21.王太子フィリベール
コルセットに締めつけられる苦痛の中、初めて見た王太子は…ずいぶん尊大そうな人だな、という感想だった。
まあねえ、この大国の唯一の王子で、次期国王ですものね。
同じ王太子でも、私のお兄様とは、偉さが違うんでしょうよ。
王太子は感情のこもらない目で、ちらっと私を一瞥し、
…それから驚いたように目を瞠って、私を凝視した。
えっ?
私はその反応にビックリして、王太子と一瞬、見つめあう。
すると王太子は不快そうに目を逸らした。
何なのよ…
ジェルヴェ殿下に導かれながら不得要領な思いを抱え、王太子の隣にいる若い女性に視線を転じた。
その女性は派手で煌びやかで、美しかった。
モードの髪型、ドレス、メイク、どれをとっても完璧だった。
私を冷ややかというよりは、凍りつきそうな氷点下の視線で睨んでいる。
ああ…王太子の愛妾の、公爵令嬢か…
私はあまりの苦痛に、私のために用意された玉座に並ぶ席の、一番末席に崩れるように座り込む。
「大丈夫ですか」
ジェルヴェ殿下は気遣わしげに私の頬に手をあてる。
ちょっと…顔が近いよ…
私は、突然の急接近に心臓が踊りだし、慌てて顔を背ける。
ジェルヴェ殿下は私の反応に少し切ない表情で微笑んだ。
「無理せず、苦しかったら退出すれば良いのですから、仰ってください」
私はうなずいた。
ジェルヴェ殿下は私の肩にそっと手を置いて離す。
そして心残る様子で自分の席へと離れていった。
王様は良く通る声で大広間に集まった人たちに向かって話し出す。
「王太子妃となる、リンスター王女がはるばるメンデエル王国から来てくれた。
ルーマデュカ国はますます発展し、強大な王国となるだろう。
では、皆、グラスを持て」
私も何とか、グラスを掲げる。
促されて、不愉快そうな顔を隠そうともせず、王太子フィリベールが立ち上がって声を張る。
「我がルーマデュカの繁栄に。
乾杯!」
一瞬、皆はぽかんとし、慌てて「乾杯!」と唱和し隣の席の人とグラスを触れ合わせる。
おいおい。
そこは、メンデエル王国の名前も入れないとでしょう??
大丈夫かこの王太子。
明日結婚すんのとか無理。
私は苦しくて朦朧としながら、心の中でツッコミまくる。
ああなんか、目の前が霞んできた…
お腹苦しい、胸が痛い。
お母様、助けて。
視界がぐらりと傾いだ。
前のめりに倒れそうになる私を、「ひめっ!」と誰かが支えて抱き上げた。
だれ…
私は声の主を見ようとするけれど目の前が暗くなり…
もう何も考えられず、私はただ、暗闇に落ちていった。




