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08 マフラーと匂い

 俺たちはワイダル商会の屋敷から南門への道を歩いていた。


 この通りは行商人がよく露店を開いている地区だ。

 地方でしか採れない特別な薬草や珍しい品も並ぶため、自然と冒険者が集まる界隈になっている。


 いくつものパーティーと擦れ違うなか、俺は露店の商品を吟味する、よく見知った顔を見掛けた。

 こちらが気付くと、相手も気付いたようで、


「ユウキ、そっちも買い出し?」

 金髪のポニーテールにすっきりとした目鼻立ちの少女、レインはそう言って軽く手を上げた。


 種族はエルフ、色白で人間よりも細身で華奢な印象がある。


 緑のシャツとミニスカート、(ふち)に花柄の装飾が施された銀の胸当て。

 脚は白いニーハイブーツに包まれている。


 彼女は弓と細剣に魔法効果を付与(エンチャント)して戦う魔法戦士で、リュウドとアキノとも面識があった。


「こっちは買い出しじゃなくて、何と言うか情報収集中かな」


「そう。私は魔法回復薬(マジックポーション)を人数分頼まれてて。あっ、ユウキたちはあの依頼を受けるの?」


「依頼って?」

「知らない? 昨日からオークを懲らしめるために村を攻撃するっていう依頼が出回ってるんだけど」


「待て、冒険者(アドベンチャーズ)ギルドがそんな(たわ)けたものを出したのか?」

 リュウドが割って入った。


「ううん、正規のものじゃなくて、そういう依頼があるんだけどって、触れ回ってる人がいるみたい。殺されたルイーザは人気だったじゃない? だから、弔い合戦として受けようとしてるパーティーもいくつかあるみたいなんだよね」


 オークの疑いが晴れつつあることは、まだ認知されていない。


 凶暴なオークの仕業だ、オークが犯人だ。

 そんないい加減な情報を鵜呑みにしてしまう者たちもいるだろう。


「実は俺たち、その事件について調べてるんだ」

「え? どういうこと?」


 話せる範囲で事情を説明するとレインは驚いた。

 普段は思慮深い彼女も、単純な殺人事件だと思っていた1人のようだ。


「あの事件にそんな裏があったなんて」


「ねえレインさん、依頼の話を持ち掛けていた奴の素性は分からない?」


「話を聞いただけだから何とも。でも1人700ゴールドで雇うって契約内容だったと思うよ」


 1ゴールドでパンやリンゴが1つ買える。

 あんな何の防備もない村を攻めるだけで700ゴールドなら、かなり割のいい仕事だ。


 だが雇用する側からすれば、1パーティー雇うだけでその4、5倍の金を用意しなければならない。

 次々に人を(つの)っているなら、そのさらに何十倍もの資金が必要だ。


 とても個人でポンポンと支払える額ではない。

 バックに誰かいるのだろうか?

 何かしらの、良からぬ計画を持った誰かが。


「参加しそうなパーティーがいたら現状を伝えておいてくれないか? オークが無実の証拠も出てるって」


「うん、連絡が取れる範囲で情報を回してもらう。もし触れ回ってる人を見つけたら、ちょっと探りを入れてみようかな」



 レインと別れた俺たちは警察署に戻ってきた。

 リンディに例の部屋に通され、お茶で一服する。


「結局、上手く言い逃れされたわけね」

「仕方がない、まだ突き付けられるだけの確固たる証拠がないからな。けど、その証拠に繋がりそうなマフラーを奴が身に付けていた」


「マフラー?」

 リンディの問い掛けをリュウドが受けた。


「奴がつけていたマフラーの端が、刃物で()たれたようにわずかに欠けていた。色や素材、切り取られた形から見て、ルイーザが握っていた布はあのマフラーのものに違いない」


 黙って聞いていたリンディは、でもねえ、と渋い顔で腕組みをした。


「奴が愛用してるマフラーは布自体はよくある生地だし、普通の市販品だと思うのよね。指摘しても自分で切ったとか、何かで千切れたとか、何とでも言いわけするだろうし。押収して調べられる口実もこちらにはないしねえ」


「そうか。些細なものでもいいから、あの切れ端と奴の繋がりを証明できればいいんだけどなあ」


 マフラーについては現時点では打つ手なしなのか。

 お茶をすすっていると、アキノが小さく手を挙げた。


「事件とは関係ないと思うけど、ちょっと気になったことがあって。私、屋敷でジャックスに無理矢理抱き寄せられたんだけど」


「え、なに、なんかされた?」


「ううん、ユウキがすぐ助けてくれたから。そのとき、ジャックスから変わった匂いがして」


「変わった匂い?」


「うん。多分、鎮痛剤を調合するときに使うパラキア草だと思う。それを濃くしたような匂いが」


「ああ、痛み止めとして、高級なヒールポーションにも微量だけ使われてる、あの薬草ね。違法な薬物の材料にもなるから、特定の資格がなきゃ取り扱いはできないけど」


 アキノは露店に並んだ薬草を熱心に見ていた。

 そこで匂いの記憶を掘り起こしたに違いない。


 彼女は森のドルイドに教えを受け、多種多様なポーションを自作できるほどの、薬草の知識と調合の技能を持っている。


「今回の事件とは特に関係ないかな?」


「匂いに関するものは、現場にも遺留品にもこれといってなかったみたい。でもそれは、奴があの草由来の違法薬物を使ってる証拠にはなるわね。薬を使用してると、その成分が汗や体臭に混ざって体から出て、服に染み付くくらい匂いがして──」

 そこで、あっ、とリンディは声をあげた。


「待って、その情報、かなり大きいかもしれない。もし例の布から、その系統の薬物成分が検出されたら、犯人につながる重要な証拠になる」


「ホント?」


「ええ、犬獣人の警官の嗅覚は違法薬物摘発の(かなめ)になってるくらいなの。検査結果と証言をもとに奴のマフラーと事件を関連付ければ、あれを押収できるかも」


「おお、アキノ、お手柄じゃないか」

 彼女はえへへとはにかんだ。

 これで物的証拠への望みをつなぐことができる。

 早く分析結果が出てほしいものだ。



「そういえばさっき、冒険者仲間から変な依頼が出回ってるって話を聞いたんだ」

「依頼って冒険者向けの?」


「ああ。だがギルドを通した正規のものじゃなく、複数のパーティーにスカウトをかけてる奴がいるらしい。内容はオークを懲らしめるために村を攻撃するんだとか」


「村を攻撃って、そんなのどう考えても許されるわけないでしょうよ。いつからそんな馬鹿げた話が?」

「昨日から出てるって」


「昨日? 報酬は提示されてるの?」


「1人700ゴールド払うって」


「700!? 仮に何十人も雇うとしたら相当な額になるじゃない!」

 とリンディは素っ頓狂な声をあげる。


「これ、裏に出資者がいるよな?」


「でしょうね。それに容疑者がオークだと広場に掲示された昨日の時点で、そんな依頼がすぐ出回るなんて、話ができすぎてる」


「まるで事前に準備を整えてあったかのようだな」

 リュウドが計画性を確信するように言った。


 オークが捕まると予想できたものがいたということか。

 疑いが掛かるだろうと、前から踏んでいた者が。


 俺はお茶を含み、頭に浮かべたいくつかの点を線で結んでみる。


「──なあ、あのゲザン鉱業の社員ってオークから暴行を受けたって被害届を出していたんだよな」


「そうね、殺人事件の何日も前だけど。それでオークに話を聞く前にこんな騒ぎになっちゃって、今はうやむやになってるけど」


 俺は茶菓子のクッキーを咀嚼(そしゃく)しながら少し考え、

「リンディ、ゲザン鉱業の場所、教えてもらえるか?」

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