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第八話 ナオイエ

 外套の男が拘束されているのは石造りの独房だ。

 側には屈強な拷問官がいる。


 よくみると爪が全て剥がれている。

 拷問によるものだろう。

 その容姿は白髪を持つ壮年の男性だった。

 尋常じゃない鍛え方をしていることが目に見て取れる。

 


「さて、なぜあのようなことをしたのか言ってみたりする気はないの?」


「…なにも言うことなどない。さっさと斬れ」


 だめだ、全く会話をしようとする気がない。

 

「とりあえずあなたの名前を教えてくれる?話すのに不便だから」


「名前などない…そのようなものは与えられなかった」


 予想はしてたけど、結構暗い出自そうだな。

 名前をつけてあげることにしよう。


「なら…あなたの名前は今日からナオイエよ。受け取りなさい」


「…っ、お前は自分を殺しかけた相手にも名前などを与えるのか」


 おっ、ちゃんとした反応が帰ってきた。

 ここらへんをとっかかりに攻めよう。


「私はどんな人間がどんな悪事を行おうが、最終的には許せる。どんな外道にもそこには生活苦だったり遺伝だったりという理由があって、自分で自分の人生も決められない弱者であるから」


「なにを言いたいのか要領を得ん…」


 まあ、弱者保護思想なんてこの時代じゃわかんないよな。

 いや、自分自身現代思想が全て優れていると思っているわけじゃないし、40年後という短い期間ですらその思想は否定されているものばっかりだろうから過信はしてないけど。


「要するに、人生は選択肢大量に見せかけた一本道ということ。どんな人間も、私もナオイエもそのレールから抜け出せない人間ということ。そうな以上、憎しみなど抱けない。同情してしまう。恨むならこの世界の創造者しかありえない」


 この思想が正しいのかはわからない。

 もしかしたら現代科学の時点ですら明確に否定されているのかもしれない。


 でも俺がそう思ったんだから俺の中ではそうなんだ。

 

「私はあらゆる人間を許したいと思う。だからあなたも許しただけ。……そして、そんな綺麗事などより大事なこととして、お前はきっと私の役に立つから」


 拷問官が『お嬢様!このような得体のしれないものを雇うなど!』などといっているが無視無視。

 役に立つものは役に立つ。それで良い。


「ふっ…、綺麗事を抜かす割には、そこらへんの勘定はしっかりしているのだな…よかろう、雇われてやる。失敗した時点で元の主の元には戻れんしな。このまま殺されて地下に朽ちるよりは良いだろう」


「雇う?馬鹿を言いなさい」


 ナオイエが不敵に笑う。しかし俺は即座に否定する。

 奴の顔には落胆の顔が浮かんでいた。

 しかし、次の瞬間驚愕に変わる。


「私の直臣として召し抱える。否はいわせない」


「めし、かかえる?冗談だろう…?」


 驚愕、そして次ぐは困惑。

 この世界において、暗殺者は前世で言う乱破ニンジャのような働きも担っている。

 情報収集も暗殺も護衛も何でもござれ。

 しかし、表立っての武功をなによりの誉れとする貴族や騎士は暗殺者を蔑んでいる。

 だから、誰も雇いはしても召し抱えはしないし厚遇もしない。


 これってチャンスだよなぁ?


「私はぶっちぎりの世界最強になる予定だから他の貴族ほど必要じゃないのかもしれないけど、情報収集や情報操作も優れたものであることはわかっているわ。あなた達暗殺者の価値は埋もれさせていいものじゃない」

 

 次の瞬間、ナオイエは目に涙を浮かべ始めた。

 …計画通り!


「まさか、我に価値を見出してくれる者がいるとは…。喜んで応じさせてもらおう!そして我が命、捧げよう」


 フィーッシュ!釣れた!

 心の中での俺はとても人様には見せられないような顔をしているだろう。


 しかしこいつ負けが確定してるのに上から目線だな…と思っていたけど…もしかして…


「さっきから思ってたんだけど、お前、敬語使えないでしょう?そんなんじゃ情報収集などいろいろな業務に支障がありそうだから鍛えさせてもらうわ。あ、その前に前の雇い主の情報洗いざらい話してね」


「わ、わかった…」


 こうしてニンジャ、もとい暗殺者が臣従した!

 まあしばらくは礼法修行させないと駄目だけどな。

 

 ま、いろんなところから暗殺者雇って一代組織でも作るかな。


 暗殺者の棟梁、リル・ミルフィル…いかんな、あまりドスが効いていない。


ナオイエ視点


 我は凄まじい家に、否、人に召し抱えられた。

 一介の暗殺者である我や他の者、合わせて32人を召し抱え、高度な教育を施すなどまず考えられない。

 我は大殿に向かって刃を向けたのだ。

 それなのに…感謝してもしきれぬ。

 

 あれから一年ほどが経ったが、我はかなり万能な存在となった。

 師…アルトリウス様の鍛錬により戦闘技術は更に磨かれ、礼法も完璧にこなせ、諜報員としての実力も高められた。

 

 しかしリル様は美しいだけでなく、凄まじくお強い。

 我が不意を付いて殺せなかったものなど一人もいない。

 ミードルと言ったか…剣豪と謳われた者。

 そのような者でも、だ。

 しかしあのお方はあえて食らってやり、その上で余裕をかましていた。

 我はありえないものを見た気分になった。


 僅か二年ほどで、国一番の強さを誇るアルトリウス様を超えられたというのは何度聞いても信じがたい。

 しかも未だ10歳だ。考えられない。


 流石に技術自体はアルトリウス様どころか我よりも下のようだが、これからもどんどんアルトリウス様の技術を学ぶことだろう。

 あるいはいずれ、アガスト王国の秘密兵器すら超えられるかもしれない…


 アガスト王国は私の前の雇い主のことだ。

 そして大殿への暗殺を我に依頼した者。


 あれから数回暗殺者が送られてきたが、我や他の暗殺者がそれを未然に防いだ。

 なぜ暗殺者を送り込んだのか。それはあの国にとって大殿は驚異となりうるのだ。


 あの国には秘密兵器と呼ばれる少女がいる。

 冗談みたいな強さを持っていて、一人で戦局を支配できるようなレベルだ。


 今まではその実力を鍛えるために、そして情報が漏れぬように、戦場どころか一切の外界との接触を絶って力を高めていたが、十分に強まったらしい。

 しかし今度は戦場に送り込まれる。


 イザルモ王国…この国との決戦の場に、だ。


 あの化け物は本当に狂った強さだ。

 大殿でも勝てるかはわからない。

 万が一、戦争に負けたとしたら…そして我らが生き残っていたら…報復を行うつもりだが、そのようなことが起こらぬことを願うだけだ。

今日で毎日投稿は終わりです。

これからは2日に一回を目処に…と考えております。

あと、もう少しで新ヒロインも出てきます…

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