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105.謁見の間で

 その日も王太子からの呼び出しがあったが、私は疲労感で立ち上がれなくなってしまい、各国の来賓の謁見には伺いますとだけ返事をして横になっていた。

 

 王太子はどう答えるのだろう。

 そればかりが頭の中を駆け巡る。


 お姉様と5年前から婚約者として、文通したり肖像画を送りあったりしていたのだから、正直なところ私なんかよりよほどお互いのことをよく知っているのだろう。

 お姉様は王太子のことがお好きなようだけど…王太子は、どうだったんだろう。

 女好きだとの評判だったし、お美しいお姉様に心惹かれたこともあったろうか…


 そう考えると、何故か胸が重苦しい。

 どうして私はお姉様のように美しく生まれなかったのだろう。

 どうして私は第二王女だったのだろう。

 どうして私は…王太子に愛されないのだろう…


 王太子は私の体調になど興味ないというように何度も何度もお使いが来て、私は寝ていられず、仕方なく起きて支度をする。

 戴冠式や即位式に私ではなく、お姉様が出席なさるのなら私なんてもう要らないでしょう?

 と、考えて、はたと気づく。

 

 もう即位式と戴冠式は明日だ。

 その後、王の初仕事として、陛下の国葬が執り行われる。

 お姉様はもうここに到着なさっていなければならないのでは…?

 お兄様とご一緒にいらっしゃってるの??

 

 すたすたといつもと変わらぬ足取りで歩く執事についてとぼとぼ歩いて、謁見の間まで行き、重い扉が開かれて私は大きく息を一つついて、中へ足を踏み入れた。


 「妃か、体調はどうだ」

 謁見の間にまで様々な決裁書類を持ち込んで、移動式のライティングビューローで仕事していた王太子は顔を上げて、いつもと変わらぬ調子で言い、私はなんだか混乱する。


 「あの…」

 「なんだ、いつものカスタード色で顔色はそう悪くなさそうだが…

 あまりに辛ければ、私が一人で来賓と会っても良いのだが、今日はこの後メンデエルからの賓客がいらっしゃるからな。

 そなたも兄上に会えると楽しみにしていたようだから、一応呼びにやったのだが」


 一応呼びにやった…という回数ではなかったようですけど…

 私が困惑していると、いつも謹厳な表情を崩さない執事が思わずといったようにふっと笑いこぼした。


 「…朝からずっと、妃はまだかまだかと、それは矢のようなご催促で。

 わたくしが何度もご体調がお悪いようで、と申し上げても、少しするともう治ったのではないかとお呼びしに行かされて」

 「うるさい!

 今日到着の招待客は特別だから、失礼のないようにと思っただけだ」


 王太子は心なし、顔を赤くして怒鳴る。

 そういえば、王太子も、いつもにも増して服装に気を遣っているようだ。

 清々しい中にも、匂いたつような色気があって、私は赤面し顔を背けた。


 「申し上げます!

 メンデエル国から、ギルベルト王太子殿下がご到着あそばしました!」

 部屋の外から、侍従長の声が聞こえた。

 執事やその部下が、慌てて王太子のライティングビューローを片付け、侍女たちが駆け寄ってきて王太子と私の身繕いをする。


 王太子は私を手招きして呼び寄せ、私が近づくと手を挙げて髪にそっと触れ、頬を撫でた。

 「叔父上から聞いたと思うが、そなたの元婚約者殿がいらっしゃっているそうだ。

 そなたがどうしたいのか、訊こうと思っていたのだが…」

 「わたくしは…」


 私が口を開いたとき、王太子は一瞬、顔をくしゃっという感じにゆがめ、切なく微笑んだ。

 「お互い、己の思い通りの人生を歩むことは叶わぬな。

 国家のため、民のため。

 それがこういう身分に生まれついた者の宿命なのだ」


 そう言うと手を離して前を向き、「お通ししろ」と声を張った。

 私は侍女に導かれて、王太子の隣の、豪奢な椅子に腰かける。

 

 王太子の言葉の意味が解らない。

 王太子は、何を考えているのだろう。

 

 王太子の、思い通りの人生って…?

 

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