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137.エリーザベトお姉様

 お姉様のお部屋は私の部屋のあるところとは棟を別けているので、結構遠い。

 お父様のお部屋に近いのだ。

 

 馬車にずっと座り続けていたから、お尻が痛い。

 それでも速足の侍女に負けじとさっさと歩いて、お姉様のお部屋の前に着いた。

 衛兵がさっと警戒を解いて私たちを通し、私は「リンスター王女様をお連れしました」と言いながら扉を開けた侍女について部屋の中に入る。


 部屋の中には燦燦と陽が降り注ぎ、暑いくらいに暖められていた。

 わぁ、日当たりのいいお部屋。

 私とは全然違うのね、まあ、病弱でいらっしゃるから仕方ないのかな。


 「リンスター、よく来てくれたわね」

 お姉様の声がして、私は暖炉の前に座るお姉様の傍に行った。

 あっつい…

 速足で歩いてきた私は汗をかいてしまいそうだ。


 「そこへおかけになって。

 何か温かい飲み物はいかが」

 お姉様は透き通るように白い腕を伸ばして、向かい側の椅子を勧めた。

 私は「いえ、飲み物は結構ですわ」と断って椅子に座る。

 むしろ冷たいものが飲みたい。


 「またお会いできて嬉しいわ。

 わたくしの代わりに、ルーマデュカへ行かせてしまって、本当に申し訳ないと思っているの。

 でもこうして、本来あるべき形になれたから安堵しているわ」


 お姉様は細い指を組み合わせて、小首をかしげて微笑む。

 華奢だなーそして可愛らしいなあ…

 私みたいな可愛げのない女性より、やはり王はこういう人の方がいいんだろうな。

 私はそんなことをぼんやりと思う。


 「ルーマデュカのこと、陛下のことを聞かせて欲しいの。

 どんな国で、フィリベール様はどんな方なのか…」

 夢見るように大きな双眸を潤ませ、お姉様はうっとりと呟く。


 私がどう話していいか、そもそもそんなに国のことも王のことも知らんぜよ、と考えあぐねていると、お姉様は少し慌てたように身を乗り出す。

 「もちろん、あなたの知っている範囲で構わないわ。

 ご愛妾がいらして、全然陛下と交流がなかったのは聞いているし、その、白い結婚だったことも…」


 そうだ。

 私と王は一度もそういう行為はなかった。

 初夜に寝くたれてる妻なんざ、金輪際抱く気にならないのも、さもありなん。

 そういうとこが、ダメなんだわ私。

 愛されないわけだよね。


 お姉様はほうっとため息をつき、乗り出していた身を引いて椅子に座りなおした。

 「わたくし、本当はフィリベール様をお慕いしていたの。

 だから退屈なお妃教育だって我慢して教わっていたのよ。

 だけどわたくしが病気がちであることや、大公爵のご令嬢がご愛妾でいらっしゃるということ、しかも急な結婚の申し込みで、お父様やラウツェニング宰相に反対されて。

 でもそのご愛妾も、陛下が御自ら追放なさったと聞いて、わたくし居ても立ってもいられなくなってお父様にお願い申し上げたのよ。

 再度わたくしを嫁がせてくださるよう、ラウツェニング宰相が手紙を何度も書いてくれたの」


 ご機嫌麗しく頬をぽっと染めて話し続ける。

 「やっぱり大国の王妃、しかもあの見目麗しく賢いフィリベール様には、わたくしが相応しいのではないかしらって思うのよ。

 あなたには本当に申し訳ないけれど、でもあなたではやはり、力不足というのかしら、荷が重かったのではないかしら。

 婚約者の、何と仰ったかしら、侯爵殿とこのメンデエルでのんびり、何の向上心もなく穏やかに暮らしていく方が合っていると思うわ」


 私は、今まであまり話したこともなかったこの異母姉を、呆れて見つめていた。

 こういう、人だったんだ…

 

 いつも特別待遇で、大国の王妃になるのだからと教育を受け贅沢をさせてもらって、蝶よ花よと育てられるとこうなるわけ?

 …もうすぐお別れだし、もうどうでもいいけど。

 王も苦労するんじゃないの、まあ、頑張れ。

 ある意味自分で蒔いた種だものね。

 

 うっとりと目を潤ませて、お姉様は独り言のように話し続ける。

 「あのね、陛下はもうこちらに向かっておられるのですって。

 ギルベルトやあなたが昨日、帰国したばかりというのに、あまりの速さにお父様も驚いていらしたわ。

 よほどエリーザベトを早く娶りたいのだな、と仰って。

 前々から準備していた嫁入りの支度がようやく日の目を見るのよ」

 

 そこまで話してやっと私の方を向き、あなたの話を聞きましょう、という感じになったので、私は馬鹿らしくなりながらも少しだけ話した。

 どこが不安がっているのよ、自信満々じゃないの。

 下手なこと話したら、後々、笑いものにされそう。

 

 「まあ、ドレスやアクセサリーを誂えてくださったの?

 あとでぜひ拝見したいわ。

 リンスターに似合うものを探すのは大変だったでしょうねえ…

 とても思いやりのある方でいらっしゃるのね」

 お姉様は胸の前で両手を組んで、目を閉じる。


 王も、お姉様なら着せ甲斐があるわよね。

 部屋が埋まるほどの贈り物をするんだろうな。

 「俺のシャンティイ・クリーム姫」とでも言うのかしら。

 

 悔しくなんて、悲しくなんて、ない。

 私はここで、幸せに暮らしてやるんだから!

  


 

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