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10.クラウスの話

 急いで部屋着に着替えて居間に戻ると、クラウスは専用の低いテーブルの前に座って食事をしていて、その横に二コラが立っていた。

 二コラは一日の労働に疲れているのだろう、立ったまま今にも舟を漕ぎだしそうな感じだ。

 

 私は二コラに「二コラ、今日はもういいわ。上がってお休みなさいな。女中頭には言っておくから」と優しく話しかけた。

 二コラははっとしたように顔を上げ「いえ…大丈夫です、申し訳ありません」と真っ赤になる。

 

 「これからクラウスと話があるの。

 ほら、侍女のグレーテルもいないでしょう。

 もう下がってもらったのよ」

 私が重ねて言うと二コラは辺りを見回し、本当に侍女たちも小姓もいないのを認識して「はい…では、失礼します」と深々とお辞儀をした。

 「クラウスさん、ありがとうございました」

 小さく言って部屋を出ていこうとする。


 「こちらこそ、ありがとう」

 とクラウスは料理を指さして言った。

 二コラはにこっとして、また頭を下げて扉を開け、そっと出て行った。


 私はクラウスの斜向かいのソファに腰かけ、話し出す。

 「早速で悪いんだけど、食べながら聞いてね。

 1か月後にルーマデュカへ輿入れすることが決まったわ」


 クラウスは手を止めて私を見て、カトラリーを置いて立ち上がる。

 「ああ、やはりそうでしたか…

 おめでとうございます」

 さきほどの二コラのように深く頭を下げる。


 私はいつもとまったく様子の違うクラウスに違和感を覚え、戸惑ってわざと明るく言う。

 「おめでたいって言えば、まあそうね。

 違う意味だけどね。

 お母様はいたくご立腹だったわ。

 私がお姉様の身代わりに、女誑しで悪名高い王太子の許へ嫁ぐなんて許せないって」

 

 クラウスは暗い表情で小さくうなずく。

 「姫様が晩餐に行っている間、私も城の中を歩き回って情報を集めてみました。

 ルーマデュカの大使団が滞在している部屋の近くまで行きました」

 「えっ」

 私は驚く。


 「あまり危ないことしないでよ。

 衛兵たちも殺気立ってるわよ、そういう場所は…」

 「大丈夫ですよ、誰も私をヒトだと思っていませんから。

 ネコやイヌが歩いているのと同じです。

 せいぜい、しっしっと追っ払われるくらいですよ」

 自嘲気味に言うクラウスに、私はかけるべき言葉が見つからず口ごもった。


 「…それで、いろいろ調べた結果を考察して、私なりの推論を組み立てました。

 今回、突然大使たちが来た理由は、やはり王太子の女性問題に端を発しているようですね」

 でしょうね…王様が病床にあるなんて聞いたことないもの。

 私はため息をつく。


 「王太子の女癖の悪さはもう幼いころからだが、今回は相手が悪いです。

 ルーマデュカの筆頭公爵家の令嬢のようです。

 公爵は王太子の女好きを早くから見抜いていて、領地から令嬢を出したことがなかったのだとか…

 3か月ほど前に令嬢が社交界にデビューするため、初めて宮廷に来て、王太子の毒牙にかかってしまいました」

 

 あーあー。

 可哀想に。

 私は令嬢に同情する。


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