【一〇九】朱色の楓が綺麗でござるよ!
この連載小説のジャンルはローファンタジーに設定しています。
【登場人物プロフィール紹介】を一〇七話のあとに追加しています。
女子高生は大統領では、
徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。
『 』
皆さまの隙間時間でお楽しみください。
三日月未来
近江稲葉旅館に戻った徳田康代たちは、浴衣に着替えて宿の温泉に向かった。
天女の天宮静女と女子高生姿に変わった神さま見習いのセリエは、大広間で康代たちを待っていた。
宝田劇団の五大スターは、康代と一緒だった。
豊下秀美が康代に近寄り耳打ちする。
『それは大変、急ぎましょう』
康代が秀美に言った。
(※ この物語では、徳田康代の会話に二重鉤括弧を使用しています。『 』)
セリエが康代にテレパシーを送った。
「康代、なに慌てているにゃあ」
『いいえ、セリエさまを待たせてしまって』
「なに、心配しているにゃあ。予は大丈夫にゃあ」
赤い絨毯が敷かれたフローリングの廊下を康代は小走りに進み大広間に到着した。
『セリエさま、大分、長くお待ちしているかと・・・・・・』
「時間か。それは人間の錯覚だにゃあ。
ーー 長い短いは感覚が決めた結果に過ぎにゃあいよ」
『果たしてそうでしょうか』
「康代も頑固にゃあ。意識の結果にゃあ。
ーー これから食事じゃにゃあ」
『はい、女中がお膳を運んで来ます』
「人間の食事、楽しみだにゃあ」
『セリエさまは、何がお好みですか?』
「黒猫時代が長かったからにゃあ、
ーー 魚が大好物になっているにゃあ」
『じゃあ、そのように用意させて頂きます。
ーー 静女は、どうされますか?」
「康代殿、拙者は、セリエさまと同じでござるよー」
『分かりました。静女のもご用意させます』
康代は、ホログラム携帯で秀美を呼んで食事の手配をお願いした。
お膳が並び、旅館の浴衣姿の女子高生たちの賑やかな声が大広間から聞こえている。
康代たちは食事を済ませて自室に戻り、明日の選手権大会に備えることにした。
高校選手権のかるた大会と違い、大学生や一般社会人も参加する大会に、康代や逢坂めぐみも落ち着きがない。
安甲晴美かるた部共同代表が部屋に入って来て、康代たちを注意した。
「今夜は、明日のことを考えずに早くの就寝を心掛けるのよ。
ーー いいわね」
「先生、珍しく先生っぽいね」
かるた部部長の唐木田葵だった。
赤茶髪にポニーテールの唐木田は、B級の大会に出場する。
「唐木田さんも、そんな呑気なことを言ってなくて早寝するのよ。
ーー 当日は、糖分の摂取過多に注意してね。
ーー 摂りすぎると眠くなるわよ。
ーー 少ないと体力が持たないから難しいけど」
「じゃあ、先生、どうするの?」
「あなたたちは、若いから多少の糖分は問題ないわ。
ーー けれど、糖分過多の睡魔は最大の敵よ」
元白波女子の由良道江先生と元有馬女学園の松山八重先生が部屋に入って来て安甲先生を誘う。
「安甲先生、今夜は寝酒でも飲んで、早寝しましょう」
唐木田の横にいた副部長の森川楓もB級の大会出場だ。
赤茶髪でショートヘアの森川に浴衣が似合っていた。
安甲、由良、松山の三人の共同代表が部屋を去り、黒茶髪の逢坂めぐみが口を尖らせていた。
唐木田と同じポニーテールが試合の時は翻る。
「先生たちは、いいわよね。
ーー 寝酒だもんね」
『逢坂さん、今は、アルコール解禁されているから、
ーー 高校生も強いお酒以外は飲めるのよ』
「徳田大統領が女子高生の大人宣言した時に、お酒を解禁したんですよね」
逢坂めぐみは、そう言って、徳田大統領に舌を出して見せた。
稲葉旅館の廊下には、徳田大統領の身辺警護が数人、警戒に当たっている。
徳田幕府女子高生支部からは、諜報女子高生の三人が参加していた。
前回の近江大会の時と同じ顔触れの
ーー 水戸藩の水上泉
ーー 尾張藩の尾上ゆかり
ーー 紀州藩の紀戸茜の三人だった。
翌日の朝、神聖女学園の女子高生と共同代表は、二台のバスに分乗して近江の聖地に乗り込んだ。
バスから降りて参道を進んだ安甲晴美は、現役大学生で“かるたクイーン”の川霧桜と出逢うことになった。
「あーー 安甲先生、お元気ですか」
「川霧さんと、神宮でまたお会いできるなんて思ってもいませんでしたわ」
「わたしからかるたを取ったら何も残りませんから、精進を心掛けています」
「川霧さんは謙虚で偉いわね。
ーー 私など足掻いているだけなのに」
「先生は、あれだけブランクがあっても、
ーー お強かったわ。
ーー また、お相手をしてください。
ーー では、後ほど」
袴姿で和装の川霧は、安甲に頭を下げて会場の方向に去って行った。
「先生、かるたクイーンの川霧桜さんですよね。
ーー 私なんか、まだまだ雲の上の人過ぎてお見かけするのが精一杯です」
「逢坂さんや、徳田さんは、そのうち日本選手権の常連になるわよ。
ーー 若さはね。若いって言うだけで武器なのよ」
後ろから由良道江先生が逢坂めぐみの肩を叩く。
「あなたには、未来があるのよ。
ーー 後ろを振り返らずに夢に向かって邁進しなさい」
「夢に向かってか・・・・・・」
逢坂の呟きが人声の中に消えた。
次第に、参道は競技かるたの参加者と関係者で混雑して来た。
朱色の楓の葉が陽に輝き美しい。
「楓って、英語名、メイプルね」
逢坂めぐみの言葉を聞いていた神さま見習いのセリエが会話を遮る。
「逢坂さん、西和が消えて、言語も民族も皇国だけになったのにゃあ。
ーー だからにゃあ、英語は存在しない言語なのにゃあ」
セリエは自身の言葉に、忘れものを発見してハッとした。
「セリエ殿、どうしたでござるかな?」
「静女、予は大きな忘れものをしていたようじゃあ」
セリエはテレパシーで神使のセリウスに伝えた。
「セリウスにゃ、女神アセリアさまに、お伝えしてくれるかにゃあ。
ーー セリエが皇国の民の記憶操作を、忘れていたようじゃと。
ーー アセリアさまのお力が、必要になるじゃろうと」
「セリエさま、承知しました」
セリエは、セリウスに報告したあと、逢坂めぐみの記憶の一部を修正した。
「楓が綺麗ね・・・・・・」
逢坂は、狐につままれた表情を浮かべていた。
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三日月未来