第四話 ハシリコミ
「とりあえずお前の実力を見てみよう。そこの木剣を振ってみろ」
父…否、師匠が俺に命令する。
それの命令を俺は遂行しようとするが…
「うぅ…はああああ!」
俺にとっては重かったので全力を込めて振る。
前世では剣術家に憧れてた時期があって、努力ではないが動画を見て見様見真似で剣術を極めようとしたことがある。
まあ、才能もないし辛いだけだし一ヶ月で飽きたんだけどね。
「ふむ…初心者にしては筋は悪くない。が、やはり体ができておらんし、剣筋にも無駄が多すぎるな。よし、走り込みをしろ。とりあえずは下半身を安定させるべきだ」
走り込みか…キツイんだろうな。
容姿の努力は辛いには辛いが肉体に直にくるものではない。
となると…結構憂鬱だな。
でも、どこかで楽しそうだと思っている自分がいる。
前世ではとうとう努力できなかったのにこの世界に来た途端にできるようになった。
自分の力を試したいという思いもある。
「よし、屋敷の周りを全速力で30周しろ」
「えっ…?」
今聞き間違えたかな?
30周ってそんなわけないよな?しかも全速力?
この屋敷前世の学校の敷地の2倍はあるぞ?
ああ、こりゃお姉ちゃんも期待に応えられないって言いますわ。
「応えは『はい』だ!今すぐやれ!」
「は、はい!」
こうして俺は走らされることになった。
「ひっ…ひっ…苦し…」
今は6周目だ。正直ここまで頑張っただけでもこの年齢だと褒め称えられるべきじゃないだろうか?
「無駄口叩いてる暇あったらとっとと走れ!死ぬ気でやれ!死んでもいいぞ!死にたくなければやるんだ!」
「ひぃぃぃ〜!」
後ろから竹刀を持った師匠が追いかけてくる。
めちゃくちゃ怖い。
殴られないためにも頑張らなきゃ!
「9周で力尽きたか…蛆虫め」
間違っても8歳にやらせるべきではない修行。
それは流石に乗り越えらなかった。
9周止まり。
だけど、正直前世の金メダリストですらこれは無理だと思う。
ここまで頑張るのすら。
だって全力でこの距離駆けるとか化物じゃん。
柴千春のように根性だけで乗り切ってやっただけ。
「ふん、明日からも続けるから体は休めておけ」
「は…い…」
そのまま俺は倒れるように眠った。
▽アルトリウス視点
まさか儂の娘が同性愛者だとは思わなかった。
しかも最強になって家に利益を齎すので許してくれと言ってきた。
この畏怖と恐怖を集めてきたこの儂に対してあの胆力…
く、くははは…面白い!
誕生日の日以来、おかしいとは思っていたが役に立つのなら儂は悪魔だろうが竜だろうが呑み込んで見せよう。
大切な娘でも、あるしな。
しかし、イリアが儂の期待に潰されそうになっているなどとは思わなかった。
やはり儂は父親失格なのだろうか…。
だが、この領地の発展、そして王国の発展のためには跡継ぎ以外の儂の子供の誰かに心を鬼にして力を仕込まなければならない…気が重いわ。
しかし驚いた。まさかリルがあの出来ていない体で9周を全速力で走り切るとは。
根性一つで…。
儂が8歳の頃などマラソン感覚で走って、なおかつ気を振り絞っても9周が限度だったのだがな…
将来が楽しみだ。
儂の持てる技術全てを教えよう。世界最強などは無理だろうが、この大陸で最強くらいにはしてやろう。
リルなら出来るはずだ。
いや、これで娘に嫌われたのだよな…できるだけ修行は易しくしないとならない…
こんなことばかりしてるから嫌われる…
そもそもこんな修行は本来虐待でしかない…
だがリルなら…
いかんの、思わず笑いそうになる。期待が止まらん。
あれから3ヶ月が経った。
延々と走り込みをさせられたわけだが、そのおかげか武力がそれなりに上がった。
今はまだ身体作りの段階なのでそこまで上がってないが、剣術を上げる段に入ったらガンガン伸びていくだろう。
しかし修行が辛い。脳汁がドバドバ出るので修行している間はそこまでなのだが、終わったあとに体が痛んだり体力が完全に奪われるのが辛い。
ああ、ちなみにステータスはこんな感じだ。
学力:72 芸術:67 武力:39(↑21、+10) 魔術:30 容姿:74(↑12、+10)
スキル:『気遣いの身だしなみ』『美形成長』『運動はたしなみ』『武術の道』『武芸百般への道』
追加されたスキルである『運動は嗜み』は武力を10UPさせるスキル。
『武術の道』『武芸百般への道』は武力の上がり幅を上げるスキルで、後者のほうが効果は高いが重複する。
ちなみに美形成長の効果で容姿も12上がった。
やったねリルちゃん!数値が増えるよ!
俺は他のステータスもまんべんなく上げるよりは容姿と武力特化にしたいと思う。
いや、最低限上げはすると思うけど比率は全然違うことになるだろう。
武力を500まで上げた原作主人公は未来永劫語り継がれるレベルだったし。
いろいろと楽しみだな。
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