないと思った試合に不戦勝で残った奇跡に感謝している。
安甲は、突然の出来事に驚くだけだった。
司会が現役クイーン川霧桜の棄権を参加選手と観客に告げた。
会場に小さな響めきが起きた。
参加選手も突然のことに驚きを隠せない。
専任読手が入場して暗記時間が開始される。
徳田、朝霧、安甲の三名が準々決勝の序歌を待っていた。
専任読手が序歌を詠み上げた。
「なにわずに さくやこの 花冬ごもり
ーー いまを春べと 咲くやこの花・・・・・・
ーー いまを春べと 咲くやこの花」
一字決まりは自陣にあった。
[め]で始まる上の句は紫式部の一枚だけ。
[めぐりあひて]
メを聞いた神聖女学園かるた会の三人は、[くもがくれにし]の下の句を地味に押さえた。
札を派手に払う必要はない。
無駄は体力を消耗させるだけだからだ。
茨の棘の道が始まったばかりだ。
勝てば身内同士の闘いが待っている。
宝田劇団の朝霧雫ファンには二度美味しい展開になる。
演劇の舞台で楽しみ、大スターの朝霧雫の試合が見れるのだから。
安甲晴美は教え子となった元白波女子の逢坂と本番で闘うことに複雑な思いを感じた。
徳田康代は、目の前の試合にだけ集中していたが、次の相手が朝霧雫であることを知っている。
空札が続いたあとの大山札を、神聖女学園のかるた会の三人は大きく払い飛ばす。
かるたが空中で弧を描き、畳の上に落ちた。
対戦相手は、お手付きを重ね自滅して行った。
身内同士の試合では、なんの期待も出来ないと思った。
徳田、朝霧、安甲を見ていた、逢坂めぐみも同じである。
「セリエ殿、あの娘、不戦勝でござるよ。
ーー 優勝でござるかな」
「静女にゃあ、そんなに上手く行かないにゃあ。
ーー 試練が人の心を成長させるからにゃあ。
ーー 神々は、その者を成長させる選択肢を選んでおるにゃあ」
「静女には、難しくて分からぬでござるよー」
準々決勝が終わり、準決勝は、徳田康代と朝霧雫。
そして、安甲晴美と逢坂めぐみとなった。
「セリエ殿、身内同士に試合でござるよー」
女子高生姿の神さま見習いセリエは、水色の瞳で天女天宮静女の紫色の瞳を見て微笑んでいた。
「いよいよだにゃあ。静女」
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三日月未来