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5.謁見の終わり

 お姉様は、稀代の美女だ。

 母上様の御血を色濃く受け継がれていて、金色に輝く豊かな髪、透き通るようなきめ細かい肌、憂いを含んだ艶やかな碧い瞳、心持ち厚くて色香の漂う唇。

 男性ならば誰でも、このような佳人に愛されたいと思うだろう。


 それに引き換え私は…

 醜女(しこめ)とまでは言わなくても、美人では決してない。

 黒っぽい髪に、そばかすの散った頬、漆黒の瞳と薄い唇。

 身体つきも子供っぽくて、宮廷のパーティでもいつも17歳には見られない。


 「今回、ルーマデュカ国の方では、とにかく急いで我が国の王女との婚姻を成立させたいということで、婚約が内定していた第一王女でなくとも構わないと仰っておられました。

 よほど、国王の病状がよろしくないのか…それとも…」

ラウツェニング宰相はわざとらしく言葉を切る。

 

 は、バカバカしいわ。

 理由は判らないけど、王太子の行状に何かの懸念が生じたんでしょ。

 でなければ1か月ですべて済ますなんてことあるわけがない。

 しかも、5年も前から婚約が内定していた第一王女ではなく、今まで一度も名前の出たこともない第二王女でも良いだなんて。

 私は思わず小さくため息をつく。


 「ともあれ、大至急輿入れの支度をしなさい。

 間に合わないものは仕方がないが、可及的速やかに大国の妃となるのに相応しい準備を」

 お父様が宰相に命じる。


 お父様…

 私は、少しうるっときてしまった。

 私のためにそんなふうに仰ってくださるなんて…


 しかし、宰相はすぐに返事せず、しばらく黙ってから渋々と言ったように口を開く。

 「はあ…まあできるだけのことは致しますが…

 何分(なにぶん)、急すぎることではございますし、正直なところ我が国の国民がこの婚姻をどれだけ祝福するかはまあ、未知数と申しますか、」

 「ラウツェニング!」

 「は、畏まりました」


 お父様が叱責するように名を呼ぶと、宰相は一応お辞儀をした。

 しかし顔を床に向けたまま呟くように言ったのを私は聞き逃さなかった。

 「どうせ何も期待されてはいないのだ。

 下手に見栄を張れば、恭順の意思がないとみなされるだけだ」


 ああ…なるほど。

 私は、祖父世代にあったという、ルーマデュカに逆らった他国の末路の話を思い出した。

 殲滅、と言って良いほどの総攻撃を受け、その小さな国はあっけなく併呑されてしまったという。

 その戦には、我が祖父王も参加させられたと聞いた。

 わが国のような、歴史だけはあるけれど時代の流れによって阿る(おもね)大国を変えてきたような小国は、あまり信用がないのだろう。


 わざと私に聞かせるように発した言葉の意味と宰相の意図を測りかねて、私は考え込みながらお父様に一礼し、部屋を後にした。


 

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