6.お母様からの伝言
西塔の重い扉が開かれて、私は暗い建物の外の、明るい廊下に出た。
西日がまともに目に入ってきて、私は顔を顰める。
クラウスが短い脚を懸命に交互に出して走り寄ってくる。
「あらクラウス。待っていてくれたのね」
私はその短い体躯の持ち主に微笑んだ。
クラウスは何か言いたげに私を見上げる。
「リンスター王女殿下、お部屋までお供いたします」
近衛兵で騎士のディートリヒが直立不動の姿勢のまま言った。
ああ、あなたも待っててくれたんだ。
「ありがとう。お願いするわ」
私はそう言ってゆっくり歩きだした。
クラウスとディートリヒが後ろからついてくる。
さて…これからどうするかな。
私は歩きながら考える。
お父様のお話がまさかこんな内容だとは夢にも思わなかった。
私が、お姉様の代わりに、女好きで超有名な大国の王太子に嫁ぐことになるなんて。
お父様も宰相も、ずいぶん失礼な感じだったわ。
私のことなんて、今までほとんど思い起こすことさえなかったんでしょうから、仕方ないと言えば仕方ないけど。
ああ、でも。
私は思わずため息をついた。
お母様がどう仰るかしら…
大騒ぎにならなきゃいいけど。
そう思いながら部屋の前まで来ると、果たして、お母様の侍女のイザベルが待ち構えていた。
「リンスター姫様!」
「イザベル…お母様は?」
「大変にご立腹でいらっしゃいます。
王様にご面会を申し込まれたのですが、王様の方からお断りのお返事が来て…」
あーあ。
まあ、怒ったお母様と対峙できる勇気のある人は、この国にはいないかもね。
「今晩のお夕食は、リンスター姫様とご一緒にと仰せでございました。
お支度を願います」
イザベルは囁くように言う。
私は内心うんざりしながら、うなずいた。
その時、私の部屋の扉が開いて中から私付きの侍女のカテリーナが「リンスター様、お帰りなさいませ」と頭を下げた。
「お妃様よりお言伝がございました。
今日のお夕食は、ギルベルト様、ルートヴィヒ様、マルグレート様もいらっしゃるとのことでございます」
あははあ。
お母様の子供のきょうだいが勢揃いってわけね。
お母様の怒りの本気度が判るってものだわ。
私がカテリーナに促されるまま、部屋に入ろうとすると後ろから声がかかった。
「では、リンスター王女殿下、某はこれにて失礼仕ります」
「ああ、ありがとうディートリヒ」
私が振り向いて労うと、ディートリヒは少し驚いたように眉を上げ、「はっ」と敬礼した。
これからたった1か月後には、私はルーマデュカに行かなければならない。
大国に輿入れしたら、恐らく、もう二度とここへは帰ってこられないだろう。
お母様やきょうだいたちとも、食事を共にするのはこれが最後になるかもしれない。
まーでも。
嫋やかで淑やかで美しいお姉様がお嫁に来ると思っていた、ルーマデュカの王太子殿は、第二王女で特に美人でも頭も良くない私がお妃だと知ったら、即婚約破棄するかもしれないわね。
そうなると良いなあ。