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第二十七話 オアシス

「そういえばお前、天覧試合に出るのだったな」


「そうですが…それがなにか?」


 私と師匠が向かい合わせに正座してお茶を啜りながら話をする。

 貴族が飲むにしてはあまり高級ではないお茶だが、水器のおかげで格段に味が引き出されている気がする。


 気のせいではない。


 そういえば、家に帰ってきてから2ヶ月、縁談騒動・ボードゲームの商談があってから半年くらい経ったな。

 ミザールは今頃どうしているのだろうか。

 本当に女装に目覚めてしまったのだろうか。

 …もしそうなら酷いことをしてしまった。

 まあ本人が幸せなら何でもいいか。いや幸せかどうか知らんけど。


「お前は深刀流として出るのではなく、個人として出るわけだが…どのような者が出場できるのかは聞いておるのか?」


 全然知らなかったので素直に首を横に振る。


「…では説明しようか。神覧試合とはゼアニス神も含まれる楽土創世レアスマフサの神々に捧げる奉納試合だ。大陸全土から腕自慢が集まるゆえ、ただの強者などでは出場すらできん。著名な流派や国から選りすぐりの腕利き一人・二人が選ばれて出場することになる」


「しかし私は個人として出るのでは?」


「よっぽどでも各大会に一人しかおらんが、そういう者もいる。まず図抜けた実力を持っているため、さっさと優勝して一抜けよ。そんな化け物を簡単に倒す、あやつらのような例外もおるがな」


 憎しんでいるような、懐かしんでいるような、面白がっているような、そんな顔を浮かべながら師匠は言う。

 オーラが半端ないよ。

 実力ではともかく剣の腕ではまだまだ敵わない。

 年月の重みが違うよ。いくらスパルタだったからと言って習い始めてから2桁も行ってない剣術では勝てないね。


 メイスやアルン…特に後者は私などより遥かに早いスピードで技術が進化して行っているが、それには天賦の才も多大に影響しているのは認めよう。

 私には指導の才もあるようだし、それもあるんだと思う。

 うん、私が思っていたのより遥かに才能はあった。

 しかし、初心者特有の急成長があるからというのもある。


 つまり私に才能がないわけではないのだ。

 むしろかなりある方だと思う。

 他の大天才たちのせいで完全に隠れているだけで。


 …私の力は圧倒的な暴力だ。際物めいた技などなくても山を崩せるんだからそれでいい。

 ステータスを上げて物理で殴るだけで良い…実に単純明快だ。


「あやつらにだけは…神景流にだけは負けてくれるなよ…」


 怨念の籠もった目つきを込めて虚空を見上げる師匠。

 こんな姿は見たことない。

 よほど神景流とやらがトラウマなのだろうか?


「どんな相手が来ても両断する自信はあります。まあ、優勝をかっさらって行きますよ」


「…いや、すまん。こんな姿は弟子に…いや、娘に見せるべきではなかったな」


 バツが悪げに師匠が笑う。

 幼女相手にボディービルダーでも絶対にありえないほどのトレーニングを課してくる鬼師匠ではあるが、なんだかんだで私を含めた子どもたちを愛してくれているのは知っている。

 ただちょっと不器用で、何でもかんでも自分基準で設定してしまって、本来の歴史なら子供がその重圧に潰れるというだけ。

 育て方を間違えて盛大に失敗しているというだけで、根はいい人なのだ。


 …あれ?やっぱり子供を作るべきではないダメ人間な気がしてきたんだけど気のせいかな?


 まあそれはともかく。


「いえ、大丈夫です。神景流が何するものぞ、深刀流こそが天下無敵の流派なり!…ってね」

  

 歌舞伎っぽくキメてみたけど師匠はツボに入ったのか腹を抱えて笑っている。

 心外だ。


「くくく、はははは!お前はどこでそういうのを覚えてきたのだ!幼子が決めてみても格好などつかぬぞ。それに何処か、やられ役の風格が漂っておる…くくくっ…」





「あっ!師匠!今日も修行をつけに来てくださったのですわね!」


 アルンは最近、やたらと良くなつくようになった。

 私と合うたびに喜色満面に寄って来る。

 自分に尻尾を降ってくる犬は可愛いとは言うが、私もアルンのことは可愛い。

 もちろん、恋愛的な意味ではないけど。

 

 なんでこうなったのか?それは私のつける修行により力が日増しに上がっていくからだろう。

 師匠として信用し始めるきっかけがそれで、だんだんとわんこみたいになつき始めた。

 どうやら私には師匠としての才能もあるようだ。

 彼女自身の才能や初心者特有の急成長も大きいけど。

 

 慈眼流の方々にもしばらく稽古をつけたところ、メキメキと実力が上がっていたし。

 私には天下に轟くような技術はなくても、他人の改善点はものすごくよくわかるんだと思う。

 自分のことになるとそこまではわからないが。


「汗をかいていますわね。このドリンクでも飲んでくださいまし!」


 アルンからドリンクを受け取り、目を閉じてゴクゴクと飲む。


 目を開けると背を下げて上目遣いで欲しがっていた。ご褒美ということだろう。

 …あの私を拒絶しまくった一匹狼精神の塊だったアルンはどこに行ったんだろうか。


 仕方ないから頭を撫でることにした。

 

「〜♪」


 目を細めて気持ちよさげにしている。

 なんというか、本当に犬みたいだな。かわいい。

 

 その後はそれまでのやり取りが幻であるかのように厳しい修行をつけて帰った。

 最近、二人がアルンを厳しい目で見つめている気がするが…まあ、アルンもアルンで二人を「う〜っ」って威嚇していたからどっちもどっちだろう。

アルンがリルになつき始めたきっかけを少し補足しました。

あと例のスラングを削除。タイトルが意味不明になったかも。

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