23.ルイーズの話
ジェルヴェ殿下は驚いたように私の顔を見た。
「しかし…」
「ルイーズは昨日からわたくしの侍女になったばかりです。
まだ不手際があったり、判らないことがあるのは当然ですわ。
今朝早くから田舎者のわたくしに、一生懸命ドレスのことを教えてくれましたのよ」
私は言葉を紡ぎながら、今朝のことを思い出して、あっと思った。
そうか…
ルイーズの目の前で、メンデエルの大使とメンデエル語でやり取りした。
そしてルイーズの提案してくれた、ルーマデュカ風ではなくメンデエルのドレスで晩餐会に臨んだ。
それがルイーズの反感を買ってしまったのだろう。
得体の知れない外国の王女が、訳の判らない言葉で話して自分の提案は拒否する。
反感というよりは、不安が大きかったのかもしれない。
「わたくしが悪かったのでございますわ。
まだ、ルーマデュカの侍女たちときちんとコミュニケーションがとれていなかったばかりに。
わたくしのために催された晩餐会を途中退席して陛下や王妃陛下、王太子殿下にばかりか、ジェルヴェ殿下にもご迷惑をかけてしまって」
すみませんでした、と頭を下げようとした私の言葉を遮るように、ルイーズの泣き声が響いた。
「申し訳ありません…!
こんなことになるなんて。
わたしは、なんてことを…」
ジョアナとソレンヌが、心配そうにルイーズの肩を抱くようにしている。
「王弟殿下、ルイーズは大公爵の手下の者に買収されていたようです」
取りなすように会話に入ってきたのは、…クラウス!
「クラウス、あなた…」
私は驚いてソファから身を乗り出す。
ジェルヴェ殿下もその他の者たちも驚愕したように、突然話し出した、今まで部屋の置物みたいにそこにいた嬬人に視線を遣った。
「今朝、メンデエルの大使閣下がいらっしゃる前に、この部屋の外でルイーズと誰かが話しているのを見ました。
その者はルイーズに幾ばくかの金銭を渡しているように見えた。
そして何事か囁いて、足早に去っていきました」
「ルイーズ!」
ジェルヴェ殿下が厳しい声で言い、ルイーズは大声で泣きだした。
「申し訳ありません!
父が流行病で亡くなり、病気がちの母と妹を抱えていて…大公爵様の命令だと言われて、つい…
でも、まだ王女様がどのような方か判らないし、ほんの少しだけ苦しませて、皆の前で恥をかかせてくれればよいということだったので…
普通よりわずかに、コルセットをきつくしただけのつもりだったんです!」
え…それってつまり…
私のウェストが、普通より太い、ってことなのね??
なんとなく、微妙な空気が部屋の中を流れる。
ジェルヴェ殿下がごほんと咳払いして「…ちょっとやり過ぎのようだったな」と呟いた。




