18 増援の行方
「通話がどうとか、こっちはそれどころじゃないほど、今の今まで本当に大変だったんだよ」
飛声石はよそに気を取られると通話が繋がらなくなる。
マジックアイテムだけに集中力が必要だ。
(なに? 土地の調査だけでそんな切羽詰るようなことがあったの? 調査中の問題なら、警察じゃなくて国土管理局の管轄になるんだけど)
のんきなことを言う。
当然だが、こちらの状態をまったく把握していないのだ。
「順を追って話す。まず埋まってたのは安い鉱石じゃなく、数千万ゴールド相当の魔法石だったんだ」
(ふーん、数千万ゴールドの魔法石ねえ……)
数千万ンン!? とリンディは素っ頓狂な声をあげた。
(この王都の近くにっ、そんな莫大なお宝が!? あああぁ、そりゃワイダルたちが目の色を変えて欲しがるわけだわ)
「ああ、そのワイダルの手下たちが村を襲撃しにきて、火を放ってな。リーダーのジャックスとも戦いになった」
(え、今どんな状況なの!?)
「こうして話せるくらいには片付いたよ。下っ端はオークと協力して撃退した。ジャックスは、殺しはしないがリュウドが一騎討ちで下して。それでもまだ開き直るから、俺がテラーペインを使って、多少力ずくで反省させた。今そこに転がってるよ」
(そう、勝てたのね。良かった。その口ぶりだと大きな怪我もなさそうで)
「そのへんは大丈夫。それより困ってるんだ。なんでも今、冒険者を含めた大勢の増援が村に向かってるらしい。どう対応しようかと」
(あ、そのことね。それについて伝えたいことがあって連絡し続けてたの)
「伝えたいことって」
(結論から言うと、その増援は心配しなくても大丈夫よ)
随分と楽観的な言い方だった。
だが、単にあっけらかんとしているわけではないようだ。
(増援は食い止められたの。主にミナさんのおかげね)
「え、それって?」
(私もついさっき、ちょうど通話が切れたときに連絡が入って知ったんだけどね。昨晩遅く、例の依頼を頼まれた冒険者がいたそうなんだけど、それがミナさんのギルドメンバーで、依頼を受けるように彼女から言われてたそうなのよ)
「ミナさんから? ああ、参加するふりをしろってことか」
(そう、「飛ばし」を使った指示を受けるためにね)
男を捕まえて下手に吐かせるより、依頼を受けたかのように振る舞ったほうが、ことの行方を見定めやすいという判断だろう。
(で、ユウキたちが村に着いた頃かな、男から数ヶ所に分かれて集合して、村に向かえって指示が出たらしくて。ミナさんはそこで得た情報をもとにすぐ警察と王都警備兵に連絡して、参加者だった王都民と冒険者は一応足止めできたの。でも、西門の外にいたグループが一足先に出発しちゃってて)
「そのグループは今もこちらに向かってるのか?」
(いいえ。私からお願いする形で騎士団に応援要請を出して、騎兵隊が山への道に立ちはだかってギリギリ食い止めたわ。さすがに一般人は、騎士の登場にただごとじゃないって震え上がったそうだけど、冒険者の中には反発する者もいて。でも、この依頼自体が違法で、何より、依頼者側がルイーザ殺害事件に関与している可能性が高いって、副団長が説得して場を上手く収めてくれたそうなの)
「ああ、それは助かったなあ。色んなところに顔は出しておくもんだ」
(ええ、真摯に事件を調べていたようだと、副団長はユウキたちに信頼を置いてくれてたみたい。彼等は今、襲撃の先遣隊、つまりあなたたちが倒したワイダルの手下を捕まえるために村に向かってるところだから)
「そうか。奴等の残党は逃げ出したんだが、途中で一網打尽ってわけだな。騎士団の精鋭を前に、青ざめる顔が目に浮かぶようだ」
(村にいる残りはふん縛っておいて。ジャックスは特に念入りにね)
分かった、と伝えると通話が終わった。
「ユウキ、リンディとはどういう話になったの?」
「ああ、ミナさんや騎士団が色々と動いてくれてたそうで、増援のことは心配しなくてよさそうだ」
ユウキとリュウドはオークたちと協力し、戦闘不能で倒れているワイダル兵たちを縄で縛ると、村の入り口にまとめて転がした。
アキノはオークの治療に当たったが、家が焼け、あれだけ派手な戦いを繰り広げたにも関わらず、大きな怪我は負っていないようだった。
やはり体の作りが頑丈で、多少腕っ節に自信があるゴロツキ程度が相手なら、ちょっとやそっとではやられないのだろう。
こちらに被害がない一方で、ジャックスに敗走をとがめられ、斬られた男は既に事切れていた。
回復魔法でも一命を取り留めることは無理だったと諦めがつくほど、一太刀で致命傷を受けていた。
敵側とは言え、死者が出たのは残念ではあるが、あの魔剣でさらに暴れられていたら死人はもっと増えていたに違いない。
そうならずに済んだのが不幸中の幸いと言えた。
そのジャックスは、言われた通りに念入りに手足を縛っておいたが、もはや肉体が自由になったとしても反抗して敵意を向けられるような状態ではない。
気を失いながらも悪夢を見ているのだろう、ううぅと顔をしかめて唸っている。
ユウキの予想通り、口を割るまで術の影響で苦しむはずだ。
「本当に、うちの村が世話になりました」
3人が集まっていると、村長と数人が礼を言いに来た。
「こっちは気になったから動いてただけで」
「いやいや、下手したらうちの村ぁ全部焼かれちまって、どうしたらええか分からんまま途方に暮れるとこだった。あんたらのおかげだあ」
巨体の腰を折って、何度も礼を言うオークたち。
「これからが忙しいですよ、これからが」
そこに割って入るようにケネルが出てきた。
今の今まで隠れていたのだろう。
「見つかった魔法石の価値や量から見て、所有の権利は村にありますが、管理は国土管理局になると思います。その手続きやら何やらでしばらくの間は王都と村の行き来が増えますし、承認や証明に必要な各書類作成の作業なども含めれば、それはもう寝る時間がないくらいの大忙しに」
「んー難しいことは分からねえから、全部そちらさんにお任せしますよう」
村長がそう言い、村人たちが笑った。
「どうやら騎士団が来たようだな」
リュウドが手を額に当てた、手庇で遠くを眺めながら言った。
村の入り口から見える山道の先に、こちらに向かってくる鎧姿の一団が見えた。
逃げたワイダル兵たちは恐らく全員捕まり、縄を打たれて王都に連行されたことだろう。
「これで事件解決、ということでいいのかな」
「うむ、悪党の野望は潰えた。これにて一件落着、というやつだ」
「最後は大騒ぎになったけど、なんとか終わったね」
疲労感とそれ以上の達成感に包まれて、
ユウキは大きな安堵の息を吐いた。




