オワリそして、ハジマリ。
−2320年–
全国に拡散し、人々を混乱の渦へ迷い込ませたウイルスが消えて約300年。ウイルスのなくなった今、世界は平和と思われていたが..........
「東京都千代田区では、死者が30名を超え、それは.......」
「デスヘラリストによるものと思われます。」
「ねえねえパフェ食べに行かなーい?」
「ありあり、てかさまたうちの学校から人消えたらしいよ」
「また?最近多いよねー、デスハラ」
「デスハラってなに、ウケる」
「デスヘラのハラスメントでデスハラー」
「まあそんなのありえないよねー普通。」
「そうそう、そんなのあるわけ......」
昼下がりの暖かい日差しが彼女らの顔を照らし、何者かが黒き闇で、その場を包み込んだ。
「昨日12時過ぎごろ、女子生徒2名の死体が発見され、男子高校生1名が行方不明になっています。いずれも、デスヘラリストによる犯行と思われます。」
全国で今、非人道的殺人障害、『デスヘラ』が世界各地で広まっていた。
痛み、妬み、恨み、憎しみ。負の感情は、事あるごとに脳に蓄積されて、ストレスを与える。でも、そんなストレスが、殺人にいたることはめったにない。だからこそ、「デスヘラ」は危険視され、だが、未だに何が原因なのかは明かされていなかった。
「ねえねえ聞いた?あの噂!。」
「あー、例の?」
「そうそう!」
バカでかい声で話すので、聞きたくなくても聞こえてしまった。だが、こんな噂を聞いたのは、初めてではない。
「誰かがあの、非人道的殺人障害を意図的に引き出している」
だとしたら、誰がそんなことをしているのか、皆が考えていいることだが、警察などはなにも公表しておらず、デスヘラに関しての情報は、政府によって隠されていたようだった。他にも、あのテロリストたちの中に有名人がいる。だとか、その中には異能力のような力を使うものがいるとか。そんな漫画みたいなこと、あってたまるか、と思いながら、異能力かー、とか思う時があった。
「ねえねえ椛くん、どこみてるの?おーい」
「だまれ、今考え事してる。」
「美少女幼馴染を無視して考えることはなんだ!他の女の子のことか!」
このうるさいのは藍坂莉華、俺の中学の頃からの幼馴染で、家が近い。と言うだけで、別に接点はないが、昔からよくおれを気にかけてくれている。
「あー、もう、なんだよ。」
「このあと時間ある?ついてきて欲しいところがあるんだけど」
「どこに?」
「それは言わない」
「なら行かない」
「シレネちゃんもいるよ」
「ならいく」
こいつだけならまだしも、シレネさんがいるなら話は別だ、裏未シレネさんは、俺の生きがいだった。なぜって?
あれは、1年前、俺がこの学校に入学した頃。。。
「やばいやばい、入学式遅刻はまずい!!いってきます!」
いってらっしゃい。なんで帰ってこない。母親は俺の物心がつく前に亡くなり。父親はいつからか家に帰ってこなくなった。俺は孤独だった。まあ、そっちの方が楽だ。
「ごめんなさい!」
なにか柔らかいものとぶつかった。多分、人の、それに、男じゃない、女。
「あの、大丈夫ですか?」
その時は、なぜだか何も喋らなかった。身動きができずに、痺れていた。美しい彼女を前に、俺はなにもできなかった。
「いわゆる衝撃的初恋ってやつだよねー、椛くん」
「お前には関係ないだろ、莉華」
「そーかなー?」
めんどくさい。けど、こいつとの会話には負を感じない。俺は、人の言葉に籠っている感情が、何故かわかる。例えば、町歩いていると、知らない人に肩をぶつけられる。ぶつかってきた相手が、俺に対して、「あ、さーせん」と、一ミリも申し訳ないと思わずに俺に言ってきたとすると、俺は負の陰気を感じる。不快だ。ただ、今のは簡単な例で、実際、その状況や相手、言い方で、相手がどんな感情を込めているのかは、誰にだってわかる。だが、今の世の中、そう言うのを一切表に出さず、まるで役者かのように善人を演じる奴なんて、ごろごろいて、そいつらが必死に演技をして頑張っているのに対して、俺はそいつらがほんとにどう思っているのかが、分かってしまう。だが、莉華に関しては、それを一切感じない、こいつは、本物の善人なのかもしれない。ちなみに、俺のこの意味のわからない力が、役に立ったことなんて一度もない。これからも、たぶん。役に立たないと思う。
「ほらいくよ!」
「はいはい」
めんどくさい風に返事をしたが、少し楽しみだった。シレネさんが、他の生徒と遊んでいることなんて、見たことないし、当たり前だが、俺も遊んだことがなかった。だからめちゃくちゃ楽しみだ。まじで。
この時は、まだ知らなかった。嫌、知らなくて当たり前だったんだ。俺はもう、誰も信じられない。
「はいー!また椛の負けね!」
「くっそなんでだ」
「柏木くん、意外とこういうの弱いのね」
感情がわかるっていったって、こういう、トランプとか、そういうのだと、なぜか俺の力は発動しない。役立たずだ。
「うーん!たのしかった!」
「そうね、こうして、遊んでみるのもたまにはね」
「あぁ、また集まろう」
遊びは一瞬で終わってしまった。4時間もファミレスにいたのに、体感ではほんの30分程度に感じた。
「そういえば、2人ってそんなに仲良かったの?」
莉華とシレネさんが仲がいいだなんて、聞いたことがない。クラスのアイドル的存在の莉華に対して、シレネさんは、清楚系、学校の美女的存在で、性格も似てはいなかった。
「うん、最近仲良くなったんだ」
「えぇ、そう、ね」
シレネさんの顔が暗くなった。何か悪いことでも思い出したんだろうか、いや違う。シレネさんの顔が暗くなったんじゃない。俺の周りから、光が消えている。
「おい、なんだこ...」
腹部に激痛が走った
「血....?おれ、の....?」
「こちらケイジュ、標的、及び、柏木椛の殺害が完了しました」
視界が、どんどんと狭くなっていった。俺は、死ぬのか、まて、莉華、それにシレネさんは、無事なのか。
「莉....」
「まだ生きてる、さすがだねー、死なないでよ?私悲しいよ?椛」
「な...んで...」
どうして、どうして。いつもの彼女の言葉からは、負の陰気なんて感じられなかった。だが、今彼女からでた言葉からは、確かに強い負を感じた。いや違う。強すぎて、わからなかったんだ。こいつの負の陰気に。人は、死に直面するとき、もっとも能力が活性化される。やっと感じられたんだ。本当の、莉華を。
「なんで笑ってるの?きもーい」
「あなたは関わりすぎなのよ、毎回」
「いいじゃーん、おもしろいんだもん、こいつら」
莉華たちは、なにを話しているんだ。俺は、殺されたのか?
「ぐほっっ.....」
さらに激痛がはしる。
「すごい、これでも死なない、想像以上だね、柏木椛」
もう、痛感なんてなかった。どんどん、どんどんと、視界が狭まっていく、どんどん、どんどんと...
「曇天、鎖凪。」
狭まっていた視界が、広く、そして、あたりは明るくなった。
「あっぶな、間に合ったー、生きてるよね?」
「は、はい、一体なにが。」
「いいから今は見てな、あれがあいつらの本性」
その時は、見ることしかできなかった。
「ちょっと、はやくなーい?邪魔なんだけど、ヴァベニスのクソ野郎ども」
「さっさと片付けましょう。2体1です」
「わたし1人で余裕だから!ケージュたんはひっこんでて」
「なめられたもんだね、我々も」
「だまれ、歓楽極まりて哀情多し。アイビス」
丸腰だった莉華が、いつのまにかにどでかい銃をもっている、こんなのに勝てるわけがない。
「生き身は死に身。殺到。」
その瞬間、莉華の首が飛んだ。人の首が。
「莉華っ!!!」
「あれは君の知っている藍坂莉華じゃない。落ち着くんだ」
「ちっ、こちらケージュ、莉華がやられました。はい。標的の排除は済んでいるかと。一度引きます。」
「逃がすと思うか?」
「いえ、引くのはあなたを殺してからです。」
勝負は一瞬だった。シレネ、いや、ケイジュの首が、生々しい音と共に飛んだ。
「ゆりちゃん、そっちは?」
「大丈夫です。処置完了です。このまま一度本部へ送ります」
「了解」
「あの、なにがあっ...」
また視界が、狭くなっていく。あ、でもこれ、気絶だ。
「ごめんねっ」
ここからだ、ここから俺の倫理的な日常は、跡形もなく消えていった。