3.承諾と無理難題
お父様と宰相が探るような目で私を見て、私の返事を待っている。
しかし私に選択権はない。
この国の最高権力者であり、父親である王の命令とあれば、唯々諾々と従う。
王女たる私の生きる道は他に存在しないのだ。
たとえそれが、これまで軽んじられてきた第2王女には荷の重すぎる任だとしても。
私は醒めた心で無表情のまま、再び深くお辞儀をする。
「承知いたしました」
言いたいこと、訊きたいことは山ほどあるけれど。
私の人生、まだ17年しか生きていないただ一度の人生は。
ここにて終焉する。
「…そうか。
行ってくれるか」
お父様はあからさまにホッとした顔をする。
私が逆らえないことを知っていて猶、そういう表情ができるのだとしたら、お父様も大した役者だわ。
私は頭を垂れたまま、内心で毒づく。
「おめでとうございます、陛下。
それにリンスター王女殿下」
ラウツェニング宰相は、長い白髪を揺らして大袈裟な仕草で寿ぎ、膝を折って額ずく。
良かったわね、人質があっさり決まって。
この国もしばらく安泰ってとこかしら。
「ありがとう、ラウツェニング」
私は顔を上げて、宰相に向かってにこやかに微笑んでみせる。
宰相はぴくりと片眉を上げ、一瞬、不審そうな表情になり、すぐにまた破顔した。
「王女殿下なら、きっと立派な王妃殿下におなり遊ばしますよ。
頼もしい限りですな、陛下」
「そうね、わたくしもそう思いますわ」
傲然と頭を上げて、お父様より先に答える。
宰相は今度ははっきりと意外そうな表情を作った。
お父様はほんの僅か、苦渋の色を頬に浮かべる。
見間違いかと思うほどに微かだったそれは、宰相には見えていないようだ。
「…そうだな、おめでとう、リンスター。
そなたも結婚を夢見る年頃になったのであろう。
フィリベール王太子殿下と幸せに」
「ありがとうございます」
私は三度頭を下げた。
フィリベールって言うのね、初めて聞いた。
女好き王太子、っていう巷間の綽名しか知らなかったわ。
「それで、王女殿下。
早速実務的な話に移らせていただきますが…
ルーマデュカの大使殿が仰るには、婚礼はなるべく早くに執り行いたいと。
そこで、本来ならお使者が何度も行き来して準備を調え、最低でも1年はかかる婚約から婚姻の儀までを、ひと月で済ませたいそうでございます。
わが国でも大至急、様々な準備に取り掛かりますが、いくつか問題点が」
え?はぁーっ??
私は思わず宰相の顔を凝視する。
なにその…無茶ブリ!
婚約から結婚まで、今から準備を始めるってのに、1か月しかないの?!
ちょっと、頭おかしいんじゃないかしら。
王太子がどうこうっていうだけじゃなく、ルーマデュカって言う国自体が。