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第七話 アンサツ

 ナイフで刺された場所からドボドボと血が溢れる。

 致命傷だろう。もう俺は助からない。


「お前は強くなりすぎた。我が国の驚異になる前にここで始末させてもらおう」


 黒い外套をまとった男は、しわがれた声でそう言って、逃げ去ろうとするも、護衛の騎士たちがようやく我に返って行く手を阻む。


「え…?り、リル?」


 最期に見るのがお姉ちゃんの困惑した顔なんて、嫌だな…。


 そう思いながら、永遠の眠りへ…つかないんだなこれが。


 あー、くそ、痛ってぇなぁ。でもこんなんじゃ死なない。死ねない。


 おそらくこいつは武力160くらいな上にナイフには猛毒を塗っているのだろう。

 

 だが、武力206もあって剣豪+剣聖の補正を持った俺がこの程度で死ぬわけがないんだな。


 武力だけを見ればそれなりに勝負にはなりそうだ。

 不意をつかれれば簡単にお陀仏しそうだ。

 でもこの補正があるという状況下なら俺はこの程度では殺せない。

 たとえ心臓を貫かれようとも。


 というかそもそも躱そうと思えば躱せたけどあえて受けてやったにすぎない。

 騎士の人たちは全く反応できてなかったって時点でかなりの技量は持ってそうなんだけどね。


「残念ながらこの程度では私は殺せない。お前ごときに殺されてたまるものか」


「リル様!無事だったのでございますか!?」


 騎士のひとりが俺の生存に驚いているようだ。

 一方、暗殺者は俺との絶望的なまでの実力差を知ってしまったようで、苦虫をスムージーして飲み干したような表情を浮かべている。


「くっ、作戦失敗か…任務続行不能…自害す…むっ!?」


 そうはいかない。

 黒男が自殺しようとしたので、頭を加減して殴って気絶させる。

 殺しはしない。

 せいぜい俺の役に立ってもらおう。


「すぅぅぅ…はぁぁぁ…」


「良かった…生きてた…!リルううううう!!!」


 気功の呼吸という技術により、傷を塞いでいるとお姉ちゃんが流れ出る血も気に留めずに抱きついてくる。

 そしてそのまま、唇を奪われた。


「ちょっ…!?」


 一瞬思考が止まった。

 

「一瞬、あなたがいなくなっちゃうと思っちゃって…我慢できくって…。…ごめんね、女の子同士なんて嫌だよね…」


 デートが始まった時は恋心に自覚すらしていなかったのになんで!?

 男子三日合わずばなんちゃらとは言うけど女子はもっと早いのか!?


 ……うん、落ち着いてきた。今ならちゃんと答えられそうだ。


「嫌じゃ…ないよ…?私もお姉ちゃんのことずっと好きだったから…」


「えへへ、両思いだったんだね、私達…嬉しい…」


 もう一度、重ねるようにキスをする。



 こうしてこの騒動はハッピーエンドで終わったわけだが、これを見せられてる使用人たちはどんな気分だったんだろ。

 めっちゃ引かれてたら悲しい…。

 まあ、お姉ちゃんと結ばれたわけだから良いんだけどさ。





「リルちゃん…すきぃ…。はう〜、なんでこんなに可愛いのかな?」


 あの事件が起こってから四日。お姉ちゃんの愛情表現がめちゃくちゃ激しくなった。

 二人称も「リル」から「リルちゃん」に変わった。

 今は布団の上に寝っ転がりながら抱きつかれている。

 あんなことがあったが、今はまだ姉妹愛の延長線上に恋だのがあるだけなのだろう。

 いずれさらに愛情が深まったときにどうなるかはわからないけど。


「くんくん…あぁ…いい香り…」


 後ろからなので顔は見えないが、その表情はきっとデンジャーに恍惚としているだろう。

 そのうち性に目覚めたら速攻で貞操奪われるんじゃないか?


 まあ望むところなんだけどさ。お姉ちゃんのことは大好きだし。



「…取り込み中すまないが、あの暗殺者の取り調べが終わらない。拷問をしても口を割らないのだ。良ければお前からも聞き出してくれないか?」


 師匠がいきなり部屋に入ってきてそんなことを言い出した。

 ったく、邪魔しないでくれよ…。


 ああ、ちなみにこの関係は師匠公認だ。

 反対されるかと思ったが、そもそもこの世界では同性愛への抵抗は前世の現代よりも強くないし、血縁での…というのはむしろ推奨されていることを忘れていた。

 普通に祝福された。

 

 師匠はできればお姉ちゃんを政略結婚の道具にしたくなかったらしい。

 しかしいずれはしなければならないだろうとは思っていた。

 だが、英雄候補の俺がお姉ちゃんとくっついたことによって、それを完全になしにする決心がついたらしい。


 でもまあ、そんな気持ちはお姉ちゃんには通じてないみたいだ。


「父様!リルちゃんはあの暗殺者に殺されかけたのですよ!?向かわせる意味がわかりません!」


 お姉ちゃんがガチギレしながら師匠に突っかかる。

 前まではあんまり口答えしてなかったけど、今は俺が関わることでは師匠に対しても結構はっきり言うようになった。


「ふん、リルはあの程度で死ぬようなヤワな剣士ではなかろう。事実、後ろから猛毒の塗られたナイフで刺されても命に全く別状はなかっただろう?」


 そんなこんなでちょっとした問答が続いたあと、結局俺が向かうことになった。

明日で毎日投稿は終わりです。

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