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第三話 アルトリウス

 イリア・ミルフィル。それが俺のお姉ちゃんの名前だ。

 ロフティ・ドリーム…長いな…うん、そう、ロフリムにおいて悪役令嬢『アルン・トルンド』の取り巻きであった人間でもある。

 ロフリム時代のお姉ちゃんはかつて美少女であった面影は見えるものの、ガリッガリに痩せていて、なおかつ性格がものすごく悪かった。


 アルンとの付き合いもビジネスライクなもので、利益を提供してもらう代わりに取り巻きをやっていた感じだ。


 具体的な下衆エピソードを上げると、主人公に対して好意的な人間に嘘の噂を吹き込むというものがあった。

 これはゲームシステムに関わる問題で、ようするに爆弾だ。

 近頃あまりデートしていないヒーローは嘘を信じ込んでしまって悪い噂を広める。

 その悪い噂によりヒーローたちの好感度が下がり、エンディングから一歩遠のくというわけだ。


 これによるオーバーフローを利用した松永バグというのもあるが、この世界では関係ないだろうから割愛する。


 今のところこの世界ではこういう性悪女になる傾向は見えないが、おそらく父との問題を放置するとゲーム時代のようになるのだろう。

 それは絶対に嫌だ。


 よし、物は試しだ。相談してみよう。


 ということで父の書斎にやってきた。


「リルよ。なにか用でもあるのか?」


 父の名前はアルトリウス。国有数の実力を持つ騎士にしてミルフィル伯爵家の家長。

 …たしか『鋼鉄の騎士』だったか。

 ロフリムでは父の存在は全く明かされていなかったが、この世界では結構な影響力を持っている。


「はい。お姉ちゃ…いや、姉様は父上に過度な期待を掛けられて苦しんでおります。どうかその期待のハードルを下げていただきたく」


 こんな口調でよかったっけ?

 なんか貴族の令嬢っぽくないけどいいか。


「…ふっ!はっはっはっ!その年齢にしてそのような気遣いができるとはな。いや、物の怪でも憑いておるのか?」


 父が破顔する。

 !? もしかして父は俺の正体を見破っているのか?


「8歳になってからお前の様子がおかしいのはよう知っておる。一応親子だ。その程度はわかるわ」


「そ、そのようなことは……」


「いや、良いのだ。儂の娘が悪魔憑きであろうとなんであろうと。性格の根幹は変わっておらんようだしな」


 俺はこの人を舐めていた。

 こんなに洞察力に溢れる人だとは思わなかった。

 しかし騎士とはここまで人外なのか?

 正直なところ怖すぎる。

 …まあ、性格の根幹が変わっていないというのは本当だ。

 もともと、前世の俺と今世の俺が合体した結果今の俺になったわけだが、人格自体はどちらも対して変わらない。

 変わるところといえば劣等感の有無と恋愛対象、基本知識くらいだろう。

 いままでの俺は男も女も恋愛対象として見れていなかったが、男といずれ政略結婚をさせられて子を成すことは当然のことだと思っていた。

 男相手の抵抗感もなかった。

 しかし今の俺は女の子しか相手にしたくないし、男相手なんてもっての外だ。

 しかし、見破られたというのならちょうどいい。


 いままでの8年とこの2週間ちょっとで知ったことだが、この父は自分の利益になるものはなんでも受け入れる。

 実力さえ示せば味方になってくれるだろう。

 よし、話そう。


「…実は私は男性を恋愛対象として見ることができません。女性しか相手にしたくないのです」


「ほう、しかし貴族の家に生まれたからにはそのような我がままは許されんぞ?」


「私は世界最強になりたくございます。そして竜を殺してこのお家にも利益をもたらします。それなら文句はないでございましょう?」


 一瞬の沈黙の後、父は大笑いした。

 

「はっはっは!大言壮語を吐いたものよ。そしてその令嬢にふさわしからぬ言葉遣い…面白い。儂が直々に稽古をつけてやろう。目指すといったからには期待し続ける。お前が期待に押しつぶされようが一切同情もしない。それでいいな?」


 眼力を込めて俺に凄む。

 その迫力に圧倒された。

 これが実力で平民から伯爵にのし上がった歴史を持つ家の家長…!

 身震いするほどの衝撃だ。

 

「はい…!ならこれからは師匠とお呼びしてよろしいでしょうか」


「師匠、師匠な…!良い呼び名ではないか。結構な数の弟子を持った儂だが娘に師匠と呼ばれるのもまた良いものよ。あいわかった。イリアに過剰な期待を押し付けるのはやめだ。今度からその対象をお前に移す。…潰れるなよ」


 …あれ?お姉ちゃんの問題は解決したってことだよね?

 でもこれじゃお姉ちゃんに嫉妬されない?

 「私にできなかったことを妹はこなしていて、しかも父の愛を奪った!憎い!」なんて

 いやー!好感度を上げたかったのに!

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