第三十一話 極めて防衛に長けた忍者めいた何か
メルストとの戦いが終わったあと、二回戦も圧倒して勝利した。
どうやら今日はもう終わりらしい。
「あ、あの、り、りりゅ師範っすか?でへへ…で、できればサインしてくれないっすか?」
「できれば蔑んだ目でみてくれないですかね?…フヒヒ」
「抜け駆けはずるいですぞ、拙者にも!」
なにやらさっきからサイン攻勢が始まっている。
ちょくちょく変態っぽいのがいるが、まあ私の見た目はそういう層狙い撃ちな感じだし仕方ないと割り切るしかない。
30〜50代くらい(この世界では16歳くらいから見た目や精神の成長が遅くなるので前世に換算すると20〜30代くらいに見える)の男性が5割、ちょっとロリコンっぽいお姉さんが2割、年配の方と私と同年代くらいの子供が1割くらいだ。
あとはバラバラ。
しかしこの世界、ちょっとロリコンの変態さんの比率が高くないですかね?
「踏んでくだしあ!お願いします!」
噛んだのか?それとも…。昔のネットスラングみたいな声が聞こえたが…なんとなく懐かしい気分になった。
「うわぁ…」
でも言うてることにはドン引きや。なにがかなしゅうて人を足蹴にせなあかんの?
言ったのが綺麗なお姉さんやからまだマシやけどさぁ…いやマシやあらへんな。
余計にドン引きやわ。
めっさ綺麗な人がへんたーいな発言したら興奮するっちゅう人が前世には結構いたけど、好きでもない人にされたら怖いだけやね。
まあ好きな人にこの手の発言されたら頭おかしゅうなるくらい興奮すると思うんやけどね。
うん、今度メイスに頼んでみるわ。お姉ちゃんだと完全にロリやし、雰囲気がでぇへん。
なぜかエセ関西弁が出たが気にしないでほしい。
「リ、リルちゃんのファンって変な人多いんだね…」
「…ご愁傷さま」
「その、元気出してくださいまし」
なんか嫉妬を通り越して同情されたが悲しくない。悲しくなんてない。
真っ当なファンがほしいなんて思ってない。
どんなにイカれた人だろうがファンはファンだ。サービスは欠かせない。
しかし、熱狂に浮かされているからかもしれないけどこの人たちは怖がらずに私の近くに寄れるんだね。
元クラスメイトたちは違ったからここは素直に嬉しい。
踏んでくれとか蔑んでくれという要望は無視してその場にいる人たちへのサインと握手をして、前に買った別荘へ行く。
「…リル様、泥虫を捕らえました」
「おおお…!?ナオイエ、どうしたの?」
お風呂で汗を流してから部屋で瞑想をしていたら、ナオイエが唐突にやってきた。
瞑想して自己の深くに潜行し、意識が無に近づいていたとはいえ、それでもこの私が気づきもしないというのは物凄く異常な腕だ。
この年にして成長したんだなぁ。
「大会中は集中を切ってはならぬために黙っておりましたが、なにやらリル様の奥方様たちを人質に取ろうとしていたようで…」
「奥方…?…ああ、お姉ちゃんとメイスのこと?他の人に言われるとなんか恥ずかしいな。…でも、あの二人ならどうとでもなるんじゃない?」
どちらも私ほど暗殺者なんぞを探ることに長けていないものの、お姉ちゃんは魔術によって、メイスは気と直感によってかなりの範囲で不意打ちを回避できるし、そもそもめちゃくちゃ強いしで心配いらないと思っていた。
いや報告はいるけどさ。
しかし、こうもナオイエがいつにも増して重い表情なのかがわからない。
「…それが」
「…お前レベルの暗殺者か」
「…」
ナオイエは首を縦に振った。肯定の意。
確かに今のナオイエならばアルンレベルなら普通に、お姉ちゃんレベルなら薄氷を踏んで、千に一つでいいのなら師匠レベルを無力化して人質に取れるだろう。
そのレベルのやつか…。
「良くやった。褒美と感状を取らす」
「はっ、ありがたく」
「して、どこの手のものなの?」
ナオイエは一瞬考え込んで、言う。
「尋問しようとしたところ、気によって自殺してしまいましたので確証はないのですが…おそらく、アガストの手のものかと」
つまりナオイエの元同僚かなんかなのかな?
「…厄介だね。でもナオイエレベルともなれば敵全体からかき集めてもそうそういないだろうし、仏捨刀さえいれば安全かな」
仏捨刀にも最近は武術の指導をしているのでもっとぐんぐん実力は伸びているし、彼らなりにさらに噛み砕いて理解して自分の分野に活かせている。
「そうとは思いますが…万が一もありえるので、くれぐれもご注意の程を」
「忠告、ありがとね。下がって良いよ」
ナオイエは音もなく消えた。
おー、すっげー…。完全に忍者じゃん!かっこいい!
忍術的なものなのかな?今度教えてもらいたい。
あー、でも目立ちたがりの私には忍術は似合わないかな?
忍びなれども忍ばないというのも…まあいいや。
やっぱやーめた。
しかし、となると国でも潰すかな?乗っ取るのがいいかな?
私の大切な人たちを人質に取ろうとしたんだから仕方ない。
ああいや、それだと苦しむ人たちが大勢出てくるし…さぱっと苦しまずに死ぬならともかく、精神的に生き地獄なんてことになったら、例え暗殺者に命じた本人だろうが哀れすぎる。
命を奪うことには躊躇は薄いけど苦しませ抜くなんてことは流石にやりたくない。
有様や良心が妙にズレてるからちょっとサイコパスっぽいなんて思われるかもしれないが、これが私の本音だ。
大真面目に心配している。
さて…どうしようか。




