【一一〇】近江の聖地に宝田劇団の大スター参上でござる!
徳田康代と安甲晴美が参拝を済ませて参道に戻ると、側近の天宮静女が楓の木を眺めていた。
隣には神聖女学園の水色の制服姿の神さま見習いセリエがいた。
康代の近くには、徳田幕府の諜報女子高生の三人がセーラ服姿で同行していた。
『水上さん、尾上さん、紀戸さん、
ーー お参りを済ませましたか?』
「はい、お陰さまで」
『ところで、あちらの人だかりはなんでしょう?』
康代が安甲に尋ねた。
「あれはうちのかるた会所属の宝田劇団の大スターでしょう」
『先生、でも、この会場はA級とB級会場ですよね』
「朝霧雫さんは、この前の昇段大会で認定されてB級からA級に昇格していますわね」
『知りませんでしたわ』
「徳田さんは、残された世界の存続に無理していたから仕方ありませんね」
『私は何もしていませんわ。
ーー 徳田幕府女子高生支部とセリエさまや静女のお陰です』
「残された人たちは、どうなったの?」
『神さまの奇跡のお陰で、皇国の民として元気に暮らしています』
「世界が一つになり戦争もなくなり平和になりましたね」
『惨たらしい大きな天罰はありましたが・・・・・・』
「嫌なことを思い出させてしまいましたわね」
『先生、大丈夫ですわ』
「そうね、徳田さんは私なんかと違い、心がお強いですから」
『ところで、先生も今日は、出場ですね』
「そうね、嫌な相手とは当たらないことを祈ります」
『先生は、大丈夫ですわ』
「徳田さん、もしかして未来を見た?」
『バレましたか』
「徳田さんは、どうなの」
『自分自身のは見ないことにしています。
ーー だって、見てしまったら楽しみが減ってしまいますわ』
長い参道を進むうちに人だかりに近づいた徳田と安甲に、朝霧雫が声を掛けて来た。
「安甲先生、本日は、一日よろしくお願いします」
「この大会は参加者の増加で二日の日程よ。
ーー 今日はね、本選の予選大会のようなものよ」
「じゃあ、決勝は明日でしょうか?」
「そうなるわね」
「朝霧さんは、今日のA級大会の洗礼を受けるけど、
ーー 練習通りにマイペースが基本よ。
ーー 徳田さんは二度目のA級大会ね」
安甲はそう言って周囲を見た。
天宮静女、セリエ、女子高生警備が徳田康代大統領の周囲を固めていた。
宝田劇団の夜神紫依、朝川夏夜、赤城麗華、大河原百合がやって来た。
四人の後ろにはメディアが追随している。
「徳田さん!朝霧さん!」
夜神が大声で叫んだので、メディアが駆け寄って来る。
「夜神さん、なんか人を沢山、引き連れて来ましたわね」
「私は、悪くないわよ。
ーー メディアの方たちが勝手について来ただけですから」
朝霧は、夜神の性格に怒る気もせずに大きな溜息を吐く。
「朝霧さん、夜神さんに失礼よ」
「朝川さんだって知っているでしょう」
「うん、わかるけどね」
「ところで、朝川さんは、なんでこの会場にいるの?」
「私たちの試合は明日なの、それで朝霧さんの応援に来たわけ」
朝霧は腕組みをして考えていた。
「じゃあ私が負けたら、明日は、私も応援に行くわね」
「ご冗談は、ご勘弁にしてください」
と言って、朝川は笑った。
朝川が安甲共同代表を見て言った。
「安甲先生は、元かるたクイーンですわね。
ーー 明日の決勝を応援出来なくてすみません」
「朝川さん、別会場にも、
ーー ホログラムディスプレイのモニターがあるから大丈夫よ」
「知りませんでした」
続々と神聖女学園の水色の制服の応援部隊がやって来る。
その後ろには、夏の大会の準々決勝で当たった笹原女子高の白い制服も見えた。
「先生、こんなに大勢で入れるのでしょうか?」
「会場は、夏の大会の後に、建て替えて新しい建物になっているわよ」
『宝田劇団の神聖学園都市の本部も完成間近ですから、
ーー なんとなく分かります』
「時代の変わりは早いわね」
『朝川さん、本部完成は、いつですか?』
「こけら落としは、一月の中旬ごろを予定しております。
ーー その時は、元スターの私と夜神さんも端役で参加しますので、
ーー みなさんをご招待しますわ」
朝川の爆弾発言に近くにいた記者がホログラム携帯でスクープと騒ぎ始める。
「元スターの朝川夏夜と夜神紫依が、こけら落としで舞台に復活するそうです。
ーー はい、間違いありません。
ーー 本人の発言です」
記者は、朝川の録画を本社に送信した。
朝川は、メディアがいたことを忘れてしまったと思ったが、早かれ遅かれバレることだからと開き直っている。
朝霧雫は、赤城麗華にウインクをした。
上司が失態した時に、彼女たちはウインクを交わしていた。
大河原百合も朝霧にウインクをして微笑んでいる。
徳田と安甲にはウインクの意味が分からなかった。
そうこうしていると、逢坂めぐみが神聖女学園の真新しい制服で朝霧の前に現れた。
セリエの上下水色の制服と違いスカートが緑色をしていた。
元白波女子高の多くの生徒は緑色を選択している生徒が多い。
一方、元有馬女学園の生徒たちは紫色を好んで選んでいた。
「朝霧さん、本日はよろしくお願いします」
「逢坂さんの方が、ここでは先輩よ」
「朝霧さん、楓が綺麗ですわ」
「本当、ここの楓の朱色はなんとも言えない風情があるわね」
「天智天皇の聖地ですものね」
「もしかしたら大昔の前世にも、私たちはかるたをしていたのでしょうか?
ーー ・・・・・・ 露にぬれつつ・・・・・・綺麗ね」
朝霧の言葉に反応した神さま見習いのセリエが朝霧に伝えた。
「朝霧さんの言う通りじゃよ。
ーー 無意識は前世からずっと一緒じゃ。
ーー 心に耳を傾けて見てみるのじゃよ」
「朝霧さん、セリエさまの言う通りでござるよー」
セリエの爆弾発言に、宝田劇団の五大スターが驚いていた。
時より落ち葉が風に吹き上げられ、埃と一緒に舞っていた。
日向では、数匹の野良猫が猫会議をしている暖かな日だった。
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三日月未来