【一〇一】南和大陸の異変と二十枚かるた
黒猫の神使セリエは、南和大陸の大地震をテレビを見るように覗いていた。
「セリエよ、南和はどうなっている」
「アセリアさま、末期と思われます」
「西和は、どうじゃ」
「落ち着いていますが、おそらく、これからと思われます」
「皇国の守護は、どうじゃ」
「第三の時代に向けて着々と準備しています」
「鬼退治は、どうじゃ」
「皇国以外の鬼は、
ーー 地球の大変動で中間世界の地獄門行きが決定しています」
「セリエよ、
ーー お前もそろそろ神使を辞めて神をしたらどうじゃ」
「アセリアさま、お戯れを」
「セリエよ、予も年じゃから後継者が必要じゃ
ーー セリエの神使は[セリウス]に任せれば良い」
「アセリアさま、有り難いお言葉ですが、
ーー 皇国を見届けるまでお待ち頂けませんでしょうか」
「左様かセリエ、良いじゃろう。待とう」
神使セリエは守護神女神アセリアの前から消えて光になった。
田沼と若宮は、神聖神社に毎日のように参拝を繰り返していた。
「田沼先生、今日の境内、いつもと違いますね」
「そうね、見慣れない制服ですネ」
セリエとの最初の出会いから、前世記憶復活まで色々あったものだと二人は考えていた。
「先生、皇国、本当に大丈夫かしら」
「神さまのお使いが言うから心配ないわよ
ーー 私たちだって何度も生まれ変わっているわけですし」
「そうね、人の命は永遠じゃないわ」
「永遠願望が作り出しのがモンスターや吸血鬼の御伽噺ね」
「でも、エゴモンスターが春まではいましたわね」
「そうね、ああいうのは現代が誕生させた負のエネルギーの結晶ですか」
「先生、そろそろ」
「ショッピングセンターですか?」
「ええ、紙ノートが欲しくなって」
「紙ノートですか?」
「ちょっと、子ども向けの童話に挑戦しようと思いました」
「なに書くんですか」
「今は、いないですが、鬼退治のお話を書こうかと」
「鬼退治は、いいねーー いろんな鬼いますからネ」
「鬼って、人の心中に巣食うと思っています」
「ウイルスと同じね」
「ウイルスは変異を重ね弱毒化するじゃないですか
ーー でも心に巣食う鬼は、狂暴化を辿りますからネ」
「確かに・・・・・・ところで、
ーー 今日の月アプローチはどうなってますか」
「最短で約三十五万7千キロメートルです」
「東都と大都に注意して」
「分かりました。先生」
南和大陸では、大地震が相次ぎ、海底火山も爆発的噴火を繰り返していた。
徳田幕府は、メディア監視を強化して、ネットワークごと遮断した。
発信規制だった。
鎖国中の皇国は、御伽噺の国のように世界から孤立している。
八月三十一日、この日も安甲晴美は面接ルームに引きこもり、次々に訪れる白波女子高の生徒を相手にしていた。
「門田菫恋さん、今日は、この辺でお終いにしましょう」
「先生、お疲れ様でした」
姫乃水景と和泉姫呼は、文化祭の出しものを決めていた。
「じゃあ、みんな、決めるわよ」
「黒猫と悪役令嬢がいい人、挙手してください」
「女子高生と悪役令嬢が、いい人・・・・・・」
姫乃部長は次々に挙手を促した。
和泉副部長が発表する。
「今年の文化祭は、女子高生と悪役令嬢に決まりました」
「和泉さん、悪役令嬢のシナリオ弄らないと規制対象になるかもしませんよ」
「そうね、うちにはお目付け役がいるわね」
「悪役令嬢が回心して、正義に目覚めるなら、どうかしら」
「それなら、検閲大丈夫ですネ」
「じゃあ、そうしましょう」
「姫乃さん、今日は早く終えたから、ちょっと顔出ししませんか」
「和泉さん、急ぎましょう」
姫乃と和泉は、部員に挨拶してかるた部に向かう。
演劇部の部室から、かるた部の部室は目と鼻の先にあった。
かるた部の前に到着すると淡いグリーンのパンツスーツ姿の安甲先生とで出会う。
「先生、面接で忙しいのじゃないですか」
「今日は、早く終えたので問題ないが、
ーー 君たちは、演劇部の準備じゃなかったかな」
「はい、そうですが、私たちも早く終えたので」
「じゃ、入ろう」
『安甲先生、どうされましたか』
徳田康代が安甲見て驚いていた。
「今日は、早く終えて切り上げて来たのよ」
安甲は、笑いながら話している。
「徳田さん、調子はどうですか?」
姫乃が尋ねた。
『私は、逢坂さんと練習していますから、いいですよ』
「逢坂さんは」
「私も徳田さんのお陰で満足しています」
姫乃の問いに逢坂は笑って答えていた。
「ところで、今日は、人が少ないような・・・・・・」
「無段とD級、C級の部員は、昇段大会に行っています」
唐木田葵部長が説明した。
「B級への昇段は、まだまだ難しい気がするが受かるといいわね
ーー ところで、みんな、それは」
安甲晴美の質問に、森川楓が五十枚かるたの自陣配置練習シミュレーションを説明した。
「なるほど、面白い発想ね。
ーー 私も今度、体操服の時に練習してみますね。
ーー クイーン奪還をかけて」
「先生、そのパンツスーツじゃ、お膝が切れてしまいますものね」
「じゃ、姫乃さんと和泉さんも、五十枚かるたの配置練習をしてみて、
ーー 終えたら普通の競技かるたをしましょう」
「先生、分かりました」
姫乃と和泉は、向かいあってかるたを裏返しにして掻き混ぜた。
五枚ずつかるたを十回取り、並べ始める。
「五十枚のかるたを並べるのって、重労働ね」
姫乃たちの配置練習が終わり、安甲が話出した。
「じゃあね、これから二十枚かるたをしよう」
「先生、空札、六十枚ですか?」
「そうなるわね。
ーー じゃあ、読手は私がするから」
「二十枚かるたでござるよー」
静女の瞳が、生き生きとしてキラキラ輝いていた。