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34.贈り物

 興奮気味のジョアナの後について居室から応接室へ移動すると、大きなテーブルの上に(うずたか)く積まれた様々なものが目に入った。


 『すごいですね、お姫様!

 王太子様は、お姫様を大事に思っているんですね!』

 二コラが目を輝かせる。

 私は近づいて、宝石をちりばめたドレスやアクセサリーなどを手に取る。

 

 ああ…昨夜、式部のお婆さん(名前忘れた)が言ってた通りの贈り物だわ。

 王太子が用意したものじゃあないでしょ。

 しきたりに則って、形式的に送られたもので王太子の気持ちとか私の思いとか、そんなものの入る余地はないのよ。


 あれ…

 私はふと、手を止める。


 これ、メンデエル語の本だわ。

 人気の小説…最新刊じゃないの。

 新進気鋭と噂の、詩人の詩集もある。


 こんなの、しきたりの中に入っているはずがない。

 と、いうことは…

 王太子が入れてくれたって、こと??


 微かに心臓の音が大きくなる。

 私は無意識に手を胸にあて、ふうっと息をつく。


 『お姫様?

 お顔の色が、すこし赤いですよ?

 大丈夫ですか?』

 二コラが心配そうに私を見上げて言い、私は慌てて『え?そう?大丈夫よ』と笑って見せる。

 

 「これ、ここに置いといても仕方ないから、片付けてちょうだい」

 私は侍女たちに言うと、朝食を摂るために居室の方へ移動した。


 食事が終わり、私は今日のスケジュールを確認しようと、執事を呼んだ。

 ずいぶん時間が経って、待ちくたびれたころ、(ようや)く現れた執事は「王太子妃殿下に置かれましては、本日のご予定は特にございません」と素っ気なく述べて、さっさと立ち去ってしまった。


 ああそう。

 私はあまりに失礼な執事の態度に憤慨して、椅子の背にもたれた。

 披露宴は1週間も続くんだものね。

 私の代わりに、アンヌ=マリー嬢とやらが王太子妃然として王太子の隣にいるんでしょう。

 

 じゃあ私は、少なくとも1週間はフリーってわけね。

 私はほくそ笑む。

 さて、何をしよう。


 やることはたくさんあるわね…

 私は考えをめぐらし、はたと気づいた。


 そうだ!

 メンデエルの皆に手紙を書かなきゃ!

 そろそろ一緒に来た近衛兵たちも、メンデエルに帰ってしまう。

 彼らに手紙を託すのが一番早いだろう。


 私はメンデエルの使用人たちを呼び、文盲の者以外は手紙を書くように言った。

 自分で書けない者はクラウスが代筆する。

 

 私も両親である国王夫妻、それからきょうだいたちにそれぞれ手紙を書いた。

 無事に結婚式が済み、ルーマデュカでの新たな生活を始めたことや意外と楽しく過ごせそうだということも書き添えた。

 愚痴もたくさんあるけれど…皆をいたずらに心配させても仕方ないし。


 そう言えば…

 メンデエルを発つときに、お姉様からも手紙をいただいたんだった。

 あれ、後で読もうと思って忘れてた。

 馬車での超強行軍で、とてもじゃないけど字を読めるような状況じゃなかったし。

 着いてからは、すぐ晩餐会だ結婚式だってやたら急かされて、ゆっくりできなかったし。


 私は手荷物を探って、お姉様の手紙を引っ張り出し、封を切る。

 お姉様の優しくてきれいな字が並ぶ手紙を読んでいく。


 手紙には、まず虚弱な自分の代わりにルーマデュカに嫁すことになった私への謝罪から始まっていた。

 そして、今までに何度かやり取りをした印象として、フィリベール王太子という方は優しい気遣いのできる、頼もしくて素晴らしい方だと思っている、と綴られていた。

 王太子に寄り添っていくことのできる貴女が羨ましいという文言があり、私は、お姉様はフィリベール王太子をお好きだったのでは、と思って暗い気持ちになった。

 きっと王太子も、お姉様がいらっしゃるのを待っていたのに違いない。

 

 あーあ。

 なんか貧乏くじを引かされたな…

 いくら第2王女とはいえ、もう少し自分の人生を自分で決めたかったわ。

 よりによって、相思相愛の二人の仲を引き裂くような立場に立たされるなんて。

 王太子のあの仏頂面は、公爵令嬢のことだけじゃなくてお姉様のこともあったんだわ。

 ホント、私バカみたい。


 私は気合を入れて便箋と向き合い、しかしどう書いていいか判らず、結局当たり障りのないことを書いて封をした。

 

 

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